雨の日のこと

P1010845 small


昨日に続き夕方の大雨。仕事を終えて帰る頃になると暗雲が空に広がる。昨夕は職場を出る前に降りだしたので30分ほど雨脚が弱るのを待たねばならなかった。そして今日はそそくさと外に出て、旧市街でバスを乗り替えるためにバスから降りたら大粒の雨が降りだした。と思うや否や滝のような雨になり、停留所に大きめの屋根があるとはいえ、それが役にたたぬほどの雨でどうしたものかと途方に暮れていた所にバスが来て助かった。この、助かった、は命拾いをしたなんて大袈裟なものではないけれど、それにかなり近いものだった。ほんの一瞬だったというのにコートが酷く濡れていることに眉をひそめたのは私ばかりではなかった。通路の向こうに座っていた若い女性もまた、大いに濡れたコートや靴に眉をしかめて、ちょうど目が合った私に向かって、一体どういうことかしら、と言わんばかりに肩を怒らせて見せた。私にもわからないわ、私だってほらね、と大いに濡れてしまったコートを広げて見せて目をぐるぐる回して見せると、傍にいた運転手が声を上げて笑い、全く酷い雨だ、前が見えなくて上手く運転が出来ないと言って私達常客を怖がらせた。雨とは、時に癖になるものだ。特に夏へと向かう頃の夕立。どうか雨の癖がつきませんように。私は心から願うのだ。

ボローニャに暮らし始めた頃、旧市街のアパートメントに暮らす相棒の友人の家と、丘の町ピアノーロに暮らす、やはり相棒の幼馴染の家に数週間づつ泊めて貰った。私達がそんな風にしてボローニャ生活を始めたことを、アメリカに暮らす私達の友人たちには理解できなかったに違いない。何故、家族のところへ行かないのだ、君たちは家族の為にアメリカを後にしたというのに、と。確かに、私達はだからボローニャにやって来た。けれども私達が入り込む隙間は、相棒の家族の中にはこれっぽっちもなかった。それに気が付いたのは、私達がボローニャに来てからだったから、俗に言う、後の祭りだった。ふたりの娘を病気で失った相棒の両親は、悲しみに塞いでいた。其の上、息子が連れてきた妻は外国人で、しかも東洋人だった。20年前のボローニャには東洋人が驚くほど少なかったから、目立って目立って仕方がなく、だから両親は何かと嫌な思いをしたに違いなかった。外国を知らない両親は、外国人の私がイタリア語を話せない言って溜息をついたし、日本などと言うとんでもなく遠くの異文化を持つ国から来た私を鼻から理解できない、と言った感じだった。だから、私達はそんな風にして友人知人のところに居候しながら、自分たちでボローニャの生活ベースを作り上げようとしたのだ。そして友人知人はそんな私達を出来る範囲で大いに支えてくれていたのだ。ピアノーロの丘に暮らしていた相棒の幼馴染、モニカの家にはいったいどれくらい居ただろうか。ある暑い6月の日、モニカと恋人のジーノに誘われて、車で旧市街の隅にあるピッツェリアへ行った。途中で友人を拾い、また友人を拾い、小さな車が満席だった。旧型ルノーはそれでなくとも狭いというのに後部席は5人という乗客で、警察に止められたら警告か、罰金か、減点になるに違いなかった。だから私達は車を降りて歩いていくよ、ピッツェリアで落ち合うことにしよう、と提案したのに急な大雨で私達は小さな車に7人乗らねばならなかったのである。とにかくすごい雨だった。ワイパーが忙しく行ったり来たりしながら、その隙間を埋めるように雨粒が当たっては私達に困惑の溜息をつかせた。あの雨。そう、あの雨だ。今日の雨によく似ていた。日本でも雨はよく降るのかと訊かれて、6月は雨の月だと私は答えた。毎日傘を持って出かけなければならないこと、7月の半ばごろまで雨の季節が続くことを言うと、そんな素敵な季節なのにお気の毒に、と言った感じのことを言われて、全くその通りだと思ったものだ。あの夕方の雨。雨に濡れたピッツェリアのフロア。雨の降る中、後から後からやって来たモニカとジーノの友人たち。どの人の名前も顔も忘れてしまったけれど、私が外国人であることを嫌がる人などひとりも居なかった。むしろ、そんな私を応援してくれた人達。みんな今頃何処で何をしているのだろう。

雨に濡れた窓ガラス。そんな窓ガラスに額をくっつけて外を眺める猫の様子を眺めながら、まるで自分のようだと思った。雨の降る日は家に居て、ガラス越しに外を眺めるのが好き。雨に洗われた樹の葉、濡れて黒く光るアスファルト。でも、今日、私がガラス越しに眺めていたのはそんな雨の日を共に過ごした人々との思い出。雨が思い出させてくれた人々のこと。


人気ブログランキングへ 

コメント

雨粒の向こうに見えるのは、初夏の明るい風景。冬の雨とはちがって なにか希望めいたものを感じます。リヨンは昨日今日と風が強くて 肌寒いのです。もう5月も末だと言うのに。

2015/05/27 (Wed) 13:13 | kimilon #036/uE16 | URL | 編集
フランス

こんにちは。今日はまずまずの気候になったのではないですか。

これから梅雨に突入すると思うと、また冷え込む日が来るかと思ってお部屋のストーブを片付けず置いたままにしてるんです。
雨の日には、車窓のガラス越しの窓から新緑を眺めてみましょっ。

ヨーロッパからだと小さな鞄一つで旅行に出掛けられるですね。
羨ましい限り、おススメパリですか~フランスワインの楽しめますよね(笑)
ん~フランスなら南エリアに行きたいですが、今はイタリアかぶれ中なのです。

今日は母が頭痛だと・・・夜になってもまだ痛い。
明日は治ってると良いなぁ。

2015/05/28 (Thu) 13:38 | すみれ #GYxcADzc | URL | 編集
Re: タイトルなし

kimilonさん、5月下旬らしからぬ寒さがまだ続いています。でも、街は緑に溢れていて、雨に濡れて緑が強く輝き、確かに希望を感じますね。この素敵な季節を一日だって逃したくない。そう思っている人はとても多いようですよ。

2015/05/28 (Thu) 22:05 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: フランス

すみれさん、こんにちは。そうです、今朝は寒くてどうなることやらと思いましたが昼頃から太陽の日差しが空気を温めて、鼻歌を歌いたくなるようなご機嫌の天気になりました。雨の日に窓ガラスの向こうの新緑を鑑賞する。それはとても楽しいことです。この季節ならではの楽しみですね。
近隣国へなら飛行機に持ち込める小さな鞄ひとつでふらりといける、それがヨーロッパに暮らす楽しみのひとつです。私も南フランスに大変関心があるものの、一度はパリへ行きたいと思うのです。私が求めている感覚がパリに存在するのかどうかを確かめるために。
お母様の頭痛が治りますように。

2015/05/28 (Thu) 22:19 | yspringmind #- | URL | 編集
フランス

そうフランスは20年位前は興味があり、若い時はショッピングにも夢中になってたのが懐かしく思いだしました。
それから暫くして4年前にイタリア経由フランス1人旅をしてみました。目的は夏用の帽子をオーダーする為に、以前のBlogでボルサリーノのウィンドーの画像を見かけたのですが、あのイメージの帽子です。
ただ全般的に旅行者にはパリの方は何度行っても冷たく感じるのは私だけでしょうか。そして帰国日空港で悲しい事があってご無沙汰になってます。
イタリアでは、食べ物も人もとても良く嫌な思いをした事は一度もなく、皆さん親切また同じ宿やレストランにリピートしたくなる気持ちになるんですよね。。
お洒落な鞄とカメラを持って、バカンスに出掛けられる日が待ち遠しいですね。
朝は母に会えなく、今帰宅途中。
きっと良くなってると思います。
気に掛けて頂き嬉しい!

2015/05/29 (Fri) 13:18 | すみれ #GYxcADzc | URL | 編集

こんにちは、yspringmindさん。
知らないひとどおしで、コートの会話ができるなんて、おもしろいし、20前までは異国から来たyspringmindさんを受け入れる状態でなかったその地において、ふつうに目で話せる状況に変わり、バスの運転手さんまで笑わせることになるなんて、なんて楽しそう。時も人も変わるものですか。の雨粒の写真はいやじゃないです。ねこちゃんも元気そうですね。




2015/05/29 (Fri) 16:06 | つばめ #- | URL | 編集
Re: フランス

すみれさん、こんにちは。すみれさんが一人旅を楽しむ楽しさを知る女性であることを私はとても嬉しく思います。一人旅を寂しいと思う人が世の中には驚くほど沢山いるようですが、私は一人旅日度贅沢なことは無いと考えているのですよ。それに一人旅だと旅先で人と話すことが多い。連れが居ると日と話しかけてこないもの、そして自分も連れが居ると人に話しかけないきらいがありますから。
パリは冷たく感じますか。それでは私が今度行って温かみのあるパリを探してきましょう。
それにしたって私のパリは近くてとても遠い。20年ボローニャに暮らしてパリに行ったことが無いことを、周囲の人達は驚くのですよ。君は一体何をもたもたしているのだ、と。

2015/05/31 (Sun) 12:02 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。確かに、20年前とはボローニャも随分様子が違います。この町にも異国人がとても増え、そして同じイタリア人でも他の町からきて暮らす人も多くなりました。だからボローニャの人達も歳月とともに変わっているのでしょう。これは良いことのひとつですね。
猫は・・・驚くほど元気です。子猫から大人の猫へと移り変わる、微妙な時期のようですよ。ふふふ。

2015/05/31 (Sun) 12:06 | yspringmind #- | URL | 編集

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する