雨が降る日は昔のことを思い出す。それも案外悪くない。

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土曜日、復活祭の日曜日、そして復活祭の翌日の月曜日という祝日。今日から3連休である。自慢したいほど嬉しい、と知人に言ったら、何だい、たったの3連休かい、と返された。そうだ、私の3連休など鼻で笑われてしまうほど、世間には復活祭の休暇をとっている人が沢山いる。纏めて7日間、10日間と言った具合で、学校に通う子供たちだって7日間の復活祭休暇である。私は仕事をするようになってから、この時期に纏まった休暇をとったことが無い。だから周囲の人たちをそれはそれは羨ましく思っているのであるが、何でも簡単に手に入らないところがいいような気もする。そうだ、春に休暇をとることが出来ない。だから、いつかこの季節に休暇をとることが出来たらば、深い感慨に浸るに違いないのだ。一度くらい桜が咲く季節に帰省したい私の願いが叶うのは、まだ先のことになるだろう。それにしても復活祭の連休はいつも雨降りだ。長くボローニャに暮らしているが、晴天に恵まれた3連休は思い出せぬほど数少ない。

雨が降っているのに旧市街に出掛けたのは、家に居たらクサクサした気分になってしまうに違いないと思ったからだ。それにしても雨脚の強さに迷っていた。クリーニング屋に預けていた物を引き取りに行くと、まるで私の気持ちを読み取ったかのように女主人が言った。旧市街へ行くのを迷っているんじゃないでしょうね。行ってらっしゃいよ。旧市街はポルティコがあるのだから、濡れることなく散歩を楽しめるわよ。 そう言われてみればそうで、バスを降りたらポルティコがある。ボローニャの特権みたいなもの。私達を雨や雪、大風や夏の強い日差しから守ってくれるポルティコがある。彼女の言葉に小さな勇気を得て、私は雨の日の散歩に出掛けた。
私がアメリカに暮らし始めた頃、ダウンタウンと呼ばれる辺りから少し行った坂道沿いのアパートメントに暮らしていた。其れは知人の建物で、知人が日本からやって来る私の為に数か月前から部屋を押さえていてくれた。旧式のエレベーターがあって、人が乗り込むと一瞬下がった。キイキイと音をたてながら鉄柵を閉めるとエレベーターが動き始める。初めてそれに乗った時は、こんな旧式の信用できないエレベーターにはなるべく乗らないようにしようと思ったものだ。だから階段を上り下りした、部屋は5階だったけれども。アパートメントはその辺りでは珍しい色に塗られてた。自分が住んで居るところを説明するときに、どの道に在る何色の建物と言えば、誰もが直ぐに、ああ、あそこね、と頷いた。私は知人に良くして貰ったと思っていたし、其れなりに感謝もしていたけれど、ある時、知人が自分に何か特別な感情を抱いているらしいと気が付いて、其処を出ることにした。私は知人だけでなく彼の妻にも大変良くして貰って、私にとっては両親みたいな存在で、知人の妻には特別感謝をしていたから、もう此処に居るのはよくないと思ったのだ。何の理由も言わずに出ていく私を彼の妻はどう思っただろう。暫くの間、遠回しの嫌がらせがあったけれど、私はあの時の判断と行動を間違っていたとは思わない。もう24年も前のことを思い出したのは、雨のせいだ。時々こんな強い雨が降ると、まるで人間の関節がギシギシいうように、あの旧式のエレベーターがキイキイ鳴った。私がエレベーターに乗ることは無かったけれども、そしてそんな私を健康マニアと住人達は呼んだけれども、雨が降って動きが悪くなったエレベーターから降りてくる彼らは、無事に目的のフロアに到着できたことを感謝して、階段を上り下りする君の気持ちが良く分かると言って笑った。たった数か月しか暮らさなかったあのアパートメント。結果的には嫌な思いをしたけれど、やはり私の、アメリカ生活の出発地点だった。24年を経た今は、少し懐かしくて、もう一度あの建物の前に立ってみたいと思う。どんな嫌なことも、悲しいことも、つまらないことも、時間が浄化してくれる。そして気が付くのは、今でもあの夫婦に感謝していることだ。私が少しは大人になったと言うことだろう。

今夜は満月を望むことが出来る筈だったのに、この雨では無理だろう。雨に濡れたテラスの植木が嬉しそう。新芽の緑が輝いている。私が嫌いなこの雨を、誰かや何かが感謝していると知るのは案外悪くない。さもなければ気持ちのやり場がないというものだ。


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コメント

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2015/04/05 (Sun) 12:56 | # | | 編集

こんにちは、yspringmindさん。
雨がよく降っている様子がわかります。
アメリカで暮らすのでも、移り住むのでも自分の意思で決められるのはいい。

2015/04/05 (Sun) 13:46 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

鍵コメさん、こんにちは。タイトル、渋いうえに長過ぎですね。私は案外潔癖症なところがありまして、其の上、恩を尊く思うタイプの人間でもあるので、全く辛い経験でした。こんな経験は人生に一度だけで充分と言う話であります。其れは別にして、やはり感謝は感謝なのです。彼らに感謝できなくなったら、私はもう私ではなくなってしまうでしょう。

雨が降るということは、砂漠にはならない。   成程。良いこと言いますね。

2015/04/05 (Sun) 22:52 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。昨日は雨がこれでもかと言うほど降りました。おかげで満月を観ることが出来ませんでした。
自分の意思で決めることが出来るのは幸せなことです。一般的に私は決して運の良い人間には見えないと思うのですが、この観点からすると、私はかなり運が良いと言えるかもしれませんね。

2015/04/05 (Sun) 22:55 | yspringmind #- | URL | 編集

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