軽やかな春

DSC_0027 small


4月も中旬を迎えて天気は上々。季節の変わり目でしんどいけれど、気分は空と同じくらい高く爽やかだ。猫は窓の前の樹木の観察に忙しく、私を構っている時間などないらしい。其れは有難い、とバスに乗って旧市街に出掛けた。

週に一度はこんな風に、太陽の下を歩かなければ、と思う。何しろ平日の明るい時間はいつも建物の中に籠っているから、外を歩く欲望が人一倍強いのである。バスがもう直ぐ終点に付くという頃、バスの中に居た小さな子供がぐずった。小さな子供、そう、まだ1歳にもならぬほどの小さな女の子だった。ベビーカーの中に横たわっている女の子の顔が見えたので、私は手を小さく振ってみた。チャオ、チャオ。そんな感じに。すると女の子がぐずるのを辞めて小さな笑顔を見せてくれた。と、隣に立っていた男性が女の子に言い聞かせるかのように、こんなことを言った。チャオ、僕はおじいちゃんだよ。僕は老人なのさ。私は思わず顔を上げて彼を見ると、確かに、彼は老人だった。彼からすればこの女の子はひ孫くらいの存在に違いない。老人は目を細めて、其れはそれはいとおしそうに女の子に笑みを送っていた。根っからの子供好きなのか、遠くに住んでいて頻繁に会うことの出来ない自分のひ孫でも思い出しているのか、どれもこれも私の単なる想像でしかないけれど、とても良い笑顔だと思った。バスを降りて、髪を切りに行った。酷く混んでいたが別の日に出直そうと思わなかったのは、私の髪がものすごいことになっていたからだ。随分待たされて店を出ると14時半を回っていた。喉が渇いた、お腹が空いた。私はそう呟きながら、そうだ、あの店に立ち寄ってみようと思いついた。其れは市場の中にある、魚屋の真向いの店。3月にオープンしたばかりの店だが、手頃な値段でしかも美味しいと口コミで知れ渡り、いつ行っても満席だ。恐らくは向かいの魚屋から魚が流れてくるに違いなく、ワインと簡単な魚料理を頂けるようになっている。ひと月前に人に誘われて行ってみたら、私もすっかり虜になった。さて、店の中には幾つかの空席があって、特に私はいつもそこに座りたいと思っていたカウンター席が空いていた。カウンター席が好きだ。店の人と話が出来るから。店主に軽い白ワインとイカを揚げたものを注文しようと途中まで言いかけたら、最後の客が出るまで店は開いているけれど、夕方まで休憩に入っているんだよと言って断られた。成程、其れで空席があるのだ。私は自分の意に反して酷く残念な表情をしていたらしい。其れで店主がこう言った。折角だから白ワインを一杯飲んでいくかい。これは僕が奢るから。店主はそう提案してくれた。嬉しいなあ。でも、空きっ腹にワインは危険すぎる。また今度立ち寄るから。私は素適な提案を辞退して、店を出た。喉がか乾いてお腹が空いて死にそうだったが、心はちょっと満たされた。こういう人が居るなんて、世の中まだまだ捨てたものではない。
それにしても人々の装いが軽くなったこと。考えてみれば私にしても、数日前に比べたら大変な進歩だった。もうショートブーツはしまっても良いだろう。それから冬のジャケットもクリーニング屋さんに持って行こう。クルーネックのセーターも、首元を温めるヴォリュームのあるスカーフや帽子にしても。

春はうきうき。鳥のさえずりや輝く新緑。軽やかな足元に、ふんわりと優しい手触りのスカーフ。うっかりすると直ぐに夏がやって来て、この美しい季節を逃してしまう。満喫しなくては。猫と一緒に窓辺に立って樹木の様子を観察する。私達は似た者同士。同じ趣味や感覚を持っている私達が、上手くやっていけない筈が無い。


人気ブログランキングへ 

コメント

こんにちは、yspringmindさん。
写真からうかがうと、日差しが大分かろやかですね。
今日も、雨でしたよ。日照不足です。
yspringmindさんは、建物の中のお仕事とのこと。答えなくてもいいのですよ。想像するのを楽しんでいますので。何かを修復されたり作ったりされてるのかな、何かを書くお仕事かなと。
私も、春くらいは日差しがどんどん暖かいのを望む毎日です。
異常気象かな。すっきりしません。

2015/04/13 (Mon) 14:41 | つばめ #- | URL | 編集

イタリア音楽でyspringmindさんが
こんなのが好きというのがあれば
教えてください。
たっぷりとイタリア音楽につかりたいので。

2015/04/14 (Tue) 15:11 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、雨が続いていて日照不足に感じているようですね。私も雨が数日続くと、同じように感じます。
私の仕事はつばめさんが想像されるような素敵な仕事ではありません。そんなだったら本当にいいのになあ、とコメントを読みながら思いました。ごく普通の会社員、というのが正しい表現でしょうか。毎日パソコンばかりなんですよ。(あーあ、夢を壊してしまいましたねえ。)だから土曜日の散策が楽しみで、だから仕事帰りの寄り道も楽しいです。

2015/04/14 (Tue) 19:49 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、私は最近の流行音楽は知らないのですが、20年ほど前全盛期だったPINO DANIELEというイタリア人の音楽がとても好きでした。イタリア人なら誰でも知っている人で、彼の音楽を嫌いと言う人はあまりいないのではないでしょうか。私が相棒に教えて貰って、アメリカでよく聞いた音楽でもあります。

2015/04/14 (Tue) 19:53 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは。
ごぶさたしています。
こちらも桜が散ったので、なんとなく春はいく、という感じがしています。
新緑の季節になり、オーバーコートから軽いコート姿の人が増えました。
今、トレンチコートが流行っていますので、石を投げると必ずトレンチに当たる気がします(笑)。
この美しい季節。
確かにそうですね。
ゆっくりと静かできれいな夕刻を冷えた白ワインで楽しみたいと、仕事帰りの電車の窓から外を眺めながらぼんやりするこの頃です。
お元気でお過ごしください。

2015/04/16 (Thu) 07:13 | 大庭 綺有 #- | URL | 編集

こんにちは、yspringmindさん。
PINO  DANIEL、楽しみです。近々聞いてみますね。
yspringmindさんは、ただの会社員と言われますが、物書きされてる方と今でも思うのです。わたしはいつもブログを楽しませてもらっています。
yspringmindさんの目線でよいときも、よくないときも、何かきづかせてもらってるような感じです。


2015/04/16 (Thu) 14:23 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

大庭 綺有さん、こんにちは。お元気そうでよかったです。ボローニャは今、藤の花が美しく、藤の花が群れて咲く様子を見ていると、ヨーロッパに居ることを実感します。藤棚などというものは存在せず、家や庭を取り囲む塀につたう様に存在するのが多いです。ボローニャの赤や黄色の壁に藤の花が実に美しく、それを私は実にヨーロッパ的と感じるようです。
日本ではトレンチコートが流行っているのですか。私にとってトレンチコートは春先や秋になくてはならぬもの。従って飽きの来ないスタンダードな色と形のトレンチコートで、流行なんて考えたことなどありませんでしたが、そうですか、トレンチコートが流行ねえ。面白い。
仕事帰りにほっと一息つきながらほんのり冷たい爽やかな白ワイン。空がまだ明るいと益々いいのです。時にはそんなのも良いです。

2015/04/18 (Sat) 18:47 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。物書き。良い響きです。父が昔そうなることを夢見ていましたから。私もいつかそんなことが出来たらよいと思いますが、実現する気配はありません。
PINO DANIELEは少し前に亡くなってしまいました。私と相棒がアメリカに暮らしていた頃よく聞いていた音楽だったので、まるで私達とアメリカの関係が途切れてしまったかのように感じました。其れは別にして、やはり良いものは良いです。

2015/04/18 (Sat) 18:51 | yspringmind #- | URL | 編集

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する