4月の魚

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4月1日。一般的にはエイプリルフールと呼ばれているが、私はイタリア式に4月の魚と表現するのが好きだ。運悪く、魚の絵を背中に貼られてしまった人は居るだろうか。そんな間の抜けた人は、今どきいないと思うけど。それにそんな遊びをする人も、最近はあまりいないと思うけど。この頃の子供たちはそんなことをしてみようなどと思いつくこともないのかもしれない。私は、魚の絵を人の背中に貼りつけこそしなかったけれど、ちょっと悪戯めいたことを言ってみた。ひとつは、朝早々、年上の女性の同僚に。昨日、旧市街でびっくりするほどいい男を見ちゃったのよ。と興奮して報告する私に、彼女も興奮して、もっと詳細を知りたいと私に迫った。ふふふ、4月の魚よ、と笑う私に、こんなに簡単に引っかかってしまったことに恥じ入った彼女はとても可愛かった。もうひとつは昼過ぎに男性の同僚に。昨日スクラッチャーの宝くじを買ったら、なんと1000ユーロ当たっちゃって。と目を丸くして報告すると、そんな運のいいことがあるのかと興奮してもっとその話を聞きたいと言わんばかりに彼は顔を輝かせた。ふふふ、4月の魚なの、と笑う私に、そうだった、今日は4月の魚だった、と罠にはまったことに落胆した彼の後姿がとても面白かった。私はこんな風に単純に話を信じて興奮する人が好きだ。純粋と言うか、何というか。ふーん、などと言って無関心な人が多いこの世の中で、こんな風にいっしょに話に乗ってうきうきしたり、わくわくしてくれる彼らは、とても人間味溢れていると言えるだろう。来年は、多分私の番だ。私は彼らに引っ掛けられるだろう。

先日、ミケーラから2本の赤ワインを貰った。ミケーラと言うのは、ピアノーロの家を売ってから、今の家に納まるまでの約2年間を過ごしたアパートメントの住人だ。彼女は30代後半、若しくはやっと40代と言ったところで、夫と10歳くらいの息子との3人暮らし。長いことこの建物に住んでいて、とても顔がきく。公務員などと地道な響きの仕事についているが、仕事へ行く装いは実に軽快だ。ファッション雑誌から抜け出てきたような雰囲気、といったらぴったりくる。時々自分の母親に息子のことを頼んで夫と二人で出掛けるが、その装いもまた目を見張るものがある。黙っていたら子供がいるなんて誰が想像することが出来よう。赤いエナメルの、踵の恐ろしく細い靴、細くて長い脚に良く似合う細身のパンツ、光沢のあるコート。お金を使いすぎると周囲の年配の人達は言うけれど、私は彼女のように楽しむことを忘れない女性が好きだ。我慢や節約ばかりではつまらない。思い切り働いて、思い切り楽しむ。其れで良いではないか。兎に角そのミケーレが相棒に、このワインは特別だ、と家に持ち帰るように言ったそうだ。どうしてワインをくれたのかは分からない。もしかすると私達が赤ワインを好きなことを知ってのことかもしれなかった。私とミケーレの関係は限りなく薄い。一度だけ彼女の家に行ったことがある。それは彼女が、私たち夫婦に彼女の家を買って貰いたいからだった。私達がこの近辺で探していると情報を耳にしたからだった。彼女の家の中は、私達が借りている家と同じ建物内に在るのかと疑う程、素晴らしかった。建築家に頼んで内部を改築改装して貰ったからだったが、それにしたって分厚い板を使った縦長のテーブルや、日本の生活を思い出されるような木製の床、美しい鼠色の大理石をふんだんに使ったキッチン、鮮やかな色のタイルを壁に嵌め込んだバスルームは、なかなか趣味が良くて、恋に陥らないようにするのに苦労した。ミケーレは郊外に一軒家を持ちたくて、随分前から家を売り出していたとのことだったが、しかし改築改装工事に莫大な費用を掛けていることから、安売りは出来ない、だから確かに家は素晴らしいけれど売値を聞いて見に来た人達は諦めてしまうのだそうだ。あなた達は知り合いだから、ぎりぎりまで値段を下げてあげる。彼女はそう言ったけれど、訊いてみたら成程、これは安くない。私達のバジェットの2倍以上の値段だった。あの私達の訪問を最後に、ミケーレは家を売るのを諦めたらしい。私達は彼女の家を買わなかったけれど、でも、あの日から時々こんな風に美味しいのが手に入ったからと言って、ワインを貰うようになった。さて、そのワインは、全く美味しかった。このワインにパンとチーズがあれば他には何もいらないと言うくらい。

4月が始まった。良い4月になりますように。




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コメント

こんにちは。
yspringmindさん、おちゃめですね。
職場の人もかわいらしい。
4月の魚。すごい表現。
日本の子丑寅卯辰巳馬とも違うし。

ミケーレさんは赤いエナメルの踵の細い靴って、挑戦者ですね。公務員にして。なかなかしたくてもできないなあ。
私も今までだったら、無難な中間色をよく選んでいましたが、つい最近、赤、黒、白といった主張のある原色が単純でいいなと思い始めています。パキッと。

2016/04/02 (Sat) 07:44 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。4月の魚をこんなに喜んでいるのは私くらいでしょうか。大体皆、その日のことを忘れているくらいですからね。
ミケーレはまずスタイルが良いので何を着ても見栄えがするのですが、それにしてもセンスが良く、見るたびに、はーっと感動します。あの赤いエナメルの踵の細い靴。荒れには皆驚きました。かっこいー、と正直に称賛したのは私だけでしたが、多分みんな心の中で、羨望と嫉妬で燃えていたでしょう。公務員の中でも、保険部門の彼女。職場でも目立っていることでしょう。
私はと言えば、此れから明るくて綺麗な色を目指したいと思います。クリーニング屋の女主人に、もう、グレートブルーは充分過ぎるほど持っているから、もう買わないように、と促されました。ははは。

2016/04/02 (Sat) 19:39 | yspringmind #- | URL | 編集

クリーニング屋さん、おもしろいですね。
感心するほどのミケーレさん、そんないでたちは中身も合わないとできないですよね。服に着られてないんでしょうね。
いいなー、そういう人を見れて。
ましてや、洋服文化の国だから、自由に着こなして体型にも合うんでしょうね。

いま、まだ京都にいます。
観光客の日本のお嬢さん達がレンタル着物を着てそぞろ歩いています。派手なポリエステルのプリント柄が多いのでなかなか背格好や帯との着合わせが難しいようで着物に着られております。
女性はまだ着こなせていても、若いお兄ちゃんの着物姿ははっきり言って見ていて変です。羽織を着てぼんぼんみたいです。
しゃきっと着てほしいなあ。

2016/04/03 (Sun) 15:54 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、近所のクリーニング屋さんは全く親戚のおばさんみたいな親しみ方です。たまにいつもと違う形や色のものを持ち込むと、とても喜んでくれるんですよ。
ところで今は着物がポリエステルなんですか。びっくり。って、私が時代遅れなのでしょうか。着物を上手く着こなすのは難しいですね。女性でも男性でも、自分らしく着こなすことが出来たら、着物は本当に美しいと思います。私は着ものをもう長いこと着ていません。母は昔着ものを普通の日にも来ていましたが、彼女のしても何時の頃からか、着物を着なくなりました。ちょっと残念です。

2016/04/07 (Thu) 21:08 | yspringmind #- | URL | 編集

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