復活祭が近づく頃

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空が晴れた日の夕方は長い。何時の間にこんなに陽が長くなったの?と空に問いかけたくなるほどに。今月最後の週末に冬時間から夏時間になれば、益々明るい夕方の時間が長くなるというものだ。夏時間。なんと良い響き。毎年この時期になると、同じようなことを、まるで初めての事のように感動する。

朝起きてオレンジを絞って飲み干すと、週末だと実感する。平日の朝はオレンジを絞る時間すら惜しいからだ。早起きして家を出るまで時間がたっぷりあるくせに、オレンジを絞る時間がないなんてと相棒はいつもからかうけれど、私は昔から起きて頭と体にエンジンがかかるまでに驚くほどの時間が掛かるのだ。軽く体を動かして淹れたてのカッフェにたっぷりの熱いミルクを注いで、それから幾枚かのビスケットに果物を少し。そんな朝食を半分眠ったまま頂いて、ああ、やれやれ、と思う頃ようやく頭がはっきりしてくる。起きてから随分の時間が経っていて、そこからが忙しく、最後はいつも駆け足で家を出る。だからオレンジを絞るなんて出来ないわ。と、反論する私に、手をひらひらさせて、はいはい、と笑う相棒。あの手をひらひらはどういう意味なのだろうか。家でしたい事は限りなくあるけれど、ひとまず旧市街に散歩に出かけることにした。空が晴れているのだから。それからこの連日、仕事帰りに用事があって夕方の散歩を楽しくことも出来なかったから。
旧市街には、もう、重苦しい冬の長いオーバーコートを着込んでいる人はあまりいない。トレンチコートや、防寒用の丈の短いジャケットを着ている。バスに乗る前に近所のクリーニング屋さんに真冬用のオーバーコートを持ち込んできて正解だったと思った。女店主はこの季節は油断がならない、雪など降ったら必要になるかもしれないのに、と気の早い私を窘めたけれど。何か春の予感がする、そんな旧市街の様子に心を躍らせた。街のショーウィンドウは流石に春物に代わっていて、鮮やかな色が通行人の目を楽しませていた。はっとするような緑。はっとするような黄色。この春はそうした色が人気なのかと思いながら、それとも春とはそうした色に心が動くものなのかもしれないと思った。黒い土から出る緑色の芽。鮮やかな黄色は春の象徴のミモザの花。私達はこうした色を見ることで、春を感じ取るのだろう。
カフェや菓子店の店先は復活祭を目の前にして、チョコレートで出来た大きな卵が飾られていて楽しそうな雰囲気に満ちていた。復活祭。この移動式祝日は実に面白い。幾度説明を聞いても今ひとつわからないが、若しくは理解する気が無いのか、兎に角きちんとしたルールがあって、ある年は3月だったり、ある年は4月だったりする。今年は3月最後の日曜日にあたり、例の夏時間と重なり合っている。春の訪れの喜びが2倍になったような感じがするのは、気のせいだろうか。
舅がまだ健在だった頃は、復活祭の昼食は家で、しかし翌日の月曜日の祝日は郊外の小さな村に車を走らせて、昔ながらの料理を振舞う田舎風レストランで昼食会を開いたものだ。いつもは酷くしまり屋で、無駄遣いのひとつもしない彼が、この日だけは気前が良かった。姑の介護をしてくれる通いの女性や、近所の仲良しなども招いて、誰が差し出す紙幣も拒んでいそいそと会計を済ましに行った。そうして軽くなった黒い革の財布を上着の胸の内ポケットにしまいながら、いやいや、昔の3倍も掛かったと言いながら嬉しそうに戻ってくるのだ。その昔っていうのはいったい何時の頃なのよ、と突っ込むのは私。それは勿論、まだイタリアがリラ通貨だった頃の事だろうと受け応えるのが、舅と同じ世代の近所の仲良しだった。骨付きラムを焼いた匂いがたまらなかった。私はラムが食べるのも焼いた匂いも苦手だった。そんな私を舅は、この日に焼いたラムを食べなくてどうするのだと、毎年同じように窘めたものだ。復活祭が近くなると舅を思い出す。私だけだろうか。それとも相棒もまた、他界してもう随分になる父親を、復活祭が近づくと思い出して懐かしむのだろうか。舅が私を嫌っていた頃は、私にとって舅は敵のような存在だった。でも、舅が私の本当の部分を知って受け入れてくれた時、舅と私は大親友のような関係になった。私は忘れない。これからどんなに年月が経っても。

今夜は月がよく見えるだろう、と思って夜空のあちらこちらを探してみたが、星は無数にあるのに月が何処にも見つからない。折角美味しい白ワインの栓を抜いて、月を眺めながら夕食を頂こうと思ったのに。月よ、何処へ行った。




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コメント

No title

良いお話ですね。
お互いを知って、それらを受け入れた時に、そして、理解しあった時に、とても強い絆が出来上がります。私自身も、経験しました。
過去のブログで、ysmaind様の舅のお話を書かれていたのを記憶しておりますが、頑固な方だったように感じておりました。だからこそ、一度、信頼関係ができた時に、その絆が強くなったんだと思います。
復活祭がやってきますが、どうか、亡くなった義父様のことを思い出し、家族の方々と、テーブルを囲み、思い出に花を咲かせてください。


2016/03/12 (Sat) 23:59 | キャットラヴァー #mQop/nM. | URL | 編集
週末の過ごし方

yspringmindさんの週末はなんだか読んでるだけで、こっちまで温かくなります。あぁあ。また明日から月曜でやになっちゃいますよね。。どいつもまだまだ寒くて雪なんかもちらほらですが、それでも時々鳥がさえずったりして、春っぽ感じがでてきました。

2016/03/13 (Sun) 18:21 | ineireisan #pNQOf01M | URL | 編集
Re: No title

キャットラヴァーさん、こんにちは。舅はボローニャの分厚い壁のように頑固でした。譲らない。兎に角譲らない。だから私も譲れなかった。何が何でも譲れなかった。でも、ある日、氷が一瞬のうちに融けたみたいに、私の味方になったんです。どんな時にも私の見方。私と相棒が口げんかしたら、必ず私の見方になってくれました。相棒が居なくても家に立ち寄って、10分ほどお喋りをするとまた家に帰っていく。へえ、親父は随分君を気に入ったんだね、あんなにつらく当たってばかりいたのにね、と相棒も驚くほど。
週とはもう7年ほど前に亡くなりましたが、舅と話したことはまるで昨日のことのように思えます。舅だけど、私の親友。そう言ったら、舅は絶対喜んだに違いありません。

2016/03/14 (Mon) 00:11 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: 週末の過ごし方

ineireisanさん、こんにちは。平日は忙しくて心に全然余裕がないので、週末は一切忘れて楽しいこと嬉しいことを考えます。それから自分への小さなご褒美も。ご褒美は、美味しいワインやチョコレートケーキ、チーズの欠片でもいいんです。なにも高価なものでなくったって。小鳥が囀ると心が躍りますね。原っぱには小さな小さな花も咲き、それから李の花が満開で春めいていますが、気温はまだ低くて油断は禁物。あと2週間もしたら春でしょうか。そちらにも同じように春がやってきますでしょうか。

2016/03/14 (Mon) 00:17 | yspringmind #- | URL | 編集

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