自分らしさの原点

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クリスマスの昼食の為に時間をかけて準備したカッポーネのブロードは上出来だったし、苦労して手に入れたトルテッリーニも姑の厳しい審査に合格して、良いクリスマスの昼食会となった。姑はトルテッリーニを店で買うなんて考えたこともなかった人。元気だった頃は日曜日の昼食の為に、毎土曜日パスタを家で打っていたからだ。それも彼女が病で倒れてからは、こんな風にして店で買うのが普通になった。一度は舅が、一度は私が腕を振るってみたけれど、かなりの体力を消耗するので直ぐに降参してしまった。しかし店で買う手打ちパスタに姑が、うん、と頷くことはあまりなく、私達は途方に暮れていたのだ。それが偶然辿り着いた、あの店のトルテッリーニは合格らしい。やっと合格だ、と私と相棒は安堵の溜息をついた。良かった。本当に良かった。

クリスマスを迎える都度、思い出すのがアメリカに居た頃の事。初めてのクリスマスは何の予定もなく、誰と過ごすでもなかった。同居人も出掛けてしまって独りだった。寂しいなあ、と思って10時頃にダウンタウンを歩いてみたが、人ひとり歩くでもなく、行き交う車もなく、店もきっちり閉まっていてゴーストタウンのようだった。何だ、独りぼっちなのは私だけなのか。そう思ったら、惨めな気分になった。家族が居るでもない、恋人もいなければ、この街に暮らし始めて4か月しか経っていなかった私には、友達と呼べるような人は数人しかいなかった。友達…いや、単なる知人に毛が生えた程度だったかもしれない。あの日、私はひとりダウンタウンを歩いてから、家で誰の為と言うでもなく菓子を焼いて、それから友人から電話が掛かって来たのをよいことに、海の方まで歩かないかと誘って、坂道を上り、そしてひたすら坂を下って埠頭に行った。それは歩き慣れた道だったが、人がいないこと、車が通らないことから初めての道のように思えた。埠頭は旅行者が集まる場所とあって店が幾つも開いていた。私達はひとつひとつ丁寧に見て回って、短時間映画まで見て、コーヒーショップで熱いコーヒーを飲んだ。そうしてまた、歩いて私のアパートメントに戻ってきた。同居人が帰ってきていたので、友人と同居人に焼き菓子を勧めた。私が一緒に菓子を食べなかったのは、急に扁桃腺が腫れて高熱が出たからだ。いやなに、そういうことはよくあることで、実を言えばその前の日にも熱を出していたのだ。なのに朝から外をぶらぶらして、昼から埠頭を歩き回って、当然と言えば当然のことだった。それも24年前のことになる。24年も経つのに未だに忘れることが無いのは、それだけ私の心に刻み込まれたことなのだろう。あの頃の私のように、世界の何処かで独りぼっちのクリスマスを過ごしている人が入るのだろうか。寂しいなあと思って街を彷徨っているだろうか。しかし、私にとってこの思い出は、今となっては寂しいものではない。あれはあれで、良いことだったのだ。私はあんな風にして自分の足で立って前に進むことを学んだのだろう。辛いことがあっても悲しいことがあっても、それでも私は此処に居ようと思った街。あれが、私が分からない事ばかりの街で手探りで生活を始めた年。自分らしさの原点。

今日の昼食会は豪華版だったため、相棒も私も、夜になってもお腹が空かない。しかし何かお腹に入れたほうが良いだろうと思って、シチリア産の大きなオレンジを絞った。大きなグラスに一杯づつ。太陽の恵みをたっぷり受けたオレンジは、濃厚で甘くて、酸味が鼻につーんときて、独りぼっちのクリスマスの思い出と似ていた。


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コメント

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2015/12/26 (Sat) 21:52 | # | | 編集
Re: タイトルなし

鍵コメさん、こんにちは。そうですよ。凄いんですから。私は此処にくるまで、そのすごさを知りませんでした。遠くに住んでいるのが丁度いい、そんな感じがします。
私にとってSFは、望んで住みついた町なのですが、良いことばかりが待っていた訳ではありませんでした。ただ、この街が好きであることにはかわりなく、どんなことがあってもここに居ようと思っていたのに。うっかりイタリア人と結婚して、ボローニャに来てしまいました。そうして離れてみると、やはりあの町が私のスタート地点であり、一番住み心地の良い場所なのです。ボローニャに20年住んだ今でもSFの方がはるかに自分らしくいられる場所。空気が合うと言うべきかもしれません。ずっとあそこに居られたら良かったのにと言う思いと、離れたことでそれが分かってよかっくたと言う思いと、うーん、複雑ですねえ。

2015/12/26 (Sat) 23:57 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは、yspringmindさん。
原点。
いいことばですね。
yspringmindさんの言葉で我を振り替えることがなんと多いことか。
やはり、つらいことや悲しいことがないと本当に悟ったりできないのでしょうか。
わたしは、多々逃げたくなります。
とくに、人から信じられないことを言われると。もともと、人をとても信用するので、裏表のある人に出会うとぎょっとします。

こちらは、暖冬です。
それでも4時頃には日が影ってくるので、少し暖かなものが飲みたくなります。
お店にいっても子どもの頃より景気よくジングルベルも流れていませんが、クリスマスと正月という二大行事にせわしなさがただよっています。
昔は親戚一同集まり、正月を祝いましたが、今はそれぞれですごします。それでも、黒豆、煮しめ、刺身、数の子くらいは食べます。
ずっと、正月ならいいな。

2015/12/27 (Sun) 09:37 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。原点、という言葉を今まで使ったことがありません。でも、こうして言葉にしてみると、それはとても気持ちがすっきりする良い響きの言葉です。
人はよく、逃げてばかり居てはいけない、問題と向き合って立ち向かわなければ、などと言いますが、私は逆に立ち向かってばかり居ないで、逃げるのではなくて、やーめた、と別の方向を見るのも良いのだと思うのです。それは決して悪いことではないです。我慢したり立ち向かうばかりが全てではないと言うことです。
この時期になると子供の頃を思い出します。お正月の準備。母がお節料理の材料を買いに出かけて。大晦日の夜遅くまで母がお節料理の準備をしていて。姉と私は母が作ったお節料理が大好きでした。喜ぶ娘たちがいるから、母は大変だと言いながらも実として作りを続けていたのだと思います。

2015/12/27 (Sun) 23:43 | yspringmind #- | URL | 編集
ありますよね。

yspringmindさんへ。
こんにちは。感慨深く読ませて戴きました。
そう言う自分の原点ってありますよね……。
必ずしも幸せないい思い出じゃない方が多いかもしれません。
日々、貧乏ヒマなしでバタバタしていて自分を振り替えることもなく……。
でも、フとした瞬間にね。何かを見て思い出すとか……。
そろそろ日本は正月モード。電話もメールもパタリと途絶えました(笑)
さぁて、買い溜めた本でも読もうかな?
yspringmindさんの年末年始はどんな感じですか?

ブノワ。

2015/12/28 (Mon) 08:38 | ブノワ。 #kZkdgmoI | URL | 編集
Re: ありますよね。

ブノワさん、こんにちは。
原点について考えたことが無い人が多いかもしれません。考えたら誰にだって原点はあると思うのですがどうでしょう。
こちらはクリスマスが終わりましたがホリデー気分いっぱいです。仕事が休みの人が多いので、街を歩いているとなんと家族連れの多いことか。
31日の晩は家で相棒と美味しいものを沢山作ってご馳走となる予定です。勿論、ずっと待っていた特別のワインの栓も抜きますよ。そうしてカウントダウンして新しい年を迎えたら、静かな元旦が待っています。1月1日は静か。静かって本当に驚くほど静かなんです。

2015/12/29 (Tue) 20:18 | yspringmind #- | URL | 編集

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