花市へ

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春眠暁を覚えず、とは言うけれど、それにしたって目を覚ましたら、既に陽が高く昇っていて、なんだ、なんだ、今まで眠っていたのか、と太陽に叱られたような気分になった。時計を見たら随分な時間だった。昨夜は何時にどのようにして眠りに就いたかさえ覚えていない程疲れていたから、長い眠りが必要だったにしても。多分猫はそんな私を幾度か起こしに来たに違いないが、微動すらせずに昏々と眠る私を見て諦めたのだろう。窓辺に腰を下ろして外を眺めていたが、もぞもぞと身を起こす私に気が付いて、にゃーっ、と今まで聞いたこともないほど大きな声を出した。ああ、やっと目を覚ました! と言っているかのようだった。
土曜日はしたい事が沢山ある。したほうが好ましいことや、しなくてはいけないこともあるけれど、何もせずにのんびりしたい気分の土曜日もある。ゆっくり朝食をとり、身支度をして近所のクリーニング屋さんに仕上がった洗濯物を引き取りに行った。日差しは強いが風が強かった。あちらこちらで半袖の人達を見かけたが、私にはそんな勇気はまだないことを店主夫婦に告げると、暖かくなったけれど風が吹くうちは用心した方が良い、風にあたって体調を崩してから失敗したと言うのが定番だから、と彼らが返した。全くその通りだ。この季節が一番危ない。もう少し様子を見た方が良い、ということで話が纏まった。少し世間話をして、旧市街の郵便局前の小さな広場で花市が開かれているから、絶対行こうと昨日の晩は思ったけれど、今朝になったらそんな気持ちが萎えてしまったと言う私に、夫の方が言った。此処からバスに乗れば直ぐなのだから、何をぐずぐずしているんだい。折角の春なのに。折角の土曜日なのに。彼は、折角の晴天の土曜日に、釣りに行くことも出来ずに店の中で仕事をしている僕の身にもなってごらん、ねえ、君、と言いたかったのかもしれない。それで彼の言葉に背中を押されて、引き取った洗濯物を家に持ち帰ると、歩きやすい靴を履いて家を出た。

いつの間にか旧市街の樹という樹に美しい緑の葉が茂り、風にそよぐ度にきらきらと光った。若葉と呼ぶのがふさわしい緑で、しかしそれもひとつづつ微妙に違うのに気が付くと、どれひとつ、誰一人、同じなんてことはあり得ないのだと思った。それでいい。皆違うのだ。自分を尊重して貰うには、まずは他人を尊重することだ。自分が正しいと思い込み過ぎると、間違えが生じる。何時の頃からか、私はそんな風に思うようになった。樹の枝に茂る葉は、そんなことを考えることは無いだろうけれど。
広場の花市。随分の人達が集まっていた。ハーブや観賞用の花、苗木。既に気に入ったものを購入して大きな袋を手に提げている人達もいれば、私のように店から店を渡り歩いて楽しむ人もいた。店の大半を見終えて、広場から離れようとしたところで私は見つけた。ボトルブラシ、と呼ばれる花をつけた苗木だった。サンフランシスコに住んでいた人なら誰でも知っている樹。街路樹としても用いられていたのは、多分、手が掛からぬ、強い樹だからに違いない。ボトルの中を洗うためのブラシによく似た形の赤い花が、サンフランシスコの青い青い空に美しく映えて、特別な樹に思えてならなかったのは私だけではなかっただろう。庭に植える人も多かった。ハミングバードがこの樹にやって来るのを、一体幾度見たことだろう。私にとってこの樹とこの花は、一種の平和の象徴みたいなものだった。そうだ、私が平和な気持ちで暮らしていたあの時代の、象徴みたいなものだ。苗木をひとつ購入しようかと考えたが、植える場所など何処にも無いことに気が付いて、鑑賞するだけに留まった。鉢植えでは可哀想。ボトルブラシは地面に植えるのがいい。青空に向かってぐんぐん伸びてほしいから。

日差しが強くて風が吹く日。サングラスと薄手の大判スカーフ、これからの季節はこのふたつが活躍する。何時の頃からか手放せなくなった。格好が何とかと言うよりは、自分の身を守る必需品と言うべきか。




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コメント

こんにちは。
まぶしいですね。一挙に日差しが変わったようですね。
ボトルブラシの木、知ってますよ。赤い東南アジアなど南国にありそうな木ですよね。サンフランシスコの街路樹にあるんですねえ。ハミングバード、はじめて聞きます。知らないことがまだまだいっぱいあるのがうれしい。

2016/04/18 (Mon) 17:40 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。太陽が出ると目を開けて歩けないほどの眩さです。サングラスが大活躍する季節になりました。
ボトルブラシの木、知っていますか! サンフランシスコのボトルブラシの花の赤と、ボローニャの花市で見たボトルブラシの花の赤が随分違うのには驚きました。太陽や湿度などが影響しているのでしょうか。

知らないことがまだまだいっぱいあるのがうれしい。同感です。素適な感覚だと思います。

2016/04/19 (Tue) 22:19 | yspringmind #- | URL | 編集

ボトルブラシの木。
一本中心に芯が通っていて、その回りにフサフサ雄しべのような雌しべのような糸のような花がついているのですよね。
日の光に花が反応するのでしょうね。
サンフランシスコの花は朱色、トキ色のつよい花でしたか。

2016/04/20 (Wed) 10:11 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、ボトルブラシの花は、その名の通りボトルの中を洗う、一本中心に芯が通っていて、その回りにフサフサ雄しべのような雌しべのような糸のような花がついています。鮮やかな朱色で美しかったんですよ。

2016/04/21 (Thu) 22:38 | yspringmind #- | URL | 編集

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