祝日

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期待を裏切らなかった空。からりと晴れ上がって、祝日に相応しい空。窓を開ければ風は冷たくて、4月下旬らしからぬ冷え込みだけど、しかし空が明るいと言うのは何と気持ちが良いことだろう。鳥が囀り、若葉が風に揺れてきらきら光る。その様子をカーテン越しに眺めながら、良い季節になったものだと思う。たとえ風が冷たくても、この光の強さ、空の青さはこの季節ならではのものなのだ。

10年前の今頃なら、直ぐに山と車を走らせただろう。ボローニャ市街より5度ほど気温が低くてしっかり着込まねばならなかったけれど、ようやくやって来た春を見つけに。友人は標高800メートルほどのところに住んでいた。彼がちょっとした土地に古い家が建っていたのを驚くほどの安価で手に入れたのは、15年くらい前のことだ。100年程前に建てられたその家は壁こそ分厚くて頑丈だったけれど、上の階はひとりでも上がろうものなら揺らいでいて、大変危険なものだった。存在する古い家を壊して建てかえるには村の許可書が必要だった。それを手に入れるまでに2年かかった。元々職人で芸術肌の彼は、肝心な部分は専門の職人に頼みながら、自分の感覚をどうしても組み込みたいと時間を見つけては家づくりに時間を注いだ。恋人と別れて間もなかったからから、こうした作業は余計なことを考えずに済んで、彼にはよかったのかもしれない。兎に角長い年月がかかった。家を買った、山に家を買ったから見に来ないか、と電話を貰ったあの日から数えて5年くらい掛かっただろうか。その辺りがとても曖昧なのは、兎に角年月がかかり過ぎたからで、当の本人ですらわからないと言った感じだった。家が出来上がったあの日。相棒と私が車に乗って彼の家に駆けつけると、庭に置かれたテーブルに食器がセッティングされていた。もう少しかかるんだ、今始めたばかりだから。彼はそう言いながら今炎を入れたばかりのグリルの前で嬉しそうに笑っていた。自分の家。山の暮らし。良い季節には庭で肉を焼いて、家族や友人たちと食事を楽しむ。どれもこれも彼がずっと夢見ていたもので、そのどれもがいっぺんに手に入ったことを、彼は隠すことなく、手放しに喜んでいるようだった。これから種を蒔くとも言った。そうしたらサラダ菜を書く必要が無いからね、と。トマトの苗も植えると言った。そうしたら捥ぎたてを食べることが出来るからね、と。しばしば途中経過を見学していた私達だったから、今更中を案内してもらう必要はなかったけれど、彼の望みで完成した家を見せて貰うことになった。此処が居間。キッチン。バスルーム。そして工房。上の階は屋根裏部屋で仕切り無しの広いスペース。此処が彼の部屋で寝室だと言った。彼の拘りが形になった家。彼らしい家に私達は手を叩いて喜び、彼はとても嬉しそうに幾度もありがとうと言った。やっと肉が焼き上がって、私達はまだ肌寒い春の山の昼食会を堪能した。お代わりの肉はいくらでもあったし、お代わりの赤ワインも充分あった。お喋りは限りなく続いた。話すことならいくらでもあったからだ。
あの後、彼はいくつか恋をした。最後の恋は複雑で、その恋から私達は会わなくなってしまった。彼の恋人が私達の友人関係を複雑にしてしまったからだ。彼女は私達が兄弟姉妹のように仲が良かったのが、嫌だったのかもしれない。それからも私達は一年に数回電話で話をしていたけれど、そのうちどちらからも電話をしなくなった。彼は今も恋人と続いているのだろうか。そんなことすらわからない。私達がボローニャに暮らし始めた頃からの古い友達。寂しいなあ。ねえ、寂しいよね。クリスマスの頃になると、復活祭の頃になると、彼に電話してみようと提案するけれど、相棒は首を縦に振らない。またいつか元に戻れるさ、と言って。

イタリア解放記念日の今日。戦争を通過した人達にとっては感慨深い一日だろう。戦争を通過した人達は、もう二度と戦争を経験したくないと願っているのに、世界の何処かではいつも戦いが繰り返されている。どうしてなのか。ああ、私には分からない。いつもの生活をいつも通りできるこの幸せを、私は手放したくないと願っている。




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コメント

いいお話ですね。

yspringmindさんへ。
こんにちは。初夏並みに暑い東京です。
いいお話でした……僕もまた次があると思いますよ。
そして、今まで以上に仲良く出来ることでしょう。
それにしても、親友が連れて来る恋人ってどうして変なのが多いのか(苦笑)
親友とその恋人も含めていい関係になることは稀です。
皆、変なヤツ連れて来る(笑)僕の中で友人の3つの法則と言うのがあって、
1つ目は、誰かに紹介して貰うとその紹介したヤツが消える。
2つ目は、グループで一気に急激に仲良くなった仲間ってダメですね。
そして、3つ目。親友は変なヤツを連れて来る……です(笑)
このお話、覚えておきます。素敵な続きをお願いしますね!

ブノワ。

2016/04/26 (Tue) 06:33 | ブノワ。 #kZkdgmoI | URL | 編集

こんにちは。
とても太い柱ですね。
きっと自分が会いたいと思っていたら、友達さんも会いたいと思ってますよね。

2016/04/26 (Tue) 07:59 | つばめ #- | URL | 編集
No title

初泳ぎもできた 海でのバカンスから 町へ帰ってくると 今朝は暖房が必要なほどの寒さです。
人との付き合いは面白いですね。私は基本的には 必要なときに必要な人と会えていると思っていますが。
さて今日はだれに会えますか?

2016/04/26 (Tue) 09:02 | kimilon #aKMr6UbQ | URL | 編集
Re: いいお話ですね。

ブノワさん、こんにちは。初夏並みに暑い東京って、それ、本当ですか。ボローニャはまるで3月初旬のような冷え込みで、早くも冬物をクリーニング屋さんに持ち込んでしまったことを心底後悔しているところです。昨日の夜中は、なんと3度まで下がりましたからね。
親友とその恋人も含めていい関係になることは稀ですか。私は皆で仲良くいたかったのですが、一体何がよくなかったのか、こんな風になってしまい残念です。またいつか、昔のように友達付き合いできることを願いますが、どうでしょうね。そんな日がくるのかしら。この話は続編が必要ですね。変化があったら、続編書きますよ。
ところでブノワさんの言う3つの法則、成程ねえ、確かにそうかもしれないと思いました。特に、一気に急激に仲良くなった仲間。これ、本当に同感です。何だか気が合うじゃないですか。

2016/04/26 (Tue) 22:38 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。彼も私達に会いたいと思っているでしょうか。そうだといいのになあ、と私は彼のことを思い出すたびに思うのです。

2016/04/26 (Tue) 22:39 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: No title

kimilonさん、こんにちは。初泳ぎ???そんなに暖かかったなんて!でも、海の休暇から帰って来たら、そうですよね、寒くなっていましたね。ボローニャも暖房をつけています。夜中に3度まで下がりましたからね。早く春に気候に戻ってほしいですね。
必要な時に必要な人と会えている・・・それは素敵なことですね。確かにそうなのかもしれません。ということは、会わなくなった彼ともいつかまた互いを必要として会う日が来るのかもしれませんね。

2016/04/26 (Tue) 22:43 | yspringmind #- | URL | 編集

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