金曜日の晩

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空気が冷たい季節の月はひときわ美しい。だから数日前の満月を楽しみにしていたのに、あいにくの曇り空で何処を探しても月の姿はなかった。残念だなあ、と溜息をついたのは私だけではなかったの違いない。

寒い日はさっさと家に帰るに限る、というのは昔からの私のポリシー。母が昔言っていた、強い風の吹く晩はさっさと寝床に着くのが良い、というのとよく似ている。これが母娘というものなのだろう、と最近の私はよく思う。母と私は似ていないとずっと思っていたけれど、小さな色々が似通っていて、思わず笑いが零れてしまう。今日初めて、ユニクロのヒートテックを着た。この夏日本に帰った時に購入したものである。噂には聞いていたけれど、まさかこれほど着心地が良くて暖かいものだとは知らなかった。今日は一日寒いと言わなかった。このところ連日寒い寒いとぼやいていた私は、笑いが止まらない。こんなに良いものだったなら、何故もっと前に試さなかったのだろう。しかもこんな手頃な値段で。と、今日は一日、ユニクロのヒートテックを宣伝しながら歩き回っている。それにしても11月とはこんな気候だっただろうか、もう冬になってしまったのだろうかと途方に暮れる。あっという間に夜になる。仕事帰りは、居残りなどしていないのに真っ暗だ。
昨日の帰り道の途中で携帯電話が鳴った。記憶にない電話番号だった。出てみるとTappezzeriaの奥さんからだった。Tappezzeriaというのは、日本語に訳せば内装の店とでも言おうか。カーテンを縫ってくれたり、ソファや肘掛椅子の布や革の張り替えてくれたりする店で、そうした店を営む人たちの職人芸はお見事としか言いようのないくらい素晴らしい。私の友人のルイージもそうした職人で何かにつけて頼んでいたが、数年前に引退してしまった。それで数日前の夕方、バスを途中下車して旧市街の小さな店に立ち寄ったのだ。カーテンを縫って貰いたかったわけでも、ソファの張替を頼みたかったわけでもなかった。革、そう、ソファと同じ色の柔らかい革でクッションを作って貰いたかったのだ。本当を言えば、恐らくそれくらい自分で縫える。但し、革があれば、の話だった。どの店に行っても革が無い。それで考えに考えた挙句、Tappezzeriaはどうだろうかと思いついたのである。店に入ったら細身の、私より少し年上風の女性が居た。前にこの店に立ち寄った時は年配の男性が居たから、彼女は彼の奥さんということなのだろう。革でクッションを作って貰いたい旨を伝えると、奥の方に案内してくれた。外からは見えなかった、仕事場。布や革が溢れんばかりに置かれていた。こんなところでこんな風に仕事をしているのかと、私は心を躍らせた。手仕事をする人々が好きだ。ひとつひとつ縫う作業を見るのが好きだ。布の張り替え途中の肘掛椅子を見て目を輝かせる私に、彼女はちょっと誇らしげだった。其れで革だけれど、何枚もの端切れがあった。これらはソファなどを張り替えた時の残りの革。だから安く作ることが出来ると言う訳だ。其の中からソファと同じ色のものを選び出したが、生憎十分な大きさではなかった。何しろ残りの革だから。それではと、全く違う色を選び出した私に彼女は目を丸くしたが、先ほどの革の上に重ねてみたら思いのほか素敵だった。感じがいい、なかなかいい、と私達は口を揃えて喜び、その革でクッションを3つ作ることになった。少し前金も残して、仕上がったら連絡をくれることになっていた。それだから電話が彼女からと分かり、もう仕上がったのかと心を躍らしたのだが、電話の内容は革の大きさが充分ではなかったというものだった。それで相談をしたいから、店に来てほしいと言うことであった。あの革。柔らかくて手触りが良くて、感じの良い色だったのに。ちょっと残念だった。さて、今日は真直ぐ家に帰りたかったけれど、そう言う訳で旧市街に立ち寄ることになった。店に行くと彼女は首を長くして待っていたらしく、さっそく例の革を広げて見せた。革の裏面に幾つもの線が引かれていて、成程、大きな四角が3つしか取れないことが其れで分かった。彼女は言った。他の革に変更するか、それとも片面をこの革にして、もう片面を別の革にするのも良いと思う、と。2つ目の案に心が動き、彼女と一緒に革を選び出した。チョコレート色の柔らかい革。並べてみたら、面白かった。これで行きましょう。私達は同意した。来週の水曜日には出来上がると思うと言う彼女に、急いでいないと言い残して店を出た。早く仕上がりを見たいけれど、別に急ぐことは無い。ゆっくり丁寧に作業をして貰う方が私は嬉しいのだから。

寒い晩。今夜は友人たちと食事に出掛ける。女同士の食事。会おうと言いながら、一年以上が経ってしまった。帰りが遅くなっても、明日は土曜日だもの。金曜日の晩、万歳。




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コメント

こんにちは、yspringmindさん。
深い色の通りですね。
歴史があるって、どういうことですかね。
人に年齢があるように、町にも年齢があるんだと最近思うようになりました。
皮のクッション。布のクッションしか思いつかなかったので、まず、そこから、皮の扱いが慣れている文化なんだなとスイッチを切り替えたのですがね。
皮は味が出るんでしょうね。

2016/11/22 (Tue) 07:16 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。ボローニャの赤です、これは。街中がこんな色で、飛行機でボローニャに戻ってくるとき上空から眺めると、ああ、ボローニャは本当に赤いなあ、と思います。ボローニャは街を歩いていると驚くことが沢山あります。古いものが当たり前のように存在しますから。そういうものを大切にする人達が居ることは私は嬉しく思います。
クッションは、私にとっても布のクッションが当たり前でした。ところが、革のソファを購入したら革のクッションが付いてきまして、なんと手入れが簡単なのだろうと感心した訳なのです。あらう必要がない。布だと汚れたり染みが出来たりで洗って乾かしてアイロン掛けをして…と手間ががかります。ところが! 革は専用クリームで手入れすればいいだけ。とても手入れが楽で、付属についてきたクッションがボロボロになったので、今回クッションを作ることになりました。今回の革はとても柔らかくて、前回のよりも使い心地がよさそうです。月曜日に店に引き取りに行く予定です。

2016/11/26 (Sat) 20:58 | yspringmind #- | URL | 編集

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