祝日の前に

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朝方の涼しさが夢だったかのように、気温も湿度もぐんぐん上がった金曜日。今日は単なる金曜日とは違う。明日の祝日を目の前にして、午後には多くの店が閉まってしまうこともあって、世間は朝から買い物に忙しい。それでなくとも多くの店が8月早々シャッターを下ろしたきり長い休暇から戻ってこないというのに、其の上残りの店まで、つまり街に残る人達の命綱のような店なのだけど、これらが皆祝日の前日の午後早々店を閉めてしまうのだから、大変なことである。大きなスーパーマーケットやショッピングモールなどは例外だけど、私や周囲に暮らす人たちが足を運ぶような小売店、若しくは食料品市場などは毎年そうと決まっているのだ。早々に目を覚まして身支度をして家を出た。いつもより交通量が多い気がする。バスもいつもよりも更に混んでいた。何だ、皆、何処ぞの海や山へ出掛けているのかと思っていたのに。そんなことを思いながら周囲を観察しているうちにバスは旧市街に入って行った。

サント・ステファノ通りのパン屋は今週来週と夏期休暇の筈だ。此処の天然酵母のパンは美味しくて、特に全粒子のパンが私と相棒の好物だ。この店がこの通りに開いてからまだ数年しかたっていないが、客が途絶えることが無い。仕事帰りの夕方遅くに目当てのパンがある日などは、今日はついている! と、うきうきしてしまう程である。バスの窓から店が閉まっているのを再度確認して、あと10日間の辛抱と自分に言い聞かせた。旧市街にパン屋は幾軒もあるけれど、此れだというパン屋は数えるほどしかない。いや、私好みのパンを置く店が数えるほどしかないというべきか。私は黒パンの、ずしりと重くてもっちりしたもの、それとも丸くて大きなプーリアのパンが好きだ。どちらにしても外側はパリッとしているが中はしっとりしているものがいい。思いつく限りのパン屋を訪ねたが、何処も閉まっていた。結局辿り着いたのは旧市街のATTI。何だ、この店こそ夏期休暇と思っていたのに、結局ここしか開いていなかったなんて。初めからここに来ればよかったのにね、と店の女性に諭されながら、でも午後2時には閉店よ、と言われて、朝のうちに来たことを幸運に思った。パンごときで幸運とは。しかしパンが無くてはうちの食生活は始まらないのである。さて、今度は野菜と果物だ。此れもかなり難しい。何しろいつもの店は7月下旬から休みだ。其の上、あっちもこっちも夏季休暇で、チョイスが少なかった。何度も見比べてやっと決めたのは、2軒の魚屋の隣の店。この店で買い物をしたことは無いけれど、見る限りここの桃が一番おいしそうだったからだ。白桃、今日食べられるような甘いものを4つ。桃の無い夏なんて、というくらい私は桃が好きだ。桃ならば白でも黄色でも良い。しかし甘くて食べ頃の、皮をするするとむけるようなものでなくてはいけない、と私なりの拘りが大きい。ダッテリーニと呼ばれる真っ赤な小粒トマトを4掴み。此れが冷蔵庫の中から無くなると困る。何が無くてもこれと美味しいパンがあれば、何とかなる、というのが私と相棒の言い分だ。それが冬ならばそうはいかないけれど。そもそも冬には美味しいトマトなど滅多に手に入らないのだから。トロペア産の赤い玉葱、小振りなのを4つ。赤い玉葱ならば何でもよい訳ではない。やはりトロペア産でなくては。トロペアと言うのは南イタリアの、カラブリア州にある海の町の名前である。美しい海を持つこの町で何故玉葱なのかは知らないけれど、イタリア人がトロペア産の赤玉葱に酷く拘るのには理由がある。そして私が拘るのにも大きな理由がある。この玉ねぎは一般的に薄くスライスしてサラダにして頂くのだけど、玉葱臭さや諄さが無くて、とても消化しやすい。生の玉葱なんて、とボローニャに暮らし始めた頃は毛嫌いしたものだけど、トロペア産のを食べてから、生の玉葱が好きになった。大きな大蒜を2玉。大蒜が無い台所なんて、というくらいの必需品だ。それから偶然見つけた手のひらほどある大きな生姜をひとつ。昔ならこんな風に偶然手に入ることなどなかった。本当に良い時代になったと思いながら勘定を済ませる。7ユーロにもならない。良い買い物をしたと思ったので、Buon Ferragostoと言って機嫌よく店を出た。そしていつものジェラート屋さんで1Kgのジェラートを購入して家に帰った。
家に帰ると相棒がいて、私が手に提げている袋の中身が全て食料品であることが分かると、こんなことを言った。何だ、食べ物ばかりなんだね。君がこの前話していた、素敵な白い麻のシャツを買いに行ったのかと思っていたのに。・・・そうだった、そういう買い物もありだった。うっかりしたな。

明日はFerragosto。聖母被昇天という、キリスト教の祝日。しかし其ればかりではない。8月の休暇なのだ。これを過ぎると夏が背を向けて立ち去るように感じるのは私だけなのか。この日を過ぎても暑さは続くし、これを過ぎても夏の休暇も続くけれど。

風の音。気がさざめく音。猫の寝息。近所の老人たちが寄り集まって、世間話をする声。どれも夏の午後の象徴みたいなもの。心の雑記帳に書き留めておこう。


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コメント

yspringmindさん、こんにちは。
パンが無くてはうちの食生活は始まらないのである、良いですね。我が家はご飯を欲しがる人がいるため、少し違うのですが、住んでいる辺りがイタリア人街で、パン屋(HotBreadと看板に書いてあったりして)があり、イタリア語を喋るおばさんが手づかみでパンを棚からわしわしと入れてくれます。でも、Deinnerroll等はちょっと柔らかいかも。
私の近所はイタリア系とベトナム系のパン屋かで二分化されている感じでしょうか。ご存知かもしれないですが、ベトナムサンドイッチはコリアンダーやらチリやら入っていて、その場で作ってくれるし美味しいんですよね。

2015/08/16 (Sun) 03:43 | TSUBOI #- | URL | 編集

こんにちは、yspringmindさん。
食材が力強い感じがしました。

あまり手を加えない方がおいしいですね。
イタリア料理でもいろいろ街のイタリア料理から田舎のイタリア料理からあるのでしょうが、ごく簡単な手のこんでないのがいいな。
塩ふって焼いただけとか、ゆでただけとか。材料が新鮮だったら、あまりこねくりまわさない方がいいですよね。
人を育てるのもそうなんじゃないかなー。

トマトとパンがあったらどんなふうに食べられますか。
日本のトマトは、桃太郎トマト、妻せつこ…と、こんな名前のトマトがあるんですよ。品種改良のトマトの戦いです。イチゴも、豊の香イチゴ、さちのか、とちおとめ、あまおう、かおりの…など、イチゴ戦国時代と母が言っていました。

桃美味しそうですね。
ほんとに、材料そのものがおいしそう。きっと、品種改良とかあまり手が加えられてないのではないでしょうか。酸っぱいものは酸っぱく、苦いものは苦く。

盆がすみました。
たまたま聖母被昇天とお盆が重なったと思えないような一日です。お盆って、終戦記念日より前からありましたよね。日本では戦後70年ということで、新聞、テレビも特集をくんでいますよ。
NHKのある番組で、一人ずつが国を意識せず一人の人と人して接すれば、戦いをしようなんて思わないと言ってるのを聴いて、ほんとに、個人個人の人通しならそんなことないのになあと思いました。
これから、いいほうにいけばいいですね。

2015/08/16 (Sun) 15:54 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

TSUBOIさん、こんにちは。私は昔からパンが大好きなのですが、それ以上にパンを愛する人がうちに居るために、パンが無い?それじゃあ、食事が出来ないじゃないか、と大騒ぎになります。私は長いことボローニャで美味しいパンに巡り合わなかったので、長いことパンが無くても大丈夫でしたが、気に入りのパン屋が見つかってからは、相棒同様パンの有無に大変拘るようになりました。
住んでいる辺りがイタリア人街なんですか。早々、イタリアではパンを手づかみしますよ。そして紙袋にがさがさと突っ込む。それでベトナムのサンドイッチは、私は未だに食べたことがありません。いつも店に行くと別の物に目が移ってしまう・・・というのが理由です。私はコリアンダーが大好き。コリアンダーいるのものは何でも食べますよー。(でも残念ながらイタリアは、ベトナムの店はほとんど皆無に等しいです。)

2015/08/17 (Mon) 19:19 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。力強い感じがしたでしょう?食抜きでイタリアの生活は語れませんと言う程、食に拘りや執着があるのがイタリアです。
夏の素材は兎に角太陽の恵み一杯なので手を加えなくとも旨味が一杯で、だから簡単であればあるほど良いという感じがします。それはもしかすると、少しでも手を抜こうとしている私だけが感じていることなのかもしれないけれど。でも、本当に材料が新鮮だったら、あまり手を加えなくてもいいと思うんですよ。
トマトとパンがあったら・・・私はトマトとバジリコをザクザク切って上等のオリーブオイルと塩で和えたものをスライスしたパンに乗せて食べます。でもパンには大蒜の旨味を足すためにごしごしこすりつけてお九のも忘れてはいけません。あ、パンはスライスしてから軽くオーブンで焼くといいですね。ローマ辺りではザクザクのトマトとオリーブの中に乾いてしまったパンを混ぜで食べますが、これは大蒜が驚くほど入っていて、夏バテにいいですよ。
日本のトマトは、桃太郎トマト、妻せつこ…、妻せつこって本当ですか???これ、凄い名前だと思いませんか???だって、妻せつこですよ!!!

2015/08/17 (Mon) 19:37 | yspringmind #- | URL | 編集

近々作ってみますね。
さらっと食べれそう。夏にいいですね。いいオリーブオイルは何がちがいますか。

九州のトマトだったと思うんですがね。いまでは豆腐まで、豆腐屋ジョニーという名前で上の蓋に漫画で男性が描かれていたり、カニカマならぬホタテかまぼこが出てきている状態です。
なんでも擬人化するのが好きなんですかね。
ちょっとイタリアの人達がみたら、意味不明と思うのか、クールと思われるのかわかりませんが。
妻せつこというトマトは縦15センチ、横20センチくらいの袋に卵くらいの大きさの普通の形のトマトが5個くらい入って売られていました。
味はわかりませんが、売ることを強く意識していますよね。どうにかしてブランド名を作って残したいのだと思います。トマトはトマトなのですがね。
このような動きというか、取り組みというかイタリアで見受けられますか。

2015/08/18 (Tue) 15:07 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんなに簡単な料理はありません。もしかしたら料理とも呼ばないのかもしれませんよ。ははは。
上等のオリーブオイルは色も風味も味も上等です。それは普通のと上等なのを横に並べれば、一目瞭然なのですよ。一度使ったらもう後には戻れませんので要注意。
豆腐屋ジョニーには参りましたね。確かにいることを強く意識していますね。実に日本らしいと思いました。イタリアではそういうものは存在しないと思います。少なくとも私の周囲には。トマトは昔からある品種が基本で、しかしトマトと言っても品種が沢山。デつに品種改良したのではなくて地方ごとに違うということです。桃だって、白桃か黄桃か。最近は平たい桃が出ていますが、せいぜい其の3種。名前はありません。桃ですよ。単に桃と呼ばれています。
何時かイタリア人を日本に連れて行って、此れがトマトの妻せつこだと言ったら、大笑い、後数年、ずっと話のタネになること間違えありません。

2015/08/19 (Wed) 17:54 | yspringmind #- | URL | 編集

なんどもすみませんね。
そうですか、妻せつこで大笑いに。
わたしは、大真面目にイタリア的野菜の扱い方が至極自然で受け入れやすいです。
なんとなーく、日本においてはとにかくどの業界も生き残り作戦がめまぐるしいような。批判してるのではなく、はなはだちょっとずれてませんかも思うことも。
コーンポタージュ味の棒アイスもありますから。平和なのでしょうね。

2015/08/21 (Fri) 17:10 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、思うに日本は名前をつけたがりますよね。それから言葉を作るのも好き。それも日本のひとつの文化なのかな、みたいな感じがします。イタリアは、言葉を作る、という習慣がありません。言葉が新しく生まれるということが無いのです。廃れて使われない言葉はいくつかありますが、それだって60年ほどたって使われなくなると言った感じです。基本的なところで違うんですよ、日本とイタリアは。

2015/08/22 (Sat) 22:26 | yspringmind #- | URL | 編集

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