風に膨らむ

DSC_0004 small


ボローニャには中間の、微妙な季節というものが存在するものの、うっかりすると見逃してしまう程あっという間に過ぎてしまうことが多い。例えば春。例えば初夏。今年が良い例で、春と冬を行ったり来たりしているうちに突然夏になってしまった。檸檬色が良く似合う初夏を楽しむ暇もなかったとぼやく私に、何時だってそうじゃないかと周囲の人達は笑う。そうだ、今更ぼやくのもおかしいくらい、何時だってそうなのだ、ボローニャでは。窓という窓を開け放って家の中に風を招き入れる。カーテンが風に膨らんだり萎んだりするのを眺めながら、土曜日の午後を過ごすのは至極幸せ。用事は午前のうちに済ませてしまい、午後は何の約束も入れずにとっておいた特別な時間。テラスの植木に水をくべたり、日頃ないがしろにしている小さな事を片付けることすら楽しく感じるのは、自分が思っている以上にリラックスしているからだろう。

6月6日。甥っ子の誕生日。姉の初めての子供で、私の初めての甥っ子だった。甥っ子は私と波長が合うのか、いつも私にくっついていた。私がアメリカへ行くと決めた頃、週末になると風通しの良い自分の部屋の、窓の前に置いた机に向かって英語を勉強していることが多かった。甥っ子は私の隣に椅子を置いて、私の勉強を阻止するのに夢中だった。遊んでもらいたかったのだろう。でも、私はアメリカへ行くことの準備に夢中だったから、甥っ子に手を焼いていた。母は私がアメリカへ行くことを4年間反対したが、観念して、好きなようにすればよい、あなたの人生なのだから、と言って応援してくれるようになった。そうして24年前の夏、私は家を出た。後から姉から写真が届いた。別れの為に私に手を振る甥っ子の写真。とても悲しそうで今にも大粒の涙が零れ落ちそうな、そんな表情だった。今日、甥っ子は27歳になったそうだ。彼がそんな昔のことを覚えている筈もない。そして私は数年に一度しか会わない、存在感のない叔母さんなのだ。
そんなことを思ったのは居間のカーテンのせいだ。クリーム色かかった透けた素材に60年代風の刺繍が施されている。先日、生地屋さんでこのカーテン地を見つけて一目惚れした。こんなのをずっと探していたのだと言って喜び、店主の好意で手ごろな値段でカーテンに仕上げて貰えることになった、それを今朝引き取って来た。酷い暑さで外に出るのが嫌だったけれど、新しいカーテンを早く吊るしたかったのだ。背の高い脚立に乗ってカーテンを吊るすと、私が描いていたイメージ通りだった。風に膨らむその様子は、船の帆が海風に膨らむようだった。萎むその様子は、引いていく波のようだった。それを眺めていたら家族みんなで暮らしたあの田舎町の家を思い出し、まるで映像の早送りのようにして沢山のことを思い出した。父は元気で毎日仕事に行っていたし、母は炎天下で梅を干していた。私と姉はビートルズに夢中で、そしてアメリカ映画に夢中で、それからそれから。

日没の時間が近づいて、空の色がようやく落ち着いた。今夜も月が美しいだろう。そして明日も暑い一日になるに違いない。


人気ブログランキングへ 

Pagination

Comment

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • 2015/06/07 15:06

yspringmind

鍵コメさん、こんにちは。極上の褒め言葉、ありがとうございます。
ボローニャは連日32度で、頭がくらくらするような重い空気が立ち込めています。何しろここは盆地ですから。私がアメリカからここに引っ越してきた時は、本当に驚きました。湿度と照りつける太陽でやる気がすっかり無くなってしまったといっても過言ではありませんでした。雨降りよりは有難いです。しかし何事も程々に・・・というのは、此処イタリアでは通用しないようですよ。
  • URL
  • 2015/06/07 23:04

つばめ

こんにちは、yspringmindさん。
ふかい色合いの布がいっぱいありますね。
甥っ子さんは、お元気ですか。
  • URL
  • 2015/06/08 13:56

yspringmind

つばめさん、生地屋さんを物色するのは本当に楽しいのです。時々はっとするような美しい柄や色に出会うと、此れで何を作ろうかと想像するのも楽しいものです。
甥っ子は元気なよういです。大きくなっても私にとっては小さな甥っ子のように思えます。
  • URL
  • 2015/06/09 21:43

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • 2015/06/14 13:50

yspringmind

鍵コメさん、はじめまして。コメントありがとうございます。6月末からボローニャに来られるとのこと、楽しみですね。こちら只今暑いうえに天気が全く不安定で、天気に振り回されっぱなしですが、鍵コメさんがこられる頃にはすっかり夏が安定するでしょう。
ボローニャに腰を据えて暮らすみたいに滞在するのは良い案ですね。ボローニャとは、そんな形が良く似合います。これからもお付き合いお願いします。
  • URL
  • 2015/06/16 20:01

Post Your Comment

コメント:登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

yspringmind

Author:yspringmind
ボローニャで考えたこと。

雑記帖の連絡先は
こちら。
ysmind@gmail.com 

フリーエリア

月別アーカイブ

QRコード

QR