素適を探す

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新しい壁掛け時計を購入した。直径がせいぜい15センチ程しかない小振りのもので、縁取りがグリーン掛かったグレー、若しくはグレー掛かったグリーンで一目で気に入った。キッチンの壁に掛ける時計を探していたのだ、一昨年の夏からずっと。一目で気に入ったが、店の人に説明を受けて益々気に入ったその理由は、一時間ごとに異なった種類の野鳥の囀りがするからだ。ずっと前に帰省した時、姉の家にあった壁掛け時計がそんな感じのものだった。もっとも姉の家にあったものは素材といい作りといい、比較にならぬほど上等だったけれど。そんな時計だとは知らずに姉と話し込んでいたら、鳥が囀った。へえ、この辺りは自然保護されているのね、こんな鳥の囀りを聞けるとは、と目を丸くして驚く私に、姉が笑えをこらえながら教えてくれた。こんな野鳥がこの辺りに居る筈が無い。この鳥の囀りはあの壁掛け時計で・・・と仕掛けを教えてくれたものだ。あれから私はこの種の時計が欲しくて、チャンスをずっと狙っていたのだが、壁掛け時計を必要としていなかったし、必要になってからはそれが何処にも見つからなくて、最近やっと手に入れたと言う訳だ。土曜日の午後、相棒が壁の上方に釘を打ってくれたので時計をひっかけてみたら、とても良い感じだった。色といい大きさといい、それから文字盤に描かれている12種類の鳥にしても、キッチンにぴったりだった。と、3時の鳥が囀った。それはあまりに突然で、相棒も私も驚いたが、一番驚いたのは猫だった。何処に鳥が居るのか、何処に隠れているのだと、キッチンの隅から隅まで探し回り、居ない、居ないと首を振りながらキッチンから出ていった。ふふふ。相棒と顔を見合わせて笑った。慣れるまで当分はこんなことが続くだろう。

土曜日といえばこんなこともあった。旧市街を散策していたら、美しいものを見つけてシャッターを切った。それは朽ちた分厚い壁に嵌めこまれたように存在するセルリアンブルーに塗られた木製の古い扉に覆いかぶさるように茂った蔓の群れ。春や夏には美しい緑を、秋には赤く葉を茂らす蔓であるが、冬は葉っぱのひとつも無く、ただ蔓だけがぼさぼさと群れている。それが美しく見えるのは錆び色だからだ。青に錆び色。そして朽ちた分厚い壁。ひとつひとつを見たらば大したものではないが、それらが寄り集まると、はっと息をのむほど美しかった。夢中になってシャッターを切っていたら、左手前で年配の夫婦が前を横切るのを待ってくれていることに気が付いた。それでカメラを下ろして待っていてくれたことに礼を言うと、妻の方が口を開いた。何かいい物でもあるのかしら? だから私は説明したのだ。朽ちた壁に嵌められた青い扉に錆び色の蔓の群れのこと、それらが集まることで美しい情景が生まれていることを。すると妻は、えっと、一瞬驚いて、それから言うのだ。この通りに住んでいて、此処を毎日歩いているけれど、そんなことには気が付かなかったこと。でも、こうして改めて見たら、確かに美しいこと。そして今まで気が付かなかったことに驚き、他にも見逃していることが沢山あるのではないだろうかと言った。人は皆価値観が違って当たり前。大切に思うことも違えば、美しいと思う観点だって違うものだから、自分の感覚を押し付けるつもりは全くない。寧ろ違うから面白い訳で、皆が同じだったら逆につまらないだろう。でも、此れだけは言えよう。見ようとしなければ見えないものが沢山あること。気が付こうとしなければ気が付かないことが沢山あるということ。美しいことも、そうでないことも。素晴らしいことも、そうでないことも。夫婦は私を相手に少し立ち話をして、いつか再びどこかで会えるといいね、だって小さな街だもの、と言って、歩き去った。土曜日はこんな風にして散歩をするらしい夫婦が、これから少しづつ見慣れた通りに、見慣れたボローニャの街に小さな美しいもの、素晴らしいものを見つけていけたら良いと思う。そして私も、慣れてしまった自分の生活や見慣れてしまった私の街から、小さな素敵を見つけていきたいと思った。

今夜は満月。月明かりが冬の暗いボローニャを照らしている。今夜の月が、一体どれだけ私を勇気づけているか。月はちっとも知らないに違いない。


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コメント

満月

yspringmindさん

満月だったのですね。
私は、帰宅途中あまりにも寒さに満月の夜に気付かずいてた所、友人から満月が美しかったと画像が送られてきました。

素敵な壁掛け時計に出会えたのですか。
それにしても、愛しい猫ちゃんお仕事に出て留守中も、キョロキョロしてるんでしょうか(笑~~)

2016/01/26 (Tue) 14:58 | すみれ #GYxcADzc | URL | 編集

yspringmindさんのブログをガイドブックにして歩いていたので、この写真のお店に入りたかったのですが、勇気がなくて(笑)入り口から中や天井を眺めていました。
お店の人がなに?という感じで私を見ていたのですが怪しい人だと思われたかもしれません。

2016/01/27 (Wed) 07:00 | micio #O/XG6wUc | URL | 編集
Re: 満月

すみれさん、満月を見逃しましたか。それは残念。寒い晩の満月はことさら美しく鮮明に見えるものです。次は2月22日の月曜日です。冷たい、晴れた晩となりますように。
猫は鳥の時計に慣れ始めたものの、鳴き声の幾つかには未だに慣れることが出来ないようで、気が付くと壁の端からか頭を出して、鳥がいるのではないかと目を凝らしています。私と相棒が居ない間、どんな様子なのか、実に気になるところです。

2016/01/27 (Wed) 23:10 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

micioさん、こんにちは。
そうでしたね、ブログをガイドブックの様にプリントして鞄に入れているのを見た時には、感激しましたよ。この店には入りませんでしたか。それではここにお誘いすれば良かったですねえ。入り口は確かに入りにくい感じが漂っているのですが、中は案外気さくな感じなのですよ。私は初めて入った時に、この店の色んなことを訊いたものです。天井が高くて、ずっと上を眺めていたので頭がくらくらしましたっけ。

2016/01/27 (Wed) 23:14 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは。
一時間ごとに違う音の時計。
とってもしゃれていて、気のきいた時計ですね。
一時間ごとに楽しみですね。

yspringmindさんの見ようとしなければ見えないことがある。いい言葉ですね。
わたしも、それを思っていました。
ひとそれぞれなので、話してみないとわからないけれど、子供の頃は見ようとして一生懸命見ますよね。大人になると大人目線になってしまう人が多いけれど。

2016/01/28 (Thu) 02:17 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。一時間ごとに鳥が鳴く。夜中に鳴いたら飛び起きてしまうと危惧した私に店の人が部屋が暗いと鳴かないのだと教えてくれました。こんなことを心配する人はあまりいないのでしょうね。店の人は私の心配に驚いていましたから。
大人になると私達は、色んなことに慣れて、目に見えるそれが当たり前になってしまう。其れから見えている筈なのに意識の外にあって見た記憶さえないこともあるようです。私は昔から観察するのが好きな子供でした。それを今も引きずっているようです。そんな私だって、時には見ようと思わなければ見えないことも沢山あります。見えると色んなことを感じる、そして時々はっとさせられて、色んなことが分かったりするのですよ。

2016/01/30 (Sat) 00:41 | yspringmind #- | URL | 編集

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