月曜日に雨が降った

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月曜日も雨もあまり好きじゃない。何時の頃からそうなったか。昔からそうだっただろうか。

アメリカに暮らし始めてから少しして、私はひとりの女の子に出会った。彼女はアメリカ人の血が少し入った日本人だった。アメリカ人の母親とは直ぐに別れ別れになった。外見こそ何となく外国人風だけど、彼女は英語を学ぶためにアメリカに来たのだ。英語を学んで、そしてアメリカのカレッジに通いたいと思っていた。彼女の底の方に流れるアメリカ人の血が、彼女の心をずっとアメリカの方向に向かせていたらしい。私より8歳くらい若かっただろうか。それとも、それとも。兎に角若くて魅力的で、可愛い気持ちの持ち主で、放っておけない子猫のような人だった。

どうして私のところに転がり込んできたのか。ひとり暮らしをしていた私のところに、ある日荷物を持ってやって来た。小さなアパートメントだったから、ひとりが丁度よかったけれど、何か追い返しにくい感じがあって、それじゃあ数日だけ、と部屋の中に招き入れた。彼女はひとりが嫌いだった。だから、誰かといつも一緒に居たい。それで私のところに来たと言った。その晩だったのか、それとも次の晩だったのか、彼女は最近失恋をしたのだと話し始めた。聞けば彼女と言う人は大変惚れやすい人間で、年上の私としては全く危なげで、全く放っておけなかった。彼女は多分そんな話を聞いてくれる相手が欲しかったのだと思った。始めは高いレジデンスの家賃を節約したいからだと思っていたけれど、レジデンスの部屋にひとりでいられなかったのだろう。彼女は、約束通り数日後私の部屋から出て行ったが、その数日間が楽しかったのか、時々夕方になると、それから週末になると、ふらりと私のところに来て、お喋り求めた。私の部屋には小さな、本当に小さなラジオカセットがあって、こんなシンプルなのは今どき日本の何処を探してもないよね、といった代物だったが、アメリカに来てから購入した新品だったから、それが尚更可笑しくて、よく笑いの種になった。其のラジオカセットから、多分私がよく聴いていたラジオ局、96,5だったと思うけど、古い音楽が流れてきた。私達が子供だった頃によく流れていた曲だった。彼女は、あっ、と声を上げで、その後話すのをぱたりと止めて聴き入った。この曲に、何か忘れがたい思い出があるらしかった。曲が終わると、再び彼女は何でもなかったように話し出したが、私はその時のことが印象深くて、この曲の歌詞が深く心に残った。雨の日と月曜日はいつも気が滅入る。そんな歌詞だった。

あれからだったかもしれない。私はあの曲の歌詞を口ずさんでいるうちに、本当に雨の日と月曜日には気が滅入って、嫌いになってしまったのかもしれない。そう言えば彼女もそんなことを言っていた。雨の日が嫌い。月曜日が嫌い。
沢山の恋をしてアメリカ生活が好きだった彼女が、すべてをお終いにして日本に帰ったのは何時だったか。あれから驚くほどの年月が経ったから、彼女は私のことなど忘れているだろう。それから雨の日と月曜日のことも忘れているのかもしれない。

そうしてあれから何年経っても、私は彼女のことを思い出す。月曜日に雨が降ったりするならば。


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コメント

こんにちは。
yspringmindさんはたくさんの出会いがありますね。
きのう、テレビでフランスのモンマルトルをやっていましたよ。モンマルトルの人たちは自分達を「パリの田舎。モンマルトル。」と言って仲間を大切にしているそうてすよ。たくさんの観光客が訪れていました。
それと、芸術家達が住む家があって、絵を描く人はもちろん、数学者もいました。おどろいたのがその数学者の青年は「奇跡を数学の式で表すと。」と、いとも当たり前に机の上にチョークですらすらーと書いていました。奇跡を表すなんて、当たっていても当たっていなくてもすてきな表現だなと思いました。こんな人達が集まってくるくらいだから、ルノワールやらが育ったんだなあ、なるほどと思いましたよ。
ちょっと日本じゃむりですよ。

こういう街をyspringmindさんも歩いたのかなと見ていました。モンマルトルから見たパリの街は平野に見えました。

2016/03/02 (Wed) 12:04 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。私には確かに沢山の出会いがありました。多分、つばめさんも良く考えてみれば、同じように沢山出会いがあった筈です。出会いはいいです。大切にしたいものですね。
テレビでモンマルトルをご覧になったそうですね。この辺りは不思議な印象がありました。急に葡萄畑が有ったり、そうかと思えば店が一杯あったり。こうした場所に居たらば、人は芸術家になるのではないかと思いました。
数学者の青年の、奇跡を数学の式で表す、というのはとても面白いですね。私も見てみたいです。それが本当でもそうでなくても、そういう発想が創作的で非凡で、幸せだと思いました。つばめさん、一度お薦めです。パリは見る価値がありますよ。旅行者がひしめく場所ばかりではありません。ぽかんと誰もいない空間が何と沢山あることか。

2016/03/03 (Thu) 00:13 | yspringmind #- | URL | 編集
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2016/03/03 (Thu) 02:39 | # | | 編集

見る価値がある街は行かなくてはなりませんね。観光客だけの街ではないということでしょうね。
そのかもし出す空気をあじわいに行きたいものです。

2016/03/03 (Thu) 13:10 | つばめ #- | URL | 編集
Re: No title

鍵コメさん、こんにちは。何とも残念なこと。家族の一員ですからね、悲しい気持ちわかります。残りの家族を守ってください。お願いします。
彼女のことですが、私より幾つも年下でしたから、傍から見ていて時には危なっかしくてはらはらしました。でも、もしかしたら私も、傍から見たら危なっかしくてはらはらしたのかもしれません。私達は夢ばかり見て、頑張れば何でも叶えられると思い込んでいて。でも、あれはあの年齢だったからできたこと、と今は思うのです。
守り。そうですね、確かに今の私は守りに入りました。もっと貪欲に生きようと思えばできるのかもしれませんが、無理をするのはもういいかな、と。そうして落ち着いて考えてみたら、あの若い頃に色んなことが出来たのは、絶対に自分の力だけで出来たのではなく、周囲が遠くから見守っていてくれたからなのだと解って、はっとするのです。これからは人を応援したり、今まで応援してくれた人たちに感謝していきたいと思うのです。むやみに年をとった訳ではない、ということでしょう。

2016/03/05 (Sat) 19:18 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。観光客がたくさん集まる街にだって、普通の生活は流れています。其処の住んでいる人が居る限りは。ボローニャは旅行者が少ないことから普通の生活の空気が充ちていますが、パリには確かに普通の人々の普通の生活が存在して、それが案外安易に見つかるのですよ。

2016/03/05 (Sat) 19:30 | yspringmind #- | URL | 編集

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