花曇り

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花曇りの月曜日。イタリアはパスクエッタで祝日。復活祭の翌日の月曜日という祝日で、実に静かなものである。話によれば国民の5割がこの連休に何処か別の街で楽しんでいるらしいけれど、相棒と私が復活祭の連休に何処かへ足を延ばしたことはこの20年の間に一度だってない。ちょっと近郊の町に足を延ばしたくらいのことで、それだって長くて半日程度の事だった。復活祭の連休は家でゆっくり。それが知らないうちに私達の間でスタンダードになった。
近所の李の花はもう殆ど散ってしまった。その代わりに萌え始めた新緑。目に痛いほどの鮮やかな緑に、私はエネルギーを貰っている。それから木蓮の花。驚くほどの満開で、大振りの花をたわわにつけた樹を見かけるたびに感激する。ああ、此処にもあった、と言うように。木蓮が日本の花だと思い込んでいた私は、ボローニャで初めてそれを見つけた時、まるで古い友人に異国で偶然会ったような気分になって、驚きで開いた口が塞がらなかった。もう少しすれば藤の花が咲くだろう。そうして季節が確実に進んでいくのだ。

確か今頃の季節だった。太陽が出れば上着のボタンを外してしまいたくなるほど暖かいが、朝晩は冷え込んで、そして日中とて日陰に入ると首をすくめるほど寒かった日、私は数か月前に路上で声を掛けて知り合ったふたりの若い日本人とヴェローナへ向かった。路上で声を掛けたと言うのはつまり、当時はまだ日本人が酷く少なかったし、そうしたごく僅かの日本人が通っているという語学学校や大学と言った場所に出入りするでもない私は、そんな風に路上で見掛けて声を掛ける以外に母国の人達と知り合う機会が無かったのだ。そうした私の行動を彼女たちは一瞬驚いたが、話しているうちに別に妙な人ではないらしいことが分かったらしく、私達は時々会って話をするようになった。私はローマの仕事を辞めてボローニャの生活を再スタートさせたばかりで寂しかった。知人はすべて相棒を通じて得た人達ばかりだった。私は自分の、相棒経由ではない自分の知人や友人が欲しかった。そういう時期だったのだ。さて、相棒がアメリカにひと月半程戻ってしまい、ひとり暮らしをしていたある日、ヴェローナに行く話が湧いて出た。ヴェローナ。行ってみたいと思ったことは無かったし、そんな町があることさえ知らなかったが、何しろ私はひとりで時間を持て余していたし、季節も良く、日帰り旅行にはちょうどよかった。それで私は彼女たちに同意して、時間が妙に掛かる電車に乗ってヴェローナへ向かった。冬がようやく終わって春の光が電車の窓の外に満ちていて、あ、エミリア・ロマーニャ州からロンバルディア州に入った、あ、あれがポー河、などと、いちいち小さな事に喜びながら。ヴェローナは、私は思っていた町よりもずっとエレガントで私好みだった。小路から小路へと渡りあるいた午後。ゆるやかに流れる河の向こうの小高い丘へと歩いて、街を眺めた。其処には先客が居た。ふたりの、40から50代と見受けられるイタリア人女性が街を眺めながら何やら話をしていた。私はひたすら眺めを堪能していたので気が付かなかったけれど、同行していたひとりが嬉しそうに言った。あの人の話し方は何て優雅なんだろう。それで耳を傾けてみれば、成程、ゆったりとした話し方で、ごく僅かにトスカーナ州のアクセントが窺えた。私達は暫く何も話さずに、そっと耳を傾けた。別に話の内容を知りたかったのではない。彼女の、あのゆったりとした話し方が、このエレガントなヴェローナに良く似合うと思いながら。
此のままボローニャの学校に残るかどうかを案じていた彼女が、その後、まるで当然とでも言うようにトスカーナ州に移ることを決めたのは、多分、あの日、あの丘で見掛けたあの女性の話し方が理由だろう。彼女のようなイタリア語を話したい。と、あの後何度も言っていたから。
結局私達は一時的な知人どまりだった。そういう関係は数えるほどあるから、別に落胆するほどの事でもない。あれからもう18年ほど経っているけれど、彼女は今でもイタリア語を話したり聞いたり読んだりしているのだろうか。過去のこととして思い出の小箱のに詰め込んだりせずに、何かの形で使っていることを私は願う。言葉とは、使わないと忘れてしまうものだから。それとも、案外イタリアの何処かの街で暮らしているのかもしれない。

雨が一粒も落ちてこない復活祭の連休。何年ぶりの事だろう。その点では、今年の復活祭の連休は全くうまく行ったと言って良い。私は家で春の掃除をしたけれど、マルゲリータ庭園ではピクニックを楽しんだ人達で賑わったに違いない。どちらも春らしい過ごし方。   そういうことにしておこう。




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コメント

No title

こんばんわ
Veronaに初めて行った時
町の中を川が流れていていいなと好きになりました 
きょうの素敵な記事を読ませて頂いて、再訪したくなりました  
外国に住んで、そこで日本人のよき友を得ることは 
全く幸せな事ですね。。。
 

2016/03/28 (Mon) 21:59 | すぷーん #EQkw1b1A | URL | 編集
No title

yspringmindさん、連休は充実されましたか。
新緑の季節、夏時間に変更され元気に沢山お出掛けしたい気持ちになりますね

京都は桜が少し咲き始めましたよ。

先週BSテレビでヴェローナで開催されてる2月11日から14日までの4日間のイベントが紹介されてました。
確かにエレガントな街の印象でした、また訪れたい街がまた増えてしまい早く旅に出たい気持ちを抑える日々です。
長ーい滞在にしたく想像ばがり描いています。

2016/03/29 (Tue) 14:35 | sumire #GYxcADzc | URL | 編集
Re: No title

すぷーんさん、こんにちは。ヴェローナの町に流れる川はアディジェ川と言ったでしょうか。私もまた街の中を川が流れている情景が大好きです。例えばブダペストなどもそんなことが理由なのかもしれませんね、こんなに好きなのは。
日本人なら誰でも良い、とは思っていないのですよ。外国で日本人の良い友を得るのは、本当に難しいですね。

2016/03/29 (Tue) 22:38 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: No title

sumireさん、こんにちは。雨の降らない連休は、宝くじに当たったような喜びでした。復活祭の連休に雨が降らないって、珍しいことなのですよ。
ヴェローナはこじんまりしていてエレガント。楚々としている、なんて言葉がぴったりです。私はあのあともう一度行きましたが、何とも気持のよい町と言った印象でした。イタリアはどの町に行っても違った味わいがあって、飽きることがありませんね。思うにこの町は、新緑の季節が似合うようですよ。本当にお薦めです。

2016/03/29 (Tue) 22:45 | yspringmind #- | URL | 編集
No title

確か、イタリア人の友人が、トスカーナ人の言葉は、とても美しいっと言っていました。あのイタリアの名俳優(別名;イタリアの北野武)ロベルトベニーニでした?彼のイタリア語は、本当にうつくしく(友人が言うには、顔はブサイクだけど)彼の話し声、ナレーションを聞くと、リラックスできて、うっとりしてしまう(しつこいけどて、彼女は、顔ではなく、彼のトスカーナの話し方がって念を押して説明していました)って、説明してくれました、彼が、アカデミー賞で主演男優賞を獲得した時に、ソフィアローレンが、プレゼンテイターでしたが、彼女が『ロベルト』って読み上げた時に、Rのアクセントが、とっても強くてねえ、あれは、南部のアクセントなのよ。って説明してくれたことを覚えています。そーゆう友人は、北部のイタリア人です。ブログを拝見して、トスカーナ人の美しいイタリア語を思い出しました。早速、あの映画La vita è bellaを、DVっで見てみようって思いました。
ところで、今回のお写真も、素敵ですね。いつか、誰かさんのように、クイズを出して、正解者の方が、yspringmind様のお写真を、頂けるってことになったら、すごいことになりそうですね(笑)

2016/03/30 (Wed) 23:38 | キャットラヴァー #mQop/nM. | URL | 編集

こんにちは。
新緑の時期素敵なヴェローナ
こじんまりしてるのですね〜
益々行きたい気持ちが高ぶります♫

2016/03/31 (Thu) 06:21 | Sumire11 #GYxcADzc | URL | 編集
Re: No title

キャットラヴァーさん、こんにちは。人から聞いた話ですが、イタリアの語学学校ではトスカーナのイタリア語が標準語とされているそうです。独特なアクセントがあるのに標準語なんて不思議だなあ、とその話を聞いた時に思ったことを今でも覚えていますが、キャットラヴァーさんのご友人がベニーニのイタリア語は本当に美しく、聞いているとリラックスできてると言ったのを知って、成程ねえと思いました。確かに南の要所要所のアクセントがとても強い南の話し方よりは、耳に優しいかもしれませんね。
クイズを出して正解者に写真を贈る、あれは写真のクオリティが高いならではの事なのですよ。私の写真と彼の写真はダイヤモンドと単なる石ころ程の差があるので、プレゼントするに至りませんね。

2016/03/31 (Thu) 23:02 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

Sumire11さん、こんにちは。新緑の季節は何処を散策しても美しいものですが、ウンブリア州とヴェローナは新緑の頃の散策に最も適しているように思うのは、私の勝手な思い込みでしょうか。

2016/03/31 (Thu) 23:05 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは。
なんともいえない風景ですね。
遠近、色の濃淡、光と陰、幅。

時間によって光が変わるんだろうなあ。
ボローニャって建物何階までって決まりがあるのかな。下の階の人は光が入らないけど、日中は電気つけるのかな。

2016/04/02 (Sat) 07:24 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、この景色は実にボローニャらしいと思います。それからこの色にしても。普段は入り口に鉄柵の門が閉まっているのですが、たまたま開いていたので写真を撮りました。
ボローニャは建物の高さは決められているのかもしれませんが、今のところ私はそれを知りません。
下の階の人は日が入らなくて暗いけれど、イタリア人てあまり電気をつけないのです。夜とて煌々と電気をつける家はあまりなく、ほんのり明るい、逆に言えばぎりぎりまで灯りを落とすのがイタリア風と言って良いでしょうか。

2016/04/02 (Sat) 19:33 | yspringmind #- | URL | 編集

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