春の喜び

P1010727 small


大きな雷音を合図に雨が降りだした。本当ならば夜中のうちから降りだしてもおかしくなかった雨だったが、土曜日を楽しむ人々を悲しませたくないと思ったのだろうか、夕方まで空は雨粒は落ちてこなかった。空の上の誰かが、そうした方がいいと判断したに違いない。

ボローニャに暮らすようになって何年も経った。其れなりに楽しいことを見つけ出し、其れなりに自分らしく生活する術を身に着けた。気候に関してはこの上なく恵まれていないけど、其れもボローニャの一部、私の好きなボローニャの街並や情緒とセットと思えば、我慢できないこともない。私がボローニャで見つけた春の夕方の楽しみは、明るい夕方の寄り道。勿論、春の夕方の寄り道とは爽やかな白ワインを頂くことで、其れはひとりだったり誰かと一緒だったりするが、どんな時も楽しい時間であることに違いない。ひとりでワインの場合はカウンターの前の立ち飲みで、店主や其の店に通う常連客達との一瞬のお喋りは、思いがけないことを教えてくれたりして、言うなれば宝のような時間である。そして誰か連れが居る時は、奥の席に、若しくはテラス席について、時間を忘れて話し込む。思うにワインは、黙って淋しく飲むものではない。誰かと言葉を交わしながら頂くと、更に美味しくなるものなのだ。勿論、ひとりだってよい。でもその場合は、自分の中が満たされていて、うふふ、と笑みが零れてしまうような状態であることが望ましい。悲しかったり淋しかったりでワインを頂くと、ワインに溺れてしまいそうな気がするのだけれど、どうだろうか。
さて、私が見つけた春の夕方の楽しみは、そんなことばかりではない。高い空に飛び交う燕の群れにしても。ローマのひとりの生活を畳んでボローニャに帰って来たのは、相棒が私達に丁度よいアパートメントを用意してくれたからだ。それが私が出した、ボローニャに戻ってくる条件だった。小さなアパートメントだったけれど、広いテラスがあった。30平方メートルほどの。幾つもの鉢を並べて草木を植えた。其の中でもロースマリーノの生命力は驚くほどで、その辺りでも有名になるほど一年中花が咲いて私達の目を楽しませてくれた。そのアパートメントに暮らし始めて初めて迎えた春のある夕方、聞き慣れぬ声に胸を躍らせてテラスに出てみたら、空高く燕たちが飛び交っていた。其れは本当に沢山の。良く目を凝らしてみれば最上階の上にある屋根の軒下に幾つもの巣があった。そうか、この建物には燕も住んで居るのだな。そう思ったら、とても幸運な気がしてきた。其処には10年暮らした。特別素適な界隈でもないのに其処に暮らしていたのは、旧市街へ行くのに便利だったことや、近所の人たちが親切だったこともあるけれど、燕が住んで居ることも多分理由のひとつだっただろう。その後、私達は丘の町ピアノーロに家を持ち、しかしその生活は5年しか続かず、便利だけれど緑のある場所を探して今の場所に落ち着くわけだけど、何処に居ても燕がついて回った。だから私の春は、燕なしでは語れない。

数日前の仕事帰り、ザナリーニのカフェの前を歩いていたら、無数の聞き慣れた声を聞いた。頭上を見上げたら燕。旧市街のこんな場所にも燕が群れて飛び交うのかと、20年も経って初めて知った。そうか、君たちはこんな所にも居るんだね。空の燕たちに語り掛ける。春のボローニャは素敵だ。いつの間にか、私は春のボローニャの虜になってしまったらしい。


人気ブログランキングへ 

コメント

こんにちは、yspringmindさん。
春なんですね。
外でくつろいでいる人たちが、ゆったりしていて同じ地球上とは思えませんね。ゆったりさ加減がごく自然で楽しんでますもんね。
燕が飛んでいるのですね!
生き物が活気あるって、こちらもうれしくなります。
そんななか、夕方の時間帯にワインを飲んだらおいしいしょうね。


2015/04/19 (Sun) 16:01 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。ボローニャは春だったのですが、今日は冬に逆戻り。セーターなど着ていますよ。数日寒い日が続くそうですが、それも時間の問題。もう4月の後半ですからね。
明るい夕方に白ワインを頂くのは至極幸せ。そう思っている人は、ボローニャに沢山いる筈なのです。

2015/04/19 (Sun) 17:40 | yspringmind #- | URL | 編集

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する