3月の晩に思う

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天気予報が当たらない。昔から春の天気は変わり易いと言うけれど、兎に角この移り気な天気に振り回されっ放しだ。晴れているかと思えば急に空に分厚い雲が敷き詰められ、ああ、雨が降るのかと心の準備をしていれば、再び空が晴れ渡る。かと言って安心していると、静かな雨が降り始め、あっという間に路面が濡れて黒く光る。

子供の頃から3月になると同じことを思った。其れはどんなことかと言えば冬が終わって春を迎える喜び。そして一瞬のメランコリー。何がメランコリーなのかは実は私自身にも理解できず、一瞬の、と言いながらも拭うことの出来ない存在なのだ。
先日の夕方、旧ボローニャ大学に行った。興味深い集まりがあると知って、それを覗く為に仕事時間を終えるや否や、バスに乗って旧市街にやって来たのだ。もう直ぐ18時半と言う時間だった。旧ボローニャ大学内は橙色の灯りに照らされていた。どんなに強く心を持っていても、中世の世界に吸い込まれそうになるのは私だけではないだろう。建物の壁という壁には、大学に通った生徒たちの家紋が掲げられていて、そのどれもが美しく、そしてところどころにラテン語で何か綴られているのだから、眺めているうちに錯覚しても仕方がないことなのである。集まりのある大広間へと続く通路を歩いていたら、家紋を修復している人を見つけた。何か細い筆のようなものを使って。ずっとそれを眺めていたかったけれど、修復の邪魔をしたくなかったし、それでなくとも集まりの時間に遅れていたので、後ろ髪を引かれながらその場を去った。遅れての参加だったから、僅か30分ほどしか話を聞くことが出来なかった。残念だったけれど、それでも間に合ったことを嬉しく思った。何時の頃からかそんな風に考えるようになった。ああ、残念。ああ、悔しい。でも。100%満たされないけれど、でも、それでもポジティヴなこともあるさ。そう考えれば、感謝の気持ちも沸くというものだから。大広間から出て、先ほどの通路に用意されたアペリティヴォへ向かった。流石に19時を過ぎているので、それともアペリティヴォの邪魔をしないためにか、先ほどの修復をする人の姿はなかった。もし見掛けたら、少し話をしてみたいと思っていたのに。とても興味深い仕事だから。

その晩は久しぶりに酔った。酔っぱらったと言うよりは、心地よくちょっと酔ったと言うと良いだろう。何がそんなに私を酔わせたのか。発泡ワインのせいだろうか。いいや、多分あの修復師のせいだ。黙々と作業をする修復師の後姿に、私は魂の一部を奪われてしまったのだろう。
3月の晩に思う。春を迎える喜びと一瞬のメランコリー。そして何か新しいことが始まる予感。


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コメント

ボローニャは学問や文化造詣の深い町なのでしょうね。この前の2階が張り出した建物のように。学問に関わる人に便宜を図るという精神がきっといきずいているのでしょう。
大学の建物も修復しながら大切に使われているのでしょうね。
古いものの修復の技術を学ぶ人は皆イタリアで学ぶそうですよ。
一時期 一緒に働いていた、歴史的建築物専門の建築家もイタリアで学んだといっていましたっけ。古いものと新しいもの。変わらないものと変化するもの。変わらないと見えていても変化しているもの。
3月の夕べの心地よい酔い。素敵な時間をすごされたのですね。

昨晩はとても美しい三日月が一番星と一緒に見られました。なんだか 切り抜いたピカピカしたお月様を誰かが夜の空に貼ったようでずーっと見ていました。

2015/03/23 (Mon) 09:10 | kimilon #036/uE16 | URL | 編集
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2015/03/23 (Mon) 12:14 | # | | 編集

こんにちは、yspringmindさん。
春の酔いは気持ちいいですね。
ボローニャ大学の話を聞きにいかれて、修復の人を見られたのは興味深いです。よっぽど一生懸命なおしてたのでしょうね。一生懸命やっている人の姿はひかれますね。

2015/03/23 (Mon) 13:42 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

kimilonさん、こんにちは。イタリアはどんな小さな町でも文化の宝箱みたいなものですが、ボローニャは文化、学問の色がとても濃いように感じています。中世の頃はボローニャ大学ばかりでなく、商業の中心でもあったと言われていて、それだから町はいつも多くの人であふれていたようです。
私がイタリアの文化の中で一番好きなのは、古いものを大切にする心、古いものを修復しながら使う習慣です。古いって、例えばうちのテーブルや収納棚は1800年代のものですが、知人の家に行けば代々引く継いだ、1600年代の家具が生活の一部として活躍していると言った具合です。別に凄いお金持ちと言う訳でなく、そう言う文化なのですよ。フランスも同じなのではないでしょうか。
昨晩は雨でしたが、今夜は細い月を眺めることが出来ました。春です。

2015/03/24 (Tue) 00:24 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: 3月

鍵コメさん、こんにちは。ボローニャにも四季があり、日本の春のように三寒四温や薄曇り、花冷えも存在します。ただ今ボローニャでは李と桃と梨の花が咲きそろっています。これから5月まで花と言う花が咲いて美しいですよ。冬もいいですが、春も夏も秋も素敵。是非また、ボローニャにいらしてください。

2015/03/24 (Tue) 00:29 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。春のほろ酔い。気分がいいものですが、こんな風に文字にしてみても気持が良いですね。
修復作業と言うのは根気と集中力の賜物です。その姿を眺めるのは大変興味深いのです。

2015/03/24 (Tue) 00:32 | yspringmind #- | URL | 編集

そうですね。フランスも義両親の家やわたしたちの田舎の家には家と一緒に受け継いだ家具があって手を入れながら使っていますね。別にものすごく高級な家具というわけではないのですが。
そういえば、初めてリヨンを訪れたとき 絹織物の工場に見学に行って 古い模様だけではなく新しい模様もあるのかと聞いたとき、「もちろんだよ。これなんか19世紀のもの」といわれて 「新しい」の感覚が全然ちがうのに 驚いたの 思い出しました。石の建築物の文化ですものね。日本の木と土と紙の建築とはちがって当然。
文化の宝箱みたいなイタリア 益々 行ってみたいなあ。

2015/03/24 (Tue) 09:12 | kimilon #036/uE16 | URL | 編集
Re: タイトルなし

kimilonさん、こんにちは。リヨンの絹織物の工場に見学に行って聞いた話は大変興味深いです。新しい模様が19世紀のものだなんて。彼らにとっては新しいとは100年経っていないものを差すのかもしれませんね。そう言えば、アメリカでは50年も経てばアンティーク扱いでした。イタリアではそれらを時代の物と言うカテゴリーに入り、アンティークとは決して呼びませんからね。国の古さなども新しい古いの基準に大きく関係するのでしょう。それにしても、家と一緒に受け継いだ家具・・・だなんていいですねえ。

2015/03/25 (Wed) 22:01 | yspringmind #- | URL | 編集

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