平和を唱える

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遅い夕食の片付けをしながらテレビに耳を傾けていたら、懐かしい曲が聞こえてきた。ジョン・レノンのMind gamesだった。

うちにこのレコードがあった。45回転の、姉がある日嬉しそうに胸に抱えて帰って来たレコード。私達家族が住み慣れた東京を離れて田舎に暮らし始めた頃のことだった。4歳年上の姉はいつも新しいものを家に持ち帰って私の好奇心を掻きたてたものだけど、これもそのうちのひとつだった。私はまだほんの子供で、英語の歌詞の意味すら分からなかったが、しかし何か平和につながることを唱えていることだけは何となく感じていた。誰が教えてくれたわけでもないけれど、彼の音楽にはそうしたものが含まれているのを、私は感じ取ったのだと思う。姉がビートルズに夢中になったのはビートルズが解散した後だった。小遣いを貯めては輸入盤レコードを買って帰って、決して触ってはいけないと私に命じていたから、私がレコードを聴くことが出来たのは姉がレコードを掛けてくれた時だけだった。好きな曲は幾つもあったけれど、ビートルズ時代とはタイプの違うこの曲に、強い何かを感じたらしい。姉がまたかと呆れるほど、何度も何度もレコードを掛けて貰ったものだ。ある日の午後、私達はテレビを見ていた。午後の3時ごろの、東京12チャンネルなどと言うチャンネルでやっていたアメリカ映画だった。何処かの地方都市のお嬢さんがニョーヨークにやって来て、平和を唱える学生運動の暴動シーンが最後に流れた映画だった。姉も私も映画の中のお嬢さんよりはるかに年下だった。私には何のことだかさっぱり分からず、この映画は良く分からないと呟くと、姉はまるで大人のような口ぶりで、あの曲で歌っていることと同じだと教えてくれた。でも、と姉は更に大人びた口調で、映画は平和を守るために暴動を起こすけれど、あの曲は暴動ではなく心で平和を守ろうって言っているのだ、みたいなことを言って私を酷く感銘させた。映画の中のお嬢さんはあの学生運動の暴動に巻き込まれて命を失ってしまったから、暴力は嫌だと思った。それでは少しも平和を守ることにならないと思ったことを、何十年も経った今でも覚えている。

姉はそんな映画を見たことなど覚えていないに違いないし、私とそんな話をしたことなど、ことさら覚えていないだろう。でも、私は確信している。そんな風にして、姉が私を日本の外に目を向けさせたこと。姉が色んな形で影響を与えてくれたのだと。
テレビから流れてくる、何十年ぶりに聞く音楽に合わせて歌ってみたら驚くことに歌詞を覚えていた。忘れてしまった沢山の事があると言うのに。ああ、まだ覚えている。歌詞だけじゃない、姉と一緒に居た時代も、いつかアメリカへ行こうと思うようになった子供時代の自分も、皆昨日のことのように覚えている。今夜は美しい月でも眺めながら、酷くノスタルジーな気分。


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コメント

こんにちは。
姉妹とは縁の深いものですね。

2016/01/30 (Sat) 06:28 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。そうです、姉妹はたとえどんなに遠くに暮らしていても、深い絆でつながれているものなのです。少なくとも私にとって姉は、そうした存在なのですよ。

2016/01/30 (Sat) 19:41 | yspringmind #- | URL | 編集

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