土曜日

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週末の喜びを言葉にするのは難しい。嬉しいとか何とか、そんな言葉では言い足らない。ほんのり微笑んで、はーっと安堵の溜息をつくのが、私にとっては一番ピタリとくる表現方法である。何もいらない。と言いながら、美味しいワインを夕食時に頂くと、気分がさらに盛り上がる。そういう人、世の中には沢山いるに違いない。昨晩はどんな風にして眠りに就いたのか覚えていない。気が付いたら土曜日の朝になっていた。カーテンの向こうには快晴の空。黄色く色づいた樹木の葉が、金色に輝いて見えた。そうか、晴天なのか。本当ならばもう少しうとうとしていたかったけれど、晴れた空に誘われるようにしてベッドから抜け出した。猫が窓辺に座ってお喋りをしている。恐らくガラス窓の向こうに鳥が居るのだろう。と思って覗いてみたら、窓のすぐ近くの木の枝にリスが。この界隈にリスが居ると耳にしたことがあったけれど、確かにこの辺りは住宅街にしては樹木が多いけれど、まさか、リスが居るなんて。へええ、リスが居るんだね、と猫の背中を触ってみたら、嬉しいらしく、ごろごろと鳴らした喉の振動が背中を通って私の手にも伝わってきた。私も嬉しい。今日は快晴の土曜日。

平日外に出ているので出来ない事が沢山ある。小さなこまごまとした雑務。しなければならないこともあれば、したい事もある。今日はじっくり向き合おうと思っていたのに、太陽と軽快な空気に誘われて外に出た。こんな日に家に居るなんて、勿体なさすぎる、と自分に言い訳して。雑務は午後にでもすればよい。
13番のバスが旧市街に入って、あっと目を疑った。骨董品市が立っていた。其れでバスを降りるとサントステファノ広場に向かった。いやなに、別に予定などないのだから。外に出て太陽の下を歩くのが目的だったのだから。しかし不思議であった。骨董品市は月の第2週末に行われるのが通常である。それに店の数も少ない。古書を扱う店の人に訊ねてみたら、今日は特別に骨董品市が立ったのだと言う。参加したい店だけが、参加できる店だけが集まったから、こんなに少ない、と笑いながら教えてくれた。私はビンテージのアクセサリーの店を見て、古美術の店を眺めて、古いボタンを置く店を眺めて、広場を出た。店が少ない割には人が多くて疲れてしまったからだった。一休みのカッフェ。広場の近くのいつものカッフェは骨董品市に集まった人達で混み合っているので、思い切ってずっと向こうまで足を延ばすことにした。ガンベリーニだ。面白いことに、秋冬になるとこの店に来たくなる。春も夏も足が遠のいていると言うのに。理由はマロングラッセかもしれない。この店のマロングラッセが大好きだから。店の雰囲気が少し変わっていた。中で働く男性が制服姿なのは今に始まったことではないけれど、どこか違う・・・分かった。眼鏡だった。偶然なのか、それともこれもまた制服の一部なのか、店で働く男性が皆眼鏡を掛けていた。同じ眼鏡ではないけれど、どれもがいい感じの、その人に合った眼鏡だった。何時の頃からか、私は眼鏡を掛けている人がすごく気になる様になった。それは私自身が、眼鏡好きだからかもしれない。必要で眼鏡を掛けるだけでない眼鏡。同じ掛けなくてはいけないならば洒落ていて自分に似合うもの、自分の魅力を引き出すような眼鏡のほうが良い。私がまだ子供だった頃、眼鏡は顔の一部です、とテレビの宣伝で言っていたけれど、大人になって成程と思うようになった。確かに眼鏡とは顔の一部なのである。だから、単に見るためだけのものでも良いけれど、もし気持ちと予算に余裕があるならば、洒落ている物に越したことは無い。此処で言う洒落ている物とは、決して飾りがあったりアピールの強いものではない。洗練というのか。シンプルでその人にぴたりとくるもの。角ばったフレームもあれば、湾曲したフレームもある。メタル製、セルロイド製などの選択もあれば、更に色の選択ももある。眼鏡とは、興味を持ち始めるとかなり深みにはまるものだと私はここ数年思っているのだけれど、そうして深みにはまって選び出した眼鏡とは、大抵その人を魅力的に見せてくれるものなのである。それにしても、皆良く似合っていて関心だった。もしこれが店のポリシーで眼鏡を掛けさせたのだとしたら、大成功と言ったところだろう。マロングラッゼを口に放り込んで幸せを感じている私の横には、白いものが沢山混じった巻き毛の男性客。彼もまた黄色いセルロイドの眼鏡が良く似合っていて、彼の眼鏡をまるで美しいものを見るような私の視線に気をよくしたか、手に持っていたシャンパングラスをちょいと私の方に掲げてくれた。乾杯、と。何に乾杯かな。美しい黄色の眼鏡に。美味しいマロングラッセに。それとも良く晴れた美しい土曜日に。

家に帰って来たら足が酷く痛かった。最近買い求めた、新しい靴のせいかもしれない。足にまだ馴染んでいないから。それとも人混みを避けながら歩いたからだろうか。何にしても足が痛くて、雑務をする気分になれない、そんな土曜日の午後。




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コメント

No title

素敵な土曜日ですね。

私も、角がぐるりとガラス窓になっているカフェに 
この数年立ち寄っています。そこで見かける常連達は
知人じゃないのに親しい気持ちになっています(勝手に。。)
これからの季節は特に、週末のカフェが貴重で楽しみです。

此方の人は、顎の線が美しいせいかしら眼鏡が似合いますね。
シャンペングラスをひよいとするなんて、流石イタリア男性だわ~
と読みました。此方だと、せいぜい頷くぐらいが関の山かも 笑

いつも、情景が心に沁みる記事に魅せられています!

2016/10/23 (Sun) 14:31 | スプーン #EQkw1b1A | URL | 編集
Re: No title

スプーンさん、こんにちは。遠くに足を延ばすことも無ければ、友達に会ってお喋りをするでもない、平凡な土曜日ですが、しかし土曜日はそんなカタチであってもやはり楽しくて嬉しいものですね。
私が行く先々の気に入りの店は、やはりスプーンさんが立ち寄る店のように知でもないのに親しい気分で、偶然そこに居合わせた時間を分かち合えます。勿論、自分が話をしたいからなのですが、ま、類は友を呼ぶのでしょう、向こうも話したがり屋で、通りすがり同士なのに、ああでもないこうでもないと話し合うのです。こういう場所があるのは、本当にうれしいことだと思います。
欧羅巴人は本当に眼鏡が似合いますね。でも、それが顎の線が美しいからだなんて、今まで考えたこともありませんでしたからあ、ふーん、成程ねえ、と感心しました。週末は昼間にも立ち飲みシャンペン。これも実に欧羅巴的なことのひとつですね。

2016/10/25 (Tue) 23:06 | yspringmind #- | URL | 編集

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