大切な気持ち

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日に日に気温が下がっていく。今朝の気温は零度。とても冬のボローニャらしくて、遂に本当の冬がやって来たと頷く。寒いのは嫌い。でも冬に寒くならないと困ることもある。8年ほど前だっただろうか、ボローニャに大雪が降った時、隣の会社の年長さんがこれでいいのよ、と私に言った。彼女はボローニャ郊外の標高の高い場所に暮らしているので、雪が降ると通勤が大変な筈。私がそう指摘すると、確かに確かにと彼女は同意したけれど、でもね、と人差し指を立てて、雪が降らなくては困ることもある、と言った。夏場に私達を困らせる蚊。冬になっても雪が降らないと死なないそうだ。だからね、と彼女は得意げな顔で、確かに街は交通渋滞になるけれど、バスは待てども来ないけど、雪が降ることも必要なの、と私に言った。成程。面白いことを教えて貰った。彼女はとても難しい人で、それに仕事においては厳しい人だったから周囲の多くが毛嫌いしていた。でも、私はそれほど嫌いではなかった。人に厳しい分、彼女は自身にも厳しかったし、非情なことなど言わなかったし、顔を合わせば機嫌よく挨拶を返してくれたし、それにこんな風に知らないことを何かにつけて教えてくれた。勿論、其れも聞く耳を持つ人にしかしなかったことだろう。誰だって、煩いなあとか、そんなこと知っているさ、と反応する人に話はしたくないものだから。あれ以来、雪が降る度に彼女を思い出す。数年前に年金生活に入って声を聴くこともなくなった彼女だけれど、雪が降る度に私の心に思い浮かぶ長い髪の彼女と私は、これからもずっと繋がっている。さて、この冬ボローニャに雪は降るだろうか。

明日で今年が終わる。気ままな毎日だし、ちょっと整理でもしてみようかと箪笥を開いた。少々雑然としていたので片付けていたら、何年も袖を通していない衣類を見つけた。母からの譲り受けたものだった。もう35年以上経っているシルクの上下。今でも覚えている。あの日、母は私を連れて新宿の伊勢丹に行ったのだ。昔からは母そんな風に私を連れて歩くのが好きだった。母は毛糸を探しに行ったのだ。母はこんなものを作りたいからと素材を探すことは無く、気に入った毛糸や生地を見つけることが先だった。そういう物に出会ってから、デザインを決める人だったのだ。それで毛糸を見に行ってイタリア製の不思議な色の毛糸を見つけて、母は大変機嫌がよかった。高価だったが折角手編みするのだからと言って、値段はどうでもよいらしかった。気に入ったものに出会う。いつだって、それが母にとっては重要らしかった。その後どんなセーターにしようかと婦人服売り場を見て歩いていたところ、このシルクの上下を見つけたのだ。母は酷く感心していた。其処に感じの良い店員が来て、日本に入ってきたばかりのブランドであることや、あんなこと、こんなことを説明してくれると、母は試着したくなってきたのだろう。そうして試着してみたら、とても似合っていた。母曰く、着心地がよく、光沢が素晴らしいとのことだった。毛糸を購入した後のことで母は珍しく悩んだようだが、こういう物は一着あると便利するとか何とか言って、気前よく購入することにした。その後、シルクの上下はきちんとした装いの場にしばしば登場した。母が相当気に入っていることがよく分かった。それが今私の箪笥の中にあるのは、アメリカに行く時に母が持たせてくれたからだ。きちんとした服が無いでしょう? と。少々流行遅れだったし、私がきちんとした場所に出ることがあるとは思えなかったけれど、母の気持ちを受け取って私と一緒にアメリカに行き、そしてイタリアにも連れてきた。母が大そう気に入っていた物だったから、私にとっては大切なものだ。シンプルな形の上着だ。肩ががっちりしていていかにもあの時代という感じがした。当時はそうした流行があったからだ。着てみたらしっくりこない。しかしこれもまた、ほんの少し直したら、母が言う、きちんと時に使える上着となるに違いなかった。あの店に持っていくことにしよう。あの店の主人ならば、上手に直してくれるだろうから。肩をもう少しすっきりさせたら、いい感じになるに違いないから。私は、物というよりは、母の気持ちを大切にしたいのだ。

先日、思いがけず私の手元に届いた美味しい焼き菓子、バター、そしてチーズ。どれも、本当に思いがけず私の手元に届いたものだ。美味しいばかりではない。喜ばそうとしてくれた人達の、その気持ちが嬉しい。ありがとう。そんな人達が存在する。悪くない。一年の終わりに来て、小さな事の数々が私をじんとさせる。


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コメント

こんにちは、yspringmindさん。
すてきなショーウィンドウ。こんな素敵な靴が似合う人になりたいなあ。
年末に靴屋さんに行きました。
見ているだけで、わくわくしました。

お母さんの気持ちをたいせつにされたいとのこと。ほんとうにほんとうに。



2015/12/31 (Thu) 09:15 | つばめ #- | URL | 編集

今年も、素敵な写真と記事を楽しませて頂きました!
ありがとうございます*

年末にきて「心がふっとあたたかになる事があった。。」 
これを読んで、私にもいい事があったような気がしています
ホントは私にもこんなんがあったのかも 気ずかなかっただけかな
来年は、もう少し注意深くいい事を感じとりたいです

ご多幸の新年をお迎え下さいますよう

2015/12/31 (Thu) 17:43 | スプーン #EQkw1b1A | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。素適ですよね。この店はセレクトショップみたいなもので、しかもおいているものが高級なのでインテリアもショーウィンドウも、ついでの店員もハイセンスなのです。私はガラス越しにディスプレイを眺めるばかりで、一度も中に入ったことはありません。目の保養に良い店的存在なのです。

親とは有り難い存在ですね。大切にしたいです。

2015/12/31 (Thu) 19:47 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

スプーンさん、こんにちは。私は今年後半に来て少し落ち込んでいたのですが、ふとした拍子に気が付いたんですよ。本当は小さな良いことが一杯あるのに気が付いていないのだ、と。私の場合、感謝の気持ちが無くなった時に心が鈍感になってしまうようなのですよ。いけませんねえ。ま、そんな経験を通じて、心を入れ替えて、このところ感じますよー、嬉しいことがあっちにもこっちにも。
今年もお付合い有難うございました。あと4時間で新しい年ですよ!

2015/12/31 (Thu) 20:01 | yspringmind #- | URL | 編集

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