美しい9月の週末

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疲れていたらしい。目覚まし時計が鳴ったのを直ぐに止めて、もう一眠りしたら随分な時間になっていた。でも、よく眠ったので気分がよく、ああ、こんな眠りが必要だったのだと今更ながら気が付いた。被害をこうむったのは猫。いつもの時間に朝食のサービスが無いので、朝から酷く怒っている。それも朝食が済めばいつものように上機嫌。やはり、食事は大切なことなのだ。お腹が空いていては、何も始まらないのである。
猫の朝食の後は人間の朝食。カフェラッテと先日フランス屋で購入したビスケットでゆっくり朝食を楽しんだ。窓の外は酷く天気が良く、テラスの植物がきらきら光っていた。あれこれ片づけをして、そうだ、暫く水をくべていないことに気が付いて、植物と言う植物に水をくべた。涼しくなったとはいえ、もう少し頻繁に水を与えなければいけないと反省をしながら。そうして身支度をして外に出た。

時間はもうじき昼で、太陽が高く上っていた。いつもならば15時ごろまでに帰ってこなければならない。毎週土曜日15時半に、知り合いの女の子の日本語会話の手伝いをしているからだ。この時間はちょうど良いようで実に不都合。いつも大急ぎで帰ってこなければならない。時間帯を替える提案をしようと思いながら、なかなか言い出せないでいるのは何故だろう。兎に角、今日は無しなので、気ままな散策を楽しめるのである。
行先は七つの教会群の前の広場の骨董品市。毎月とても楽しみにしているのだ。毎月第二週末に立つこの骨董品市だが、7月8月と夏休みだったので3か月ぶりなのである。時には同じものばかり置かれていて退屈なこともあるけれど、今日のそれは実に新鮮で、全く見ごたえがあった。面白かったのは化石の店。魚の化石を直に見たのは初めてだった。小さな魚のもあれば、20センチほどの大きな魚の化石もあった。ブラジルから持ってきたものだと言う。店主は髭が実にむさくるしく、よれよれのつばの帽子を被っていて、いかにもこういうものを求めて外国を彷徨っているような男性だった。これは、これは、と質問ばかりする私に辛抱強く答えてくれた。それからミネラルの石。拳ほどの大きなもので、乳白色の物や深い緑色のものもあった。私はこの手のものが大好きで、一頃酷く凝ったものだけど、アメリカを去って以来ずっと忘れていた。ミネラルの石を見ながら胸をときめかした、なんて言ったら、相棒は何と思うだろうか。変な奴だと思うだろうか。それとも、こうしたものを出窓のところに飾って、太陽の光で輝いていたことを思い出すだろうか。
絵を売る店は思いの外に観客が多かった。そのうちのひとりは購入に踏み切ろうとしているらしく、あれこれ質問をして絵を吟味していた。色のない、デッサン画のようなものだった。ひと目でみて素人ではないと分かる、確信をもって描かれた線だった。彼はあれを購入するのだろうか。いったい幾らで手に入れるのだろうか。そんなことを思いながら先へと進む。
鉄製の小さな家具を売る店に立ち寄ったのは、ずっと探しているものがあるからだ。もう1年以上探しているが、未だに見つからない。うちにひとつある、それに似たもの。同じである必要はないが、似た雰囲気を求めている。急いではいないから、妥協する必要はない。それに出会うまで探し続ければいいだけだ。
それから、いつもの、ボタンを売る店。店に置かれているボタンは半端ものだったり、古い衣服についていたものだったり。だから数が限られているし、サイズも色も限定されている。と、緑色のボタンを見つけた。小さくて深い味わいのある微妙なトーンの緑色。丁度身に着ていたカーディガンに良く似合うような。店の人に了解を得てボタン穴に合うかどうか試してみたが、ボタンの方が一寸大きかった。これはどうかしら、と店の人が探してきたものも駄目。こんな小さなボタンはなかなかないのよね、と店の人が言ったが、全くその通りだと思った。あっ、と思って取り上げた小さな緑色のボタン。大きさは丁度よかったが、たったのひとつしかなかった。残念。諦めて、来月は別のもう少しい大きいボタンを探しに立ち寄ることを約束して、店を離れた。
古い書物を無心に読む男性を見つけた。いや、読んでいたのではない。中を物色しては閉じて横に置いて、次のを物色しては前に置いた書物の上に重ねる。そんなことを10回ほど繰り返し、(私はそんな彼の様子を興味深く眺めていたが、ひょっとしたら不審に思われたのではないだろうか。) さて、と言って重ねた本を一抱えして購入した。まあ、一冊が3ユーロほどのものであるが、こんなにまとめ買いする人はあまりいないらしく、店の人は目を丸くしていた。彼は家に帰ったら、アームチェアに深々と座って、ひとつひとつを丁寧に読んでいくに違いない。
美しい9月の週末。2時間も見て歩いた。難点は足が酷く疲れること。何しろ広場一面に丸石を敷き詰めてあるから、歩きにくいこと夥しい。しかし、楽しかった、と心の中で呟く。このくらいのことでこんなに楽しい気分になれるのだから、私は案外簡単な、単純な人間なのだと思う。それでいい、それでいい。私は単純な自分でありたいと思う。

夕方暗くなるのが早くなったことに今日気が付いた。日没は18時半ごろらしい。そんなことに気が付かない程、私はぼんやり生活していたのか。それとも忙しすぎたのか。心に余裕がなかったのかもしれない。もう少しゆっくり行こうよ。そう、自分に語り掛けた。自分らしく生活することを忘れないようにしよう。そんなことを思った土曜日。


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コメント

ボローニャの古本屋

yspringmindさん

記事の骨董市の場所は7つの教会前=サントステファノでしょうか。あの界隈は滞在中にすっかりお気入りになって、3度も出かけました。三角形の不思議な雰囲気の広場空間ですね。あそこで骨董市もあるんですね。旅行者としてはなかなか日程を合わせることが難しいのですが、機会があればぜひ覗いてみたいですね。それから古本。ボローニャから戻ってからふと書棚に「世界古本探しの旅」という本がみつかり、あまり期待せずに開いてみると、なんと「ボローニャ」という章がありました。恐る恐るページをめくると
Giuseppe Zanasi、Libreria Palmaverde, Di Dalle'Occa と3軒も紹介されていて、しかもいずれも市庁舎から遠くない場所。ということは近辺を歩き回ったはずなのですが。
というわけで、再度ボローニャに行く理由がまたひとつ増えたわけです。

2015/09/13 (Sun) 08:36 | Yutaka Hoshino #rmkBes5Y | URL | 編集

こんにちは、yspringmindさん。
回廊を散策している人たちの力がぬけている感じがおもしろいです。
光の加減も雰囲気もよく伝わったきます。ああ、こんな色合いの時間と街なんだなと

フランス屋のビスケット、おいしそうですね。

骨董市にまるでいるみたいです。

2015/09/13 (Sun) 16:27 | つばめ #- | URL | 編集
Re: ボローニャの古本屋

Hoshinoさん、こんにちは。そうです、サント・ステファノ広場です。サント・ステファノ教会をボローニャの人達は七つの教会群という愛称で呼ぶことが多いのです。私が初めてボローニャを訪れたのは22年前ですが、その時にもこの骨董品市に行きました。あの頃と少しも変わっていません。確かに月の第二週末しかないですから、日程を合わせるのは難しいですね。この広場は秋、冬の夜が美しいです。恐ろしく冷え込んだ晩に、人が殆どいないそんな晩に、ポルティコの下を歩くと、自分の足音が響くのです。かつーん、かつーん、と。そして広場は橙色の街灯に照らされて、中世に戻ってしまったかのような様子です。そんな中で、はーっと白い息を吐いてみると、夢を見ている訳ではないのだと実感することが出来るのです。
3軒も紹介されていた本屋さんですが、さっそく場所を調べてみましたら、へえ、こんなところにあったかなあ、と首をひねりました。前を歩いていながら気が付かなかったなんて。地味な店構えなのでしょうか。多分ぼんやり歩いていたのでしょうね。兎に角、Hoshinoさん、これでボローニャに来る理由が出来ましたね。

2015/09/13 (Sun) 22:03 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。昨日はとても良い天気で、気温も上がって軽装な人が多かったです。私も久しぶりに軽装のリラックスモードでした。そもそもボローニャの9月とは、こんな感じの筈なのに。今年は急に涼しくなって、ちょっと驚いていたのですよ。
骨董品市では何も購入しませんでしたが、とても楽しい時間でした。目で楽しむ、と言うのでしょうか。いや、店の人とのお喋りも、負けず劣らず楽しいんですよ。

2015/09/13 (Sun) 22:08 | yspringmind #- | URL | 編集

yspringmindさん

早速調べていただいたんですね。古書店。恐縮です。でも多分地元の人でも気づきにくいくらい地味に(そういうのが実は古書店らしいのかも)しかし、しっかり堅実に続いているんですね。私の場合は実は古書よりも古地図に興味があって、ボローニャの古地図も随分ネットで調べましたが、きっとこうした古書店に行けばまだまだ残っているのではと想像しています。なにしろヨーロッパ最古の大学があった街ですから。それにしても22年前から変わらぬ骨董市とは!この4半世紀に日本の地方で消え去ったこの種の「市」がいかに多いことか。
ボローニャ再訪、いまから愉しい予感。

2015/09/14 (Mon) 13:00 | Yutaka Hoshino #rmkBes5Y | URL | 編集
Re: タイトルなし

Hoshinoさん、こんにちは。古書店はときどき見かけますよ、散策の途中で。何処も小さな間口で奥行きもあまりなく、人が入っているところを見たことは一度もありませんが、それでも店を閉じずに済んでいると言うことは、其れなりに客がいると言うことでしょう。古い地図に興味があることですが、私もそうです。昔は旧市街のど真ん中に店がありましたが、忽然と消えてしまいました。素晴らしい店でした。一度だけ遠方から来た友人を連れて入ったことがあります。

2015/09/15 (Tue) 23:01 | yspringmind #- | URL | 編集

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