土曜日なのに早起き

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土曜日なのに早起きしたのは、髪を切りに行きたかったからだ。長くもない髪を何故切る、と相棒はいつも不思議がるけれど、人にはそれぞれ丁度よい長さというものがあって、それに鋏を入れて貰ってさっぱりしたい気分の時もあるのである。特にこの季節。子供の頃は髪を切るのが嫌いだったが、何時の頃からか髪を切って貰うために店に足を運ぶのが大好きになった。美しい鋏さばき。私の髪を切ってくれるパトリツィアの鋏を持つ手は、決して迷うことは無い。どんな風にしたいのかと毎回訊かれるけれど、これは単なる儀式でしかないのだ。何故なら私は何時だって大まかな長さを言うだけで、後はあなたのセンスに任せるから、と言うからだ。あなたのセンスに任せると言われて、彼女は俄然張り切り、夢中になって私の髪を切る。だから切り終えた時の双方の喜びは大きい。仕事を終えた彼女の満足感。そして私が気に入ったと知った時の、彼女の喜んだ顔を見るのが私の喜び。私達はうまい具合になっているのだと思う。彼女の店はいつも混んでいる。予約を受け付けないから、順番待ちが必須だ。たまにすいすいと順番が回ってこようものならば、偶然隣り合わせになった見知らぬ客と顔を見合わせて、今日はついているわね、と言葉を交わすほどである。毎年恒例で6月から8月の土曜日は14時で店が閉まるのは、働いている人達も、こんな良い季節は早く仕事を終えて海や山へ行けるようにとの配慮だろう。そんな配慮には同意するが、それによって土曜日だと言うのに早起きをして髪を切りに行かねばならない。そうまでしても彼女の店に通うのは、私が彼女の腕とセンスを信頼しているからとしか言いようがない。
店は大変混んでいた。先客が沢山いて、全くびっくりだった。自分では買うことのない、店に置かれたファッション誌に手をのばしてページを捲っていたら順番が回ってきた。髪を切って貰いながら鏡越しにパトリツィアと話しているうちに、ふと目に留まったのは、私のことを遠くから見つめている、長身の、年のころは私よりも一回りほど若いに違いない、1歳くらいの子供を連れた女性だった。何処かの良家の奥さんと言っ風で、ベイビーシッターを連れてきているようだった。ベイビーシッターと言うよりも、子供のお世話係と言ったほうがぴったりきそうな感じの。兎に角彼女は私をじっと見ていた。しかし視線は決して鋭いものではなく、そして好奇心のそれでもなかった。何か私のことを懐かしむような。髪を切り終えてさっぱりした私は、彼女に声を掛けてみた。何処かでお会いしましたっけ? そんな風に言ったのは、私は彼女の顔を見ているうちに、さて、何処かで会ったことがあるような、と思い始めたからだった。すると彼女は、うーん、と一瞬考えて、分からない、分からない、でも、あなたのことを知っているような気がすると言った。私達は互いをまじまじと眺め合い、確かに何処かで会ったことがあるような気がする、初めてではないことを確認して、しかしどうしても分からなかった。何時。何処で。私は、分からないわ、と笑って、しかし何となくいい感じがするので、またここで会いましょうと言って店を出た。不思議なこと。昔、同じようなことがあった。でも、あの時は、私だけが思い出せなくて相手は私に偶然再会できたと喜んだ。あれは全く申し訳なかった。つまらないことやどうでも良いことは、こんなに沢山覚えているのに。

マッジョーレ広場は、10日後に始まる夏の夜の映画会の準備に忙しい。52夜上映するらしい。今年はどんなものを上映するのだろう。楽しみにしている人が沢山いる筈だ。大きなスクリーンが備え付けられて、椅子を沢山並べたら、準備完了。ボローニャの夏の始まりだ。




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コメント

こんにちは。
知らない人に知っているような気がすると言われるのは、とってもふしぎですね。そんなことがあるのですね。確かにあるのかもしれませんね。
今日は親戚で集まる行事がありました。
親戚はとうぜんですがどこか似ていて、いいものです。ずっと知っている安心感があります。年を経るほどありがたいなと思います。

2016/06/12 (Sun) 09:28 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。知らない人に知っているような気がすると言われるのは、実はこれが初めてではありません。時々こんなことがあるのです。面白いですね。案外本当に何処かで遭遇していたのかもしれません。話をしたことは無くても、同じ場所に居て、顔を覚えていたとか。
親戚の集まり。いいですね。私には親戚がとても少ないので、そういうことにちょっと憧れます。

2016/06/12 (Sun) 23:07 | yspringmind #- | URL | 編集

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