街に恋する

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どんなことがあっても、どんなに長い一週間だと思っても、土曜日は必ずやって来る。土曜日を迎えるたびに私はそんなことを思う。カーテン越しに差し込む陽の強いこと。窓を開けて空を仰いだら、思っていた通りの青空。朝、明るくなるのが早くなった。それと同じ分だけ、夜が来るのも遅くなった。本当のことを言えば2月をあまり好ましく思っていない。何故なら冬にもそろそろ飽き始めて、かといって春はまだもう少し待たねばならぬ、双方の壁に塞がれているような気分だからである。それでいて実は、まだか、まだかと春の到来を待つこの瞬間を案外楽しんでいるような節もあって、なーんだ、へんなの、と自分自身を笑う、それが私の2月なのだ。
空の明るさは、昔暮らしていたアメリカの街を思い出させる。こんな天気の週末は、バスに乗って街に行くのも楽しかったが、家からひたすら北へと歩いて湾へ行くのも楽しかった。と言うと湾のすぐ近くに住んでいたかのように聞こえるが、相棒と私が住んでいたフラットからは歩けば2時間はかかった。20年も前の若い頃で2時間ならば、今は3時間かかるだろうか。それとも途中で疲れてバスに乗るか、居心地のよさそうなカフェに腰を下ろして湾へ行く気が萎えてしまうか。

私は友達付き合いが上手いほうではなかった。それは子供の頃からのことだったから、自覚していたと言っても良かった。だけどそういうこともあって、ひとりが平気だったし、ひとりで居ることも案外好きだった。気の合う友達は少なかったが充分だった。少ないけれども本心で話が出来たから。そんな私がアメリカに暮らし始めた。もう25年も前のことだ。日本に居る頃からの僅かな知り合いがいたが、ツマラナイことで交流を絶った。それで本当に独りぼっちになったけれど、寧ろ、やっと出発地点に立つことが出来たと思った。ひとりで住んでいたダウンタウンの小さなアパートメントを引き払って移ったのは、ノブヒルと呼ばれる地区だった。ダウンタウンとは目と鼻の先で、しかし、おっとりした印象があって好きだった。私と知人が一緒に探したアパートメントで、3人でシェアするのが望ましい、そんな広くて明るい物件だった。其処からは歩いて色んな所へ行けて、全く便利この上なかった。中でも好きだったのは湾へと続く道。昼間も良いが、暗くなってから光る月を目印にして歩くのは特別の気に入りだった。坂道を登りつめたところで足を止めて、眼下に広がる街を眺めた。月の光が街を照らしていた。私にはこれと言ったものは無かった。才能も財産も恋人も。でも幸せだった。好きで好きで望んだ街に暮らすことが出来たことが、私に平安と特別な勇気を与えてくれた。何故そんなに嬉しそうなのかと、知らない人に呼び止められたことがあった。好きな街に暮らしているから、私はこの街の空気が好きだから。そう答えたら、そんな答えが存在するとは、とその人は驚いていたけれど。街に恋する。そういうことってあると思う。少なくとも私には。

ボローニャに暮らすようになって20年経った。相棒も私も、まさかこんなに長い年月この街に居るとは夢にも思っていなかった。相棒の家族を支えるために。数年、状況が落ち着くまで。確か私達はそんな風に考えていた筈なのに。だけど、後悔はしない。どの経験も、どんなことも、必ず自分の財産になると信じているから。


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コメント

こんにちは。
バラの花びらがなんて劇的なんでしょう。
日常にこんなセンスのいい芸術が見れるのはいいですね。しかも、いい赤だ。パンッとした赤。
陽射しもやわらか。
そうですね、土曜日はかならず来てくれますね。そう思うとたいへん心強い楽しみなものですね。
すきですきでしょうがない街を自ら探し当てたってすごいですね。たまたまではないのでしょうね。世界中のなかでその街だったんですから。羽をのばしてどこへでも飛んでいけるような空気の場所なのでしょう。風通しがいい。いいなあ。
このまちが好きだからと言える自由さ、つよさ、快さはもう直感みたいなものですよね。
わたしも海外にあこがれていた人間ですが、どう出ていったらいいのかわからなかった。それだけの勇気やはねっかえるくらいの勢いは持っていましたがね。

2016/02/21 (Sun) 14:26 | つばめ #- | URL | 編集

yspringmindさん、こんにちは

冬と春の間の季節

確かに、中途半端な感じもしますが

私は、被写体を試行錯誤するこの季節

何だか、想像力を磨いてくれそうで、好きです)
(カメラの腕前は、一向に上がりませんが^^;)

2016/02/22 (Mon) 00:12 | 高兄 #eP1cGWnA | URL | 編集
こんにちは

こんにちは、そしてただいま。長い旅からかえってきました。住むところ、わたしもここに数年止まるだなんて、思わなかったです。でも20年もいると、思い出す季節も多そうですね。。

2016/02/22 (Mon) 05:54 | inei-reisan #pNQOf01M | URL | 編集

yspringmindさん、こんにちは。
2月ですね。当方、83065月下旬ににお近くの国に引越すことになりそうです。
駐在員でないんで、清貧を目指していても、都度貯金が減る一方で、あぁ、もう赤道超えの引っ越しは勘弁してくれ、という感じです。
毎度地域の人とようやく世間話ができるようになったなあと思ったら引っ越しですもん。10年前の2006年W杯以来のボローニャ、また行きたいです。お会いしたいです、

2016/02/23 (Tue) 01:48 | tsuboi #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。この店の前はいつもこんな風に薔薇の花びらが撒かれています。薔薇の花を売る店なのですよ。この店がオープンした時の感激、衝撃は今でも覚えています。とてもロマンティックですよね。
このところ太陽が出る日は随分春を近く感じるようになりました。光の色が違います。空気の匂いも違うような気がします。
私が好きな街に出会えたのは、大変な偶然とちょっとした直感でもありました。その点では、私は大変運がよく、強運でもあったと思います。
外国へとどう出ていったらよいのか分からなかった、というのは私にも何となく分かります。私はそうと決めて行動を起こそうとし時の不安とか怖さ、足がすくむような感じは今でも忘れていません。大きなギャンブルだったんですよ、私にとって。其のギャンブルに勝ったかどうかは・・・未だに分かりません。

2016/02/23 (Tue) 22:49 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

高兄さん、こんにちは。
この時期を想像力を磨いてくれそうで好きだと言うところがとても情緒的で高兄さんらしいと思いました。高兄さんの写真を見ながら、そうか、椿が咲く季節なのだと思い出しました。赤い椿。うちの庭にもありました。とても懐かしいです。

2016/02/23 (Tue) 22:54 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: こんにちは

inei-reisanさん、お帰りなさい。長い旅でしたね。そして帰ってくるところがあなたの家です。其処に留まるとは思っていなかったけれど…、私にしてもあなたにしても。
20年。実りは大してありませんが年月だけは過ぎていくのだと、感慨深くはありますね。

2016/02/23 (Tue) 22:58 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

TSUBOIさん、こんにちは。5月下旬にに近くの国に引越すそうですね。さてどちらの国かしら。確かに赤道を超える引っ越しは大変ですね。赤道を超えなくたって、引っ越しは本当に大変だと言うのに。土地の人と世間話ができるようになったと思った頃には引っ越しとは少々残念ではありますが、様々な土地を見て感じることが出来ると言う点ではすばらしいかもしれませんね。
ボローニャが近くなるのでしたら、是非10年ぶりにボローニャに足を運んでください。一緒に美味しいものでも頂きましょうよ。

2016/02/23 (Tue) 23:02 | yspringmind #- | URL | 編集

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