小さな祈り

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日本から帰ってきて、近所は俄かに日本ブームだ。隣の奥さんはクリスマス休暇に家族みんなで行ったタイで、日本のコスメ製品を手に入れたらしく、それ以来ずっと入手する方法を探していたらしい。それで日本であれもこれも買ってきてほしいと頼まれて、やれやれと思っていたれど、それらを届けたら大そう感謝されて、とても良いことをしたような気分になった。近所のバールのペルー出身の若者は、伯母さんが日本人で名古屋に住んでいるらしい。日本から戻ってきた私を見つけて、あれこれと質問が止まらない。来年日本に行きたいんだ、と鼻息が荒く、そう言っては質問が続くのだ。それじゃあ、資金を貯めなくてはね、と促す私に、相棒が横から口を挟む。そうさ、彼女は持って行ったお金を残らず使ってしまったくらいなんだからね。これには返す言葉がない。そうだ、私は確かに持って行った小遣いを全て使い果たし、其の上、クレジットカードも存分に使ったのだ。いや、なに、持って行った小遣いが少なかったからなのだけど、相棒は全然同意できないらしい。たまには良いでしょう、と言っても少しも同意して貰えない。困ったものである。それにしても私の留守中に相棒が存分に触れ回ったらしく、私が日本に帰省していたことは誰もが知っていた。だから会う人が皆、やあ、楽しい帰省だったかい、家族は元気だったかい、美味しいものを食べてきたかい、と興味津々で、暫くはむやみに外を歩かないほうがよさそうなのである。

久しぶりにボローニャ旧市街へ行った。いつもより涼しいかったから。そして髪をどうにかしようと思って。ところがいつもの店は夏休みで、暫くはぼさぼさの頭で我慢せねばならなくなり、全くがっかりだった。仕方がないなあ、と旧市街を少し散歩してみることにした。日差しは強いがすでに夏の終わりの色である。何がどうと言うのでもないけれど、夏の終わりの色は、ほんの少し寂しく、そして私達をほっとさせる。思い存分焼けた肌を自慢げに見せている人々。イタリアの人達はどのようにしたら焼けた肌を美しく見せることが出来るかをよく心得ている、と何時も夏の終わりを迎えるたびに感心するけれど、シンプルなシャツを無造作に着てみたり、珊瑚色のシンプルな、膝上丈のドレスを着たりと、見せる鍵はシンプルらしい。涼しいと思って家を出たが、次第に気温が上がってきて、夏は終わっていないよ、と言っているかのようだった。暑さを逃れるために市庁舎の中庭へ。此処はいつも人が少なくて、少し涼しい気分になれる。生憎中庭の椅子と言う椅子は先客で塞がっていたけれど、誰が大きな声で喋るでもなく、本を読んだり、回廊を眺めたりして、実に良い空気が流れていた。人々を邪魔しないように私はその辺りを歩いていて、ふと足を止めた。昔は、誰かが結婚すると、結婚の報告が掲示されていた場所。今はそうした習慣は無くなったのか、流行りのプライヴァシーという奴なのか、その場所には昔の写真が飾られていた。何の説明もない写真。でも、一様に古く、主に子供たちが写されていた。観始めたら止まらなくなった。どれもとても良くて、誰が何時、何処で、どうして撮ったものなのか知りたくてたまらなくなった。何時か訊いてみなくては。しかし、昔の習慣というものは、いつもこんな風に知らないうちに消えてゆく。昔はそれが当たり前だったのに、新しい時代にはそぐわないからと言って。改善というものなのかもしれないけれど、少し寂しいような気がした。

イタリア中部で起きた地震。自分が住んでいる町でないからと言って無関係でいられる筈が無い。自然の怖さ。何処で起きても不思議ではない天災を私は恐ろしく思う。瓦礫に埋まっている人々を探し出す作業に追われている。瓦礫の下でまだ息をしているかもしれない人々を独りでも多く救い出す為に。早く、早くと、誰もが心から祈っている。




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コメント

こんにちは。
周りがにぎやかでなによりです。
雰囲気がよくわかりました。

地震は長い年月建っていた建物を壊しましたね。耐震工事が出来ていないとニュースで言ってましたが、なんか違うなと思いました。

2016/08/26 (Fri) 08:26 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。イタリアの古い建物は半端でなく古くて、耐震技術なんてものはその時代には存在しなかったようです。特にこのイタリア中部の石造りの建物。これから耐震についてイタリアは深く真剣に考える必要がありますね。

2016/08/26 (Fri) 18:52 | yspringmind #- | URL | 編集

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