感謝すること

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11月になった。今日、11月1日はTutti i Santi (諸聖人の日)の祝日だけど、日曜日に重なったから祝日の実感はあまりない。敢えて言うならば、亡くなった人達を愛おしむために墓地へと足を運ぶ人が普通の日曜日よりも多いことだ。そして其れに伴って、花屋が日曜日だと言うのに終日営んでいることで、Tutti i Santi の祝日であることを感じたりするのだ。
昨日、旧市街を歩いていたら花屋の店先がとても賑わっていた。混み合っていたと言う訳ではない。店先に並べられた色とりどりの南瓜で賑わっていたと言う意味である。ハロウィーンと言うよりは、アメリカのサンクスギビング、つまり収穫感謝祭みたいな意味で置かれているらしかった。私はそれを眺めながらこの国にアメリカの文化が浸透してきたことに驚いていた。オレンジ色の南瓜。大きいものから小さいものまで。それから濃い緑色の南瓜。日本の南瓜によく似ているものもあれば、まるで作り物かと見間違えてしまうような美しい色のもあった。それらをひとつづつ観察しながら、私は遠い遥か昔のことを思い出していた。

アメリカで、相棒と私が暮らしていたフラットは、坂道の多い、若者や、年をとっていても若い気持ちを持った人たちが多い界隈にあった。少し行けば70年代にヒッピーが集まった通りがあったし、少し坂を上れば医学校とメディカルセンターがあった。そしてもっと坂を上れば、丘の上に出て街を眺めることが出来た。あの界隈に暮らすことになったのは、私にとって幸運だったと言えよう。フラットは、相棒が十何年も住んで居たものだったから、私が転がり込んだと言って良かった。2ブロック先の角のベーカリー。タサハラと言う名で、へんなの、と思いながらも、其の店のパンは目が覚めるほど美味しくて、毎日通った。ベーカリーと言いながらカフェも兼ねていた。毎日通う客は随分多いと見えて、店に入ると見慣れた顔が並んでいた。窓際で新聞を広げて朝食をとっている隣の家の住人。ヴィクトリアン調の一軒家を持つ裕福な老人だ。歳はとっているが心が若く、いつも綺麗な色のシャツを着ていて、足取りも軽かった。偏屈者との噂だったが、少なくとも私には愛想のよい陽気な人だった。それから近所で骨董品店を営む人。裏のフラットに住む、何時もバスの停留所で一緒になる男性。それから、それから。でも挨拶をするだけ。皆、手にした新聞を読むのに夢中で、挨拶を交わすと直ぐに新聞に戻る。坂道の途中にあるオーガニックのグロサリー・ストア。其処には洒落た男性が居て、確か私は彼の名前を聴いていた筈だけど、何時も名前を思い出せなかった。彼は不思議な人で、色んなところに出没する。いつもスケートボードで移動して、バスに乗るのは雨が降る日くらいだった。何が洒落ていたかって、彼が被っていた黒いフェルトの帽子だ。何処かの高級な帽子だったかもしれない。大変仕立てが良くて、光沢があった。その帽子の下から後ろに束ねた長い髪が、まるで猫の尻尾の様に垂れていた。グロサリー・ストアの仕事は本業ではなかったようだ。何かクリエイティブなことをしている人で、それが彼を包み込んでとても魅力的に見えた。其の店にはもうひとり気に入りの人が居た。フランス人の女性。まるで男のようにぶっきらぼうなのだけど、さばさばしていて私は大好きだった。店に買い物に行って、このふたりのどちらかが居るとご機嫌だった。ふたりが一緒の時は、これ以上の幸運はないと言うくらい嬉しかった。10月に入ると店の前に沢山の南瓜が並んだ。様々な形の、様々な色の南瓜たち。それらは収穫祭が終わるまでの約2ヶ月間置かれていて、私達の目を楽しませてくれた。ある日、買い物に行くと彼女と彼が居て、レジのところで話しているのが聞こえた。あの店先に置かれている南瓜たちの美しいこと。一年中見ていたいくらいだ。それに、そうしたら一年中、自然の恵みに感謝することを忘れないでいられる。そんな感じのことだった。一年中自然の恵みに感謝することを忘れないための南瓜たち。見て美しいだけでなく、感謝を思い出させる南瓜。あの日から私にとって南瓜とは、そんな存在になったのだ。それからもうひとつわかったこと。こんなことを考えることが出来る彼らは、やはり素敵だってこと。あれから20年が過ぎてしまって、もう街の様子も変わっているだろう。彼はもうスケートボードで移動することもないだろうし、グロサリー・ストアが今も同じように存在するのかもわからない。あの街では3つの場所に暮らしたけれど、私の心に今も残っているのは、周辺に個性的な店がある、あの界隈のフラットだ。

南瓜を家に置いてみようと思う。あまり大きいのは持ち帰れないから、手に乗る程度の大きさのを3、4個。一年中自然の恵みを感謝することが出来るように。それからあの界隈のあの人達のことを、時々思い出せるように。


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コメント

紅葉の話 興味深く読みました。だって わたしも フランスの紅葉は紅葉ではなくて 黄葉なので いつも物足りないなあ。と思っているのですもの。あの日本の素晴らしい錦のような紅葉が懐かしくて、もう少ししたら 貴女みたいに ここの黄葉も本当に美しいと満足できるようになるのかしら。。。

フランスにもハロウィーンの波は押し寄せてきていますよ。私と同じぐらいの年代の大人たちと話すと 彼らの子供だったときはこんなお祭りは無かったそうです。 万聖節の日に 墓地に菊やシクラメンの花を持っていく日 それだけだったそうです。だから いま 墓地の前を通り過ぎるととてもきれいですよ。

かぼちゃは自然の恵みに感謝するきっかけになるのですね。本当だ。色とりどりで形も面白いですものね。

2015/11/02 (Mon) 09:55 | kimilon #aKMr6UbQ | URL | 編集

yspringmindさん、こんにちは

11月に入り

京都は、本格的な紅葉シーズンを迎えます

華やかで、多くの人で賑わいますが

何だか、ちょっと、哀愁を感じる季節です

柄にもなく、

色んな事を、考えてしまう季節なんですよ^^;

2015/11/03 (Tue) 02:08 | 高兄 #eP1cGWnA | URL | 編集
南瓜そして冬支度

奇遇ですね。私も一昨日、函館近郊の農村まででかけて、南瓜を3個(+おまけで黄色い南瓜まで)購入してきました。もともとは越冬用のじゃがいも(20KG)を購入に行ったのですが、美味しそうな南瓜(しかも安い!スーパーの半値)があったので家人は珍しい大盤振る舞い。ちなみに我が家ではここ数年、この時期には越冬用の野菜を買い込んで、冬支度に入ります。じゃがいも、大根、人参、玉ねぎ、今年は赤カブも加わりました。物置小屋に置いておくと適度な温度でかなりの期間食べられます。特に南瓜やじゃがいもは保存期間中に糖度が増すらしく、どんどん美味しくなります。さて次は、イカや鮭を買ってきて粕漬けや飯寿司作りです。昨年は引越し・仮住まいで休んでしまったので、記憶をたよりに、こちらも貴重な冬季間の蛋白源(+贈答用)確保です。

2015/11/03 (Tue) 13:47 | Yutaka Hoshino #rmkBes5Y | URL | 編集

こんにちは、yspringmindさん。
サンフランシスコにわたしも行ってみたくなりました。
いろんな、景色、いろんな人。

2015/11/05 (Thu) 11:15 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

kimilonさん、こんにちは。日本の紅葉の素晴らしさを見たことのない人に説明するのは難しいですね。燃えるような紅と言ったとしても言葉が足りないような気がします。そういう素晴らしさを知っている私達は幸運と言うべきなのかもしれませんね。黄葉も美しいけれど。
私がアメリカからボローニャに引っ越してきた頃、ハロウィーンはちょっと風変わりな考え、若しくは型にはまらぬ自由な人々だけが其れを楽しんでいました。10月31日の晩は奇妙な人たちが歩いているから、外に出てはいけないよと舅姑に言われたことを覚えています。あれは単に仮装なのになあ、と想ったことまで覚えています。
ところでヨーロッパの人々にとってのお墓は、決して近寄りがたいところ、近寄りたくないところではないようですね。寧ろ、愛おしい人々が眠る、とても身近な存在、と言った感じがしますね。

2015/11/06 (Fri) 00:07 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

高兄さん、こんにちは。ああ、京都は紅葉で美しいでしょうね。いつかこの時期に京都を訪れたいです。でも人混みが苦手な私にはどうでしょうか。若い頃は秋になると少々メランコリーになったものですが、最近秋になると、心の底から空気が抜けてリラックスできるのです。秋生まれの私は、秋と相性が良いようです。

2015/11/06 (Fri) 00:25 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: 南瓜そして冬支度

Hoshinoさん、こんにちは。函館近郊の農村まででかけて南瓜を3個、なんて素敵ですね。想像してみたら、、ひんやりとした空気が伝わってくるようでした。それから、越冬用の野菜を買い込んで、冬支度に入ると言うくだりが物語みたいですね。そちらではこれはごく普通の事なのでしょうか。それにしたってイカや鮭を買ってきて粕漬けや飯寿司作りとは、女性はこの時期大忙しですね。いやあ、しかし粕漬なんて、もう何十年も食べていません。これを聞いて食べたい病が始まらなければよいけれど。。。

2015/11/06 (Fri) 00:34 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。つばめさんにサンフランシスコを一度は見ていただきたいです。私が今でもこの街の思いを引きずっている理由がひと目でわかって頂けると思いますよ。

2015/11/06 (Fri) 00:36 | yspringmind #- | URL | 編集

夢の海外旅行リストに入れておきます。
いま、行ってみたいのは、
イタリアのトスカーナの風にあたる、フィレンツェのウフィッツイ美術館に行って「春」を見る(一度だけ行きました。)、ボローニャでyspringmindさんとワインをいただく、サンフランシスコの解放感を感じる、ニューヨークの人種のるつぼに身を置いてみる、カナダの広さを見る、イギリスのスコーンを食べて歴史の古さを見る、アフガニスタンのポプラ並木を見る、オランダの自由さを見てクロケットを食べてゴッホを見る、ベルギーでベルギービールを飲む、サハラ砂漠で自然の厳しさを感じる。
だいぶ、かたよってると思いますが。想像しただけで楽しい。

2015/11/09 (Mon) 15:04 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。夢の海外旅行リストですか。イタリアのトスカーナの風にあたる・・・これいいですね。そのついでにボローニャに来て頂いたら、一緒に美味しいものとワインを頂きながらお喋りしましょう。
サハラ砂漠で自然の厳しさを感じる。これは面白いです。私は、もう一度アリゾナやネヴァダの砂漠地帯を旅したいです。夜には驚くほど大きな星が降ってきそうなほど沢山あって。うん、もう一度だけでもいいから。

2015/11/11 (Wed) 00:27 | yspringmind #- | URL | 編集

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