夜風

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6月になった途端、初夏になった、と思う。爽やかな空。強い日差し。少し前の肌寒さを思い出すことが出来ないような、そんな気候になった。そんな気候で、昨夜は美しい真珠のような満月に恵まれて感嘆した。テラスに設けた小さなテーブル席での集い。元々は食前酒をと思っていたが21時になってもまだ空が明るくて月が見えなかったので食事を済ませてからのワインだった。月を眺めながらテラスで過ごすことを喜んだのは相棒。昔は良くそんな時間を楽しんだのに、と懐かしがったのも相棒。

先日、相棒が倉庫にしまってあった古い箱を開けたら写真が出てきた、と数枚の写真を家に持ち帰った。古い箱とは20年前にアメリカからコンテナで運んできた箱のひとつで、相棒はいくつかの箱を未だに開けずにいたようだった。兎に角ものすごい量の荷物だったし、幾度も引越しをしたし、それに彼はそう言う作業が大の苦手だから、大して驚くようなことでもなかった。夫婦とは言え、彼のものを勝手に開ける気はない。私達はもう大きな大人なのだから、自分のものは自分で片付ける、それが好ましいというものだ。それで相棒は偶然見つけたそれらの写真を嬉しそうに私に見せてくれた。22年前に私と相棒が結婚したばかりの頃の写真だった。一枚は親しい友人ふたりを家に招いて大きな蟹の夕食を頂いた後に屋根に上って撮った写真だった。誰もが酷く若くて輝いていた。背後に見えるのはいつも窓からめていた景色で、そして私達がこんな風にして月を眺めるために時々屋根に上った時に見た景色だった。その辺りには私達の友人知人たちの家が散らばっていて、忘れようにも忘れられない眺めだった。こんなに若かったのが彼にとって感動的だったのかと思えば、そうではなかった。こんなに輝いていたことを、こんなに生き生きしていたことを、彼は彼なりに眩しいと感じて、懐かしく、そして今までになく屋根からの眺めを恋しいと思ったらしかった。他の写真も同様で、新婚旅行と名付けて、結婚して4か月も経ってから出発したアリゾナへと向かう途中に砂漠で撮った写真などで、どれもこれも笑ってしまう程若く、私達は確かに輝いていた。
どうして僕たちはボローニャに来てしまったのだろう。昨晩満月を眺めながら相棒が呟いた。それは君に言って貰いたくなかったという私に、彼はうんうんと頷いて、そうだ、僕の両親の為だったと彼自身に言い聞かせていたけれど。後悔しているのだろうか。

昼間の暑さはうんざりだった。何しろ微風すらなかったし、こんな暑さがあることを私達はすっかり忘れていたからだ。猫も初めての暑さに手こずっているようだ。真珠色だった満月が今夜は黄色いなどと思いながら外を眺めていたら、夜風。夜風が吹き始めた。火照った肌を冷ますような、ひんやりとした夜風。私と相棒の、郷愁や後悔にも似た気持ちの熱も冷ましてくれればいいのに。ほんの少しでもいいから。


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コメント

こんちは。
一昨日梅雨入りし、気温が下がり寒い日が続いています。
北海道の山中では雪が積もり、やはり寒いはずと、うなずくてしまいましたが、寒さに耐えきれず、ウールのタイツまで履いちゃいました。
寒がりさんには、気持ち伝わるますよね。

満月の日には、美しいカラーのテーブルセッティングに思わず、ワット驚きました。
さすがですね、感性が磨かれいらっしゃると感心しました。

人それぞれ輝く時期は様々ですが、若い頃は若さだけでも輝きますよね。
年齢を重ね過ごし方次第で、人って物語る何かが見えてくるような気がします。
yspringmindさん相棒さんと、さりげなく輝いていらっしゃると想像しています。

2015/06/05 (Fri) 14:26 | すみれ #GYxcADzc | URL | 編集
Re: タイトルなし

すみれさん、こんにちは。そちらは寒いそうですね。梅雨入り…懐かしい響きです。
満月の晩は特別なのです。そして特別な晩にワインは欠かせません。美味しいワインを少し。お喋りが弾むんですよ。平凡な人生ですが、こんな風に小さな事を楽しむことを知っていれば、悪くないでしょう。
若い頃はそれだけで楽しく、美しく、輝いていると思います。そしてそれを過ぎると内側から輝くのではないかと思うのですがどうでしょう。磨くと美しき輝く原石。人は見なそうなのだと思うのですが、一度輝きを失った医師がもう一度輝きを取り戻すことはあるのかしら…と。

2015/06/06 (Sat) 22:32 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは、yspringmindさん
yspringmindさんは、ボローニャに来てよかったですか。
私も、似たような状況にいていまだ答えを出せずにいますよ。

2015/06/08 (Mon) 13:31 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。私は・・・私は色々言葉を付け加えたくもあるけれど、一言で言えばボローニャに来てよかったです。そういう世界があることを知ることが出来たし、そしてサンフランシスコが大好きであることも確認できたし。今は、此処にいるからこそできることを満喫したいと思います。

2015/06/09 (Tue) 21:41 | yspringmind #- | URL | 編集

こういう言葉に、yspringmindさんに話して聞かせてもらうと、なにか府に落ちます。ありがとう。

2015/06/10 (Wed) 02:29 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、人は皆、現実直視するのが怖かったり事実を認めるのが怖かったりするものですが、そして私もまたそのうちのひとりに違いないのですが、そうすることによって心がとても軽くなることも本当です。何だ、そんなことだったのか、なんて風に。

2015/06/14 (Sun) 00:09 | yspringmind #- | URL | 編集

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