雨が降った

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雨音で目が覚めた土曜日の朝。一週間のうちで一番好きなのは土曜日。その土曜日に雨に降られると、気持ちのやり場が無い。とぼとぼとベッドを抜け出すと、尻尾を私の膝下に絡みつける猫。猫も雨降りが嫌い。たとえ寒くても太陽の当たるテラスに佇んで外の様子を観察するのが好きだから。この雨は昨晩からの雨だ。女友達ふたりと家の近くの店で夕食を共にして、散々お喋りを楽しんで、さて、もう帰ろうかと席を立ったところで酷い雨降りなことに気が付いた。私達は雨の中を蜘蛛の子が散るように解散して、家に帰って来たのはもうすく零時という頃だった。それにしても全く久しぶりだった。ひとりとは1年振りで、もうひとりとは2年振りだった。こんなに長く会わないなんてと、彼女たちからの幾度かの誘いに乗らなかった私は散々責められた。お喋りが好きな私をさらに上回る彼女たちのお喋りに、私は目をぱちぱちさせながら、耳を傾けた。皆、それぞれの場所で頑張っている。色んなことに囲まれながら、色んなことに奮闘している。自分の人生を自分の思う方向に動かすべく、手探りで前進している彼女たちの話を聞くのはなんと楽しいことだったろう。時々ふいに話を振られて、ねえ、あなた、あなたはどうなのよ、などと訊かながら。

昼頃、ようやく雨が止んだ。クリーニング屋さんに預けていた物をとりに行ったが、鼠色のシャッターが早くも下ろされていた。土曜日の閉店時間にはまだ15分もあると言うのに。何か急用でもあったのだろう。仕方がない、と外に出たついでだ、と道の向こう側のバールに入った。カップチーノひとつ。注文すると熱いのが出てきた。イタリアでは熱いカップチーノに出会うことはあまりない。多くのイタリア人が猫舌だからかもしれない。だからいつも注文時に言うのである、カップチーノ、ひとつ。熱いのをお願いね、と。でも、このバールで其れを言う必要はもう無い。私が何時もそんな風に注文していたから、言わずとも熱いカップチーノが出されるようになったのだ。常連ではないけれど。週に一度程度の客だけど。こんな注文をする人が他に居ないから、覚えてしまったに違いない。勘定を済ませてバールを出たところで、隣の店の主人に声を掛けられた。隣の店は石鹸屋。私はこの店の石鹸が大好きだ。初めて彼が作った石鹸を使ったのは、何時だっただろう。兎に角、相棒が家に持ち帰ったのが始まりだった。12月の、もうじきクリスマスと言う頃で、ざらざらした藁半紙のような紙に丁寧に包まれたものを手渡され、其れを開いてみたら薄紫色の石鹸が現れた。ラヴァンダの石鹸だった。どうしたのかと訊けば、バールの隣に出来た石鹸屋に貰ったのだと言う。ささやかな贈り物、とのことだった。試してほしい、そして感想を聞かせて欲しいとのことだった。あれから私達は、彼が作った石鹸の虜になって、バスルームと、キッチンにひとつづつ置くようになった。何しろ手に優しくて、洗い上がりの手がすべすべするのも嬉しかった。種類が沢山あるので選ぶのも楽しかった。先日一番気に入りのラヴァンダの石鹸を求めて店に行ったところ、生憎売り切れだった。どうやらファンが沢山いるらしい。それでは何にしようかと店の主人に質問しながら見ていたところ、優しい黄色の石鹸に目が留まった。何かと訊けば、カモミッラだった。鼻を近づけてみたら優しいカモミッラの匂いがした。それでカモミッラを購入した。帰り際に、後で感想を聞かせてほしいと言われた。あの日、相棒が初めて石鹸を貰った時に言われたみたいに。さて、店の主人はバールから出てきた私に案の定訊いた。やあ。カモミッラの石鹸はどうだったかい。それで、手に優しかったこと、泡切れがよく、洗い上がりの肌が柔らかくて、ラヴァンダと同じくらい気に入ったことを述べると、とても満足げだった。良い週末を。挨拶を交わして家に帰ってきた。今日はもうどこへも行きたくない。それで写真の整理をしていたところ、こんなものを見つけた。パリの写真。長いこと憧れながら、こんなに近い場所に存在しながら行けなかったパリ。急にパリの石畳を歩きたくなった。がたがたで時々躓きながら歩いた道。何時か姉を連れて行こうと思いながら歩いた街。昔姉が小さな私を携えて歩いたように。ふたりで、何か話をしながら。


風邪を引いたらしい。昨晩雨に濡れたせいだろうか。今夜は早めにベッドに潜ることにしよう。




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コメント

No title

yspringmindさん、こんにちは。
>パリの石畳を歩きたくなった。がたがたで時々躓きながら歩いた道。

出ました!パリ!ムフタ―ル。エー、でも良いですかぁ?パリ。きったないですよ。夫が昨日アパート探しにわざわざTGVでパリに行って来ましたが、予算内でなかなか良い所が無いそうです。今の所位広さでバスタブがあって、というのが。それで道路で犬の大きいのを踏みつけてしまったらしく、アーヤレヤレだったそうです。汚い街、パリ。私はおしゃれではないし、パリコレにも興味はないですが、、混沌としているパリは嫌いではありません。ところで午前様迄お出かけだったのですね。寒いですから、風邪を引きますよ。具合は良くなられたでしょうか。お大事に。ビザの関係で12月から日本ですが、1月1日からパリです。アパートが決まったらいらしてください。是非とも。

2016/11/20 (Sun) 12:52 | Tsuboi #- | URL | 編集
Re: No title

Tsuboiさん、こんにちは。パリは犬の糞が多いと聞きますが、私はそれほど気になりませんでした。其れは多分イタリアの何処の街も同じような感じだからだと思います。例えば私の大好きなリスボンやブダペストもごみや犬の糞が落ちています。けれども私は気にならない。多分欧羅巴の都市が多かれ少なかれそういうものなのだと思います。
久しぶりに夜に出掛けて、すっかり遅くなってしまい、しかも雨に降られてしまいました。私は年々夜遅く出掛けるのが億劫になっていまして、とても付き合いが悪いみたいです。風邪を引いたので、あーあ、出掛けなければよかったなー、と愚痴ってしまいました。でもね、誘ってくれる友達が居ると言うのは嬉しいものです。しっかり寝たら、良くなりました。風邪はやはり初期の手当てが肝心なようです。

2016/11/20 (Sun) 19:05 | yspringmind #- | URL | 編集
No title

yspringmindさん、こんばんは!
初めましてkatterと申します。
fc2足跡から、こちらのブログへお邪魔しました。

以前、ボローニャ近郊に住んでおりました。
石畳の径やイタリアらしい建物など、
お写真を見ていてとても懐かしい思いがしました。
今の季節、晴れ間より霧の出る日が多くないでしょうか?
私は車の運転中、濃霧で前方が見えず何度も冷~っとしましたよ。、

イタリアから移り、只今はスウェーデン暮らしです。
10月より既に寒~い毎日、心の中まで明るい気分にさせてくれた
ぴか~んと輝くイタリアの太陽が恋しくなりません。

季節の変わり目、どうぞご自愛くださいませ。

2016/11/20 (Sun) 20:06 | katter #o25/X8aE | URL | 編集
Re: No title

katterさん、こんにちは。はじめまして。 ボローニャ近郊に住んでいたんですか。まあ、それは!それではボローニャなどですれ違ったこともあったのかもしれませんね。最近は霧が濃いです。湿度が高いせいでしょう、キリが濃くて一寸先が見えないことも多々あります。運転。霧の濃い日の」運転は本当に怖いですね。
ところでスェーデンの生活は如何ですか。少し憧れがあります。いつか一度は訪れたいと願っています。しかし冬が長いですね。その分夏の喜びは大きいのだろうと想像していますが、その辺どうなんでしょうか。
これからもお付き合いお願いします。

2016/11/21 (Mon) 21:11 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは。
なんだか、楽しそうな通りの写真ですね。
人と話すの楽しいでしょうね。

2016/11/22 (Tue) 02:09 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。これはサンジェルマン界隈の小路、だったと記憶しています。そういう小路がパリには沢山ありました。

2016/11/26 (Sat) 20:48 | yspringmind #- | URL | 編集

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