外の空気を吸いに出掛けよう

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猫は窓辺に座って外を眺めるのが好きらしい。毎朝、大急ぎで身支度をするのをよそに、猫だけはゆっくりと窓の外を眺めている。時々、猫が声を発するので同じ高さに顔を近づけて何が見えるのかと覘いてみると、鳥だったり隣の敷地を歩く犬だったり。でも一番好きなのは木の枝から葉が一枚、また一枚落ちていく様子。その度に、にゃ、と鳴くのに耳を傾けながら、あ、葉っぱがまた地面に落ちていく、と私に知らせているのではないかと想像する。外に出ない分だけ外の様子が気になる。人間も動物も同じなのだ。

土曜日の昼過ぎ、旧市街へ行った。ちょっとした用事があったからで、それにかこつけて街を歩くことにしたのだ。パリの事件以来、私はどうも沈みがちで、外の空気を吸わねばならないと思ったのだ。街の中心で催されているチョコショウへ行くには気が乗らなかったので、相も変わらず人の居ないところへと足を向けた。そうして幅の狭い、天井の妙に高いポルティコの下を歩いていたら、向こうの方から大きな声で名前を呼ばれた。えっ。と足を止めてみたが知っている顔は無く、向こうの方から歩いて来る男女には見覚えもなかった。黒いフードを被った男。女の方もパンク調で、私の知り合いにはいないタイプの人達だった。ぽかんとして立ち止まる私に、男の方が黒いフードをとって笑った。出てきたのは青い青い瞳を持つ、知人の顔だった。友達と言う訳でもないけれど、顔を合わせば必ず気持ちの良い挨拶をしてくれる若者である。近くで見れば女の方も若くて可愛らしい。あなたの恋人なのかと訊くと、そうだと言う。初めましてと丁寧に挨拶をするところなど、実に彼が選んだ人らしいと思った。ボローニャ郊外に暮らしている彼らは、30キロも車を走らせてチョコショウに来たのだと言う。そういう私はチョコショウの人混みから逃れるために、こうして人の居ない場所を選んで歩いているのだと言うと、あはは、と笑って実に君らしいねと言った。そうなのか。若い彼から見ても私と言う人間はそんなタイプに見えるのかと思って、面白くなった。それにしたって私の方は彼の名前を幾ら考えても思い出せないと言うのに、彼はちゃんと覚えていて声を掛けてくれるのだから嬉しいものだ。と同時に、申し訳ないような気分でもあった。歩き疲れて小腹が空いたのでガンベリーニへ行った。秋冬は此処で菓子をつまみながらカップチーノを頂くのがいい。土曜日とあって店は大変混んでいたが、店の人が直ぐに私に声を掛けてくれた。ビスコッティは如何でしたかと訊かれて、えっと顔を上げだ。水曜日の夕方遅くに店に立ち寄って、ビスコッティをいろいろ混ぜて包んで貰ったのだが、彼女はそんな私を覚えていたらしい。それで、大変美味しく頂いたこと、あれは自分の誕生日の喜びを皆と分かち合うために職場に持って行ったのだ、と答えると、それは大変良いことですね、と彼女は微笑んだ。この店には幾人もの女性が働いているけれど、此れほど感じの良い人はあまり見たことが無い。さて、それで小さな菓子とマロングラッセをひとつづつ小さな白い皿にのせて貰い、カップチーノを注文した。勿論立ち飲みである。私にはそれが似合う。テーブル席に付くのは友人とお喋りをする時にとっておくのが良い。それにしたってなんて美味しいのだろう。小さなシューの中にたっぷり入ったクリーム。見かけはごく平凡だけど、イタリアではそういう物ほど美味しいことを私は知っている。案外、人間もそうなのかもしれない、などと思う。見掛けで人を判断したらいけないのだ。例えば先ほどの彼の様に。

明日からもう少し暖かいコートを着て出かけよう。温暖とは言っても、もう11月も中旬。何時寒くなってもおかしくないのだから。


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コメント

先入観で判断していたことがひっくり返ることってありますよね。特に 人に対する先入観。少し時間をとって 話してみる。あるいはいつもとはちがう状況で出会う。そんな機会があると 先入観の霧が晴れることもありますよね。

自分とは異なる物、人の内を想像、許容できたら 避けられる悲しい出来事も多いでしょうに。いまだ 金曜の夜が消化できていません。しかしパリで起こったから これほど世界をゆるがすニュースになっているけれど この世界のどこか他でも おきている出来事なのですよね。

その小さくて平凡なしかもとびきり美味しいものたち そういう喜びに 満ちている生活。大切にしなければなりませんね。。

2015/11/16 (Mon) 09:43 | kimilon #gwcQWeM6 | URL | 編集

こんにちは、ysprinmindさん。
パリへは行かれたばかりなので、なおのこと感じるところがありますね。
こういうときこそ、口をつむぐのではなく言われるように平和について話さなければなりませんね。
日本においては、ニュース、新聞で今回のこと、その後のフランスの人々の様子をうつしだしています。ヨーロッパは高い理想の下、たくさんの難民をこれまでも受け入れてきたけれど、実際は多くの問題も抱えていたと。
東北の地震の時、その時点の状況をテレビで生に見るのが受け入れるには違和感を感じたのですが、今回のこともこちらから見るとはなれた国のこととはいえ、同じ地球上で起きていることとは思えません。現実なんですね。難民がたくさん逃げてきているのに、なにか日本でもできないのかな。お金の支援よりも人の命を助けてほしい。こういうときの遠回しに見ているような決断の遅さ、本心にせまらない日本ってなんなんだろう。

素朴なお菓子。クリーム。
そんな、しあわせをさがしに行こう。
外郎おいしかったな、柿もやさしい味、コロネパンのチョコレートクリームも濃くておいしかった。
素朴なお菓子がおいしいと知っているイタリアは本物を知っていますね。
ぶれない事を逆に日本にいる私に教えてもらっていると思います。ごくごくシンプルが一番いいと。日本に暮らしていると便利な反面、ついていくのが大変。いろんなことが実験のように次から次へと変わり、いそがしく、よく耳にするのが、せちがらい世の中になったと。本当にそうかしらと思うし、そう思ってしまう空気にしてしまっている気がしています。なぜなら、動物や子供はどこふく風。誰かにこのなんともいえない空気を整理整頓してもらえないかなとも。だめなことはだめ、いいことはいいと。
よく、角がたつから何も言わないと言うのです。そんなの気にしてたら何も言えなくなる、つまりは問題は霧の中へ。長いものに巻かれることが賢いと。
賢い人は何も言わないと。ほんとうかしら。


2015/11/17 (Tue) 14:52 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

kimilonさん、こんにちは。人は話してみないと、付き合ってみないと本当のところが分からないのだと思います。先入観とは案外恐ろしいものです。これでなんと相手の本当の姿を見いだすのに時間が掛かったことか。
金曜日の晩に起きたこと。全然消化できません。実際に起きたことと同じくらい、何故こんなことが起きたのかも考えなくてはいけないと思います。とても難しい問題。答えはひとつではないかもしれないけれど、一生懸命考えりべき事と感じています。
小さな日常のことを楽しいとか嬉しいとか感じられることを、私は感謝して、大切にしたいです。

2015/11/17 (Tue) 23:59 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。確かに。ひと月前に行ったばかりのパリですから、尚更感じることは多いのでしょうね。私は思うのですが、こうであるべきと言うことは無いのだと思うのです。此れだけの沢山の人、沢山の文化が地球に詰まっているのですから、考え方が違っても当たり前なのかもしれないと。ただ、自分さえ良ければいい、と思うと間違えが起こります。それから仕返しすること。私はそれを好まないし、残念なこととも思うのです。
皆がシンプルで、気持ちよく暮らすことを目指したら、自分がされたら嫌なことを他の人にしなくなったらば、問題は少なくなるのではないでしょうか。

2015/11/18 (Wed) 00:09 | yspringmind #- | URL | 編集
旅の後先

yspringmindさん、パリの事件、日本でも連日新聞紙面トップでおおきな関心と悲嘆をよんでいます。日本よりはるかに現場に近いそちらではさぞや大きな衝撃であっただろうと思います。
来年のヨーロッパ旅行でパリの空港経由はやめようかという冗談ともとれないような話題も。でもそうして日常生活が萎縮してしまうことが犯人グループの目的かと想像すると、やりきれない思いになります。
先日来チョコショウの話題が何回か登場、yspringmindさんのテンションの高さが伝わってきますが、あえてその写真は載せないところが、奥床しいというか貴女らしくいい、と妙なところで感心。一度でも足を踏み入れた場所が話題になると、その共感度の度合いは全然違いますね。いま家人が塩野七生女史の「わが友マキャベリ」を読みふけっていますが、こちらもフィレンツエの情景が(わずか一日ですが)記憶にあるから俄然「わかる!」ので楽しくてしょうがないようです。旅にはそうした、後楽がありますね。そうやって、記憶と新しい情報が出会い・混ざり合い、新しい世界の「発見」につながっていくのかもしれません。

2015/11/18 (Wed) 08:11 | Yutaka Hoshino #rmkBes5Y | URL | 編集
Re: 旅の後先

Hoshinoさん、こんにちは。これは金曜日の夜遅く、偶然テレビをつけたら(私は滅多にテレビを見ないので本当に偶然としか言いようがありません。)パリの事件が起きた直後で、一大ニュースになっていました。勿論ショックでしたし、事件に巻き込まれた人の数の多さにも愕然としました。と同時に、私はいつもそういうことが何処の町で起きてもおかしくない、いつもの平凡な生活の背中合わせに危険が控えているかもしれないことを自覚していたような所があったことに改めて気が付いて、複雑としか言いようのない心境でした。でも、だから私は今を楽しむ、今日を楽しむことに衣装懸命なのかもしれないともおもいました。
今年のチョコショウは上手にオーガナイズされていたように思います。こういう催し物は写真で見るより実際行く方が良いでしょう。それで写真はのせず、読者の方たちをちょっと刺激して来年の秋にボローニャに来てみたくなって貰う、と言うのが私は好きなのです。
自分の記憶にある街のことを本で読むのは味わい深いと私も同感です。私もパリの街を歩いてからパリの本を読んでみたら、なかなかあ興味深かったです。昔読んだ時には全然刺激的でなかったと言うのに。本を読みながらもう一度本に出てくる路を歩居ているような気分になりました。そういう楽しみもあるのだと言うことを発見しましたよ。

2015/11/19 (Thu) 00:04 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは。

今回の写真は聖ステファノ聖堂の前を撮られたものですね。
初めてボローニャを訪れたときに歩いたところだ、と
懐かしく拝見しました。
あのときは、聖堂が開くまで左側の回廊のあたりで
ぼーっと空や建物を眺めていたのでした。
異国の空。
それはいつも眺める日本の空と変わらないように見えるけど、
風や空気の匂いが違うので
目にも違うように映る気がするのです。

ボローニャも暖かめの晩秋のようですが、
こちらも暖かい日と寒い日が交合にくる11月です。
晴れた朝には富士山を眺めたくなる季節です。

どこでも、なにをするときでも
そこに感じのよい方がいらっしゃると
「また来よう」あるいは「またやってみよう」と
思うものです。
マニュアルにはない、何気ない一言や行動が
そういう気持ちにさせるのかもしれませんね。
人の心持ち、心根が表れるそんな行動が、
ある意味怖いな、と我が身を反省したりします。

チョコショウ、
次回はぜひこのときにボローニャを訪れたいものです。


お身体お大切にお過ごしください。

2015/11/19 (Thu) 03:40 | 大庭 綺有 #- | URL | 編集

お写真、違っていたらどうしよう?

恥ずかしーい(汗)。

2015/11/19 (Thu) 03:41 | 大庭 綺有 #- | URL | 編集

大庭さん

これはもうサン・ステファノ教会前の広場に間違いありません。私も今年6月にここに立ちました。素敵な光景でしたね。

2015/11/19 (Thu) 11:46 | Yutaka Hoshino #rmkBes5Y | URL | 編集
Re: タイトルなし

大庭 綺有 さん、こんにちは。そうですよ、聖ステファノ聖堂の前で撮ったものです。ボローニャの何処もが私には思い入れのある場所ですが、此処は其の中でも格別です。私が相棒の家族に会うために、初めてボローニャに来た時に足を運びました。春がようやく始まるといった頃でした。これが7つの教会群。相棒はこの教会のことをそう呼んで、もうじき閉まる時間と言う頃に中に入ったのを覚えています。中ではミサが行われていて、声を出さぬように、足音を立てぬようにして中を見て歩いたものです。
旅先の思い出はいつまでも心に残るものですね。でも心に残っている理由は其ればかりではないのかもしれません。其処が自分と相性の良い場所だからなのかもしれないし、もう一度訪れたいと思っているからなのかもしれません。是非、またボローニャに来てください。

2015/11/20 (Fri) 22:45 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

Hoshinoさん、こんにちは。ボローニャを訪れた人で、この教会の前の広場のことを忘れてしまうような人は居ないでしょう。味わいのある、印象の強い空間なのですから。6月の広場と11月の広場。空気と光の色が異なるので、違う印象を受けます。それがどう違うかは、目で見て確認するのが一番です。秋生まれの私ですから、秋の美しさは格別に感じます。

2015/11/20 (Fri) 22:49 | yspringmind #- | URL | 編集

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