眠れない夜

仕事帰りにバスを途中下車して寄り道した。もう随分足を運んでいなかったジェラート屋さん。夏場は頻繁に立ち寄ったが、寒い季節になってからはすっかりご無沙汰だった。店は開いていたが客はふたりの外国人の女の子たちしかいなくて、随分と暇そうだった。だから、幾つかあるテーブル席も一つしか埋まっていなくて、いつもより店が広く見えた。冬向けのジェラートって何かなあ、と店の人に訊いてみたら、南瓜とシナモンのジェラートがよいのではないかと勧められて、それを注文した。冷たくて美味しかった。どうして急にジェラートを食べたくなったのかは自分にもわからない。ただ、兎に角、急にジェラート! と思いついて発作的にバスから降りてしまったのだ。ジェラートを堪能したついでに自家製のチョコレートも購入して機嫌よく店を出ると、雨が降っていた。そんな予報は出ていたが、案外降らなずに一日が終わるのではないかと侮っていたのだ。と言っても小降りで、傘を差すほどでもない。街の中心まで歩き、其処から家へと続くバスに乗ろうと思ったが、来なかった。いつもなら10分おきに来るような、便利な路線だと言うのに。そのうち停留所にはバスを待つ人達で混みはじめ、そして雨脚も強くなってきた。気温が低い訳ではなかったが、雨は冷たかった。雨が顔やオーバーコートの肩に降りかかり、誰もが眉をしかめてポルティコの下に逃げ隠れた。空を見上げると、向こうの空に稲妻。冬には珍しいことで、私はそれに心を奪われたように眺めた。雷音は聞こえなかった。ただ、向こうの空が時折白く光るだけだった。

同じようなことが何時かあった。多分アメリカに居た頃だ。アメリカに居た頃の私は、私の人生の中で一番心が敏感で、様々なことを感知し、察知し、私なりに理解して、例えて言えば、純真だった。冬の白い稲妻もそのひとつで、私はその様子を目で吸い取ると、これは何かが起きようとしている知らせなのだなどと思ったものだ。今日の私には、その白い稲妻は、思い出せ、思い出せと私に語り掛けているように思えた。何か大切なこと、忘れてしまいたくないようなことを。

40分もした頃、ようやくバスがやって来た。腹が立ったが運転手に文句を言う必要はなかった。運転手だってうんざりしているに違いないのだから。
夜中になっても止まない雨。静かに、黙々と降っている。それを窓から猫が眺めていて、時折、飽きてしまったかのように小さな欠伸をする。静かな夜。どうしようもなく眠いのに、眠れない夜もある。


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コメント

昨日は 雷雨と太陽が30分おきぐらいにやってくる不安定な天気でした。午後から 娘の習い事の付き添いで リヨンの中心の古い地区にいったのです。習い事が終わるのを待っている間、何度も前をとおって 気になっていた サロンドテ にはいってみました。とても不思議な気持ちになりました、震災前の 神戸にあったような 空気の店。ブラジルの女性がやっていて ボサノバがかすかに流れていて 美味しい紅茶を 古い食器で戴くのです。
たぶん 私のなかの あの時代は 心が一番感じやすかったのかもしれないと yspringmindさんの 眠れない夜 を読みながら思いました。なんだか 心がすこし 痛い。

2016/02/04 (Thu) 09:43 | kimilon #aKMr6UbQ | URL | 編集

こんにちは。
ジェラート、食べたくなりました。
かぼちゃやシナモンが濃い味なのかな。
手作りのジェラートはまた店で売ってるのと違うでしょうね。

アメリカって、どんな国ですか。
住まわれてみて。
もっと聞かせてください。

いろんな人があつまって住んでるのがまずいいですね。

2016/02/04 (Thu) 13:10 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

kimilonさん、こんにちは。雷雨と太陽が30分おきぐらいにやってくる天気って、凄いですね。天気に振り回される、そんな感じでしょうか。リオンの古い地区とはどんな感じなのかしらと想像してみました。ボローニャとは全く印象の違う街並なのでしょうね。気になっていたサロンドテ。ブラジル人女性がやっている、ボサノバがかすかに流れている店ですか。出てくる古い食器、美味しい紅茶。ノスタルジックですねえ。私も一度入ってみたいです。
誰にでも心が一番感じやすい時期があるものです。面白いことに、その時期をとっくに過ぎてふと振り返った時に、どうしようもなく切ない気持ちになるのです。そういう部分も大切にしておきたいものですね。

2016/02/06 (Sat) 00:49 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。南瓜とシナモンのジェラートは、まず、色が南瓜の中身のようにオレンジ色に近い黄色で、僅かにシナモンの風味がします。冬というよりは秋に近いかな、と思いましたが、秋冬向けということにしておきましょうか。手作りのジェラートは市販のものとは全然違います。イタリアには、そしてボローニャには、そう言った店が数え切れぬほど存在します。
アメリカという国。一言では伝えられません。少しづつ、書くことにしますね。

2016/02/06 (Sat) 00:54 | yspringmind #- | URL | 編集

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