寒い日

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今日も気温が低い。冬らしいこの寒さに、1月を感じる。空を覆う分厚い鼠色の雲。雪を背後に隠しているのではないかと疑いたくなる。こんな日は一歩だって外に出たくないと言いながら、一瞬でも太陽が出ると外に出たくてたまらなくなる。明日は雨になるそうだから、などと言い訳して、また出掛けるの? と不満そうな顔をしている猫を置いて、外に出た。空が明るい分だけ空気が冷たかった。旧市街へ行くバスがなかなか来ないので、やっぱり出掛けるのを止めようかと足を翻そうとした頃、ようやくバスが来た。やれやれ。と、ため息交じりにそう言ったのは、一緒にバスを待っていたモロッコ人と思われる3人組のひとりだった。モロッコから来た彼らには、どんなに暖かいジャケットに身を包んでいようとも、この寒さは堪えるに違いなかった。一方、一見してロシア人と分かるご婦人は、頭の先から爪先まで完全防寒で、寒さとうまく付き合うコツを心得ているように見えた。

まだ冬休みが続いている人が半分、既に仕事を始めている人が半分。旧市街のポルティコの下を、呑気に歩いているのは私同様まだ冬休みの人達。週末でもないのに昼間のこの時間帯に散策を楽しめる喜び。何処へ行くこともなかったけれど、私は充分嬉しかった。朝起きて朝食用にオレンジを絞ること。これだっていつもの朝なら忙しくて出来ない事。そうした小さなひとつひとつを考えたら、私の冬休みは案外楽しいと言っても良かった。勿論。纏まった休みを利用して、スキーへ行った人達や、これから南の島へ行こうとしている隣人や、近隣国へひとっ飛びといった人に比べたら、全く些細な楽しみに過ぎないけれど。街の真ん中にあるアシネッリの塔の下には、入場を待つ人の列があった。列と言っても5、6人。12月31日の長い列に比べらた列とも言えないものだった。この塔に最後に登ったのはいつだっただろうか。梯子のような階段を、滑らぬように気を付けて登るのは大変だったけれど、登りつめた97メートルという高さから見たボローニャの眺めは気持ちが良かった。そうして降りるのは、登りよりも至難だった。今にも滑り落ちてしまいそうで、足ががくがくした。私がこの塔に登ったのは5回にも満たない。今度、何時登るかは全く未定だ。街はまだクリスマスの飾りつけが残っている。1月6日のエピファニアまではずっとこのまま。うちのクリスマスツリー同様、翌日の7日に片付けるのだろう。そうして飾りが取り去られたら、急に灰色の冬になる。
イタリアで初めて迎えた1月に、私はローマに居を移した。確かエピファニアを待たずにボローニャを出た。相棒が車に私と荷物を詰め込んで、ローマまで一緒に行ってくれた。これからしばらく相棒と別れて生活するのだと思ったら、勝手なことながら淋しくもあり、これから自分の生活を自分の手で生み出そうと希望に燃えていたこともあって嬉しくもあった。相棒は。相棒はどうだっただろう。あの頃の私は自分のことで精いっぱいで、自分らしく生活する術を見つけることで精いっぱいで、そのことを考える余裕さえなかった。20年も経つ今頃になって、それに気が付いた。私だけのことを考えれば、あの身勝手とも言える行動がその後の私を支えてくれたと言って間違いないけれど、相棒の立場から考えれば、アメリカから妻と一緒に故郷に帰って来たのに、その妻はローマに仕事を見つけて行ってしまったのだから、残念以外の何でもなかっただろう。でも、私のそんな行動に、彼がひと言だって文句や不満を言ったことは無かった。それで君が元気になるなら、それで君が自分らしさを取り戻すなら。確か彼はいつもそんな風に私を励ましてくれた。20年経って今頃そんなことを思い出したと言って、今頃感謝したら、相棒は何と言うだろう。今夜、夕食の時にでも、話してみようと思うけど。

旧市街から戻ってきて、家に入る前に近所のバールに立ち寄った。カップチーノでもと思って。店は空いていて、店に入っていくと店員の女の子が嬉しそうに迎えて、訊いた。あら、どうしたの。こんな時間に珍しい。それはそうだ、私はいつも仕事帰りの夕方遅くか、週末にしかバールに立ち寄れないのだから。それで、まだ冬休みなのだと言うと、はあっと溜息をついて、あなたは幸せねえ、まだ休みなのね、と言った。・・・そうか、其れも幸せのひとつか。幸せは探したら、案外沢山あるのかもしれない。


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コメント

こんにちは、yspringmindさん。
いまも、わたしは自分のこと、生活する術でせいいっぱい。
yspringmindさんは、ボローニャに行こうとされたきっかけは、もしよかったら教えてください。
わたしは、ある街が合わないと思って帰れないというか、帰りたくないというか。

2016/01/06 (Wed) 02:14 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。相棒と私アメリカで結婚しました。大好きなその街に居られたら良かったけれど、ボローニャに居る家族の為にボローニャに引っ越してきました。でも、私にとっては良いことではなかったようで、みるみるうちに萎んでしまいました。其れでローマに仕事を見つけて飛び出しましたが、相棒がボローニャを離れられないことから、ボローニャに再び戻って来たと言う訳です。私も元気になったことだし、と。勿論それからすべてがうまく行ったわけではありません。四苦八苦、試行錯誤、後はどんな言い方があるでしょうか。でも、私が前にあるものと闘うのをやめてから、うまく行くようになりました。自分を捨てたのではありません。自分は自分でありながら、うまく行く手段を見つけたと言えばいいのでしょうか。時間が掛かりました。私の場合。10年以上、辛かったけど、其れも過ぎたことです。

2016/01/06 (Wed) 17:56 | yspringmind #- | URL | 編集

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