ほんの小さなお洒落心

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先週の雪がなかなか姿を消さない。昼の間に少し解けては夜中のうちに凍り付く。氷の上など歩いたら大変。だから足元を見ながら歩くことが多くなった。仕事帰りの寄り道も、この寒さだから程々に。春が来たらば存分楽しめるのだからと、足早に旧市街を通り過ぎるのだ。

こんな寒さ。ヴィエンナの冬に比べたら全然なのに。1年前を思いながら歩く。ヴィエンナの人々の重装備。防寒が目的なくせに洒落ていて、私の目を楽しませてくれた。温かくて軽いコート。足元を包む革のブーツ。頭は勿論帽子に包まれていて、手袋をはめた彼らの装いには一瞬の隙もないように見えた。元々私はオーストリアが好きだから、贔屓気味なのだ。でも、それにしても、この街の人々ときたら物を大切に長く使うことを知っているように見えた。どの靴も年季が入っていて、良く磨きこまれていていた。時々靴の修理屋さんに持ち込んでは踵や靴の裏を張り替えて、使う度に丹念に磨きこむのだろう。特別なデザインものはあまり見かけないけれど、もしかしたらそれが長く使うための条件のひとつなのかもしれなかった。昨冬ヴィエンナに訪れたのはじきにクリスマスと言う頃だった。街はクリスマスの照明で美しく、華やかで賑やかだった。恐らくは欧羅巴のどの町もがそうであるように、クリスマスの市場が立ち、所々で暖かいワインを売る店があって、寒い寒いと足踏みしながら広場でそれを堪能した。明日にはもうボローニャに帰るという日の午後、私は旧市街の裏道から裏道へと渡り歩いていた。大通りは人で一杯だったが、狭い道は閑散としていて同じ街とは思えないような静寂があった。それにしても寒くて、そろそろカフェに入ろうと思い始めた頃に見つけた。小路に面してショーウィンドウが幾つも備え付けられていた。中にはそれが上質の絹だとすぐに分かるようなスカーフや、カシミヤの大判ストールなどが飾られていて、そのひとつひとつを眺めながら歩いていくと小さな店に辿り着いた。昔からある店らしい。磨きこまれた扉の取っ手。窓越しに覘いてみると、店の中には小さな引き出しや棚が壁という壁に備え付けられていた。店の人が3人。そして客人と思われるご婦人がふたり。旅行者ではなさそうだった。多分地元の、この店の常連さんだ。私は小路のショーウィンドウで見たスカーフを見せて貰いたくて中に入った。と言ったって、単にスカーフを見せて貰って、上手くすれば手で触れて、楽しみたいという気持ちが大半だった。あのショーウィンドウに飾られていたのを見たいのだというと、すぐに贈り物かと訊かれた。いいや、自分用にだと答えると違うスカーフが出てきた。これではない、もっとこんな感じの柄でこんな色で、こんな光沢で、と説明したらやっと見たかったものが出てきたが、店の人は困ったように、これは男性用なのだ、と言った。それは爽やかな水色と白と様々な色が散りばめられたスカーフで、例えばシンプルな藍色のクルーネックのセーターに合わせたら素敵に違いないと思わせるような美しいスカーフだった。え? 男性用? この街の男性はこんな美しい色のスカーフを首元に巻くのですか。私は目を丸くして感嘆すると、店の人は表情を緩めて、そうですよ、と答えた。そして、男性用に作られたものではあるけれど、貴女にぴったりだから、そんなことは気にすることは無い、と言って私の顔の近くにスカーフを近づけた。冬のオーバーコートの襟元にちらりと見せたら美しいだろうと思った。暗い色になりがちな冬だから、こんな色があったら楽しくなりそうだと。見るだけのつもりだったのに、こんな風にして手に入れたスカーフ。ボローニャの友人知人に意外と好評だ。イタリアではあまり見ることのない色合いだからだろう。ヴィエンナで買ったこと、それから男性用のスカーフであることを述べると、誰もが驚くのだ。ヴィエンナの男性はこんなスカーフを首に巻くの? それは私が店の人に言ったセリフと同じだから、私はそれを耳にしては心の中で、うふふと小さく笑うのだ。
今夕、旧市街のポルティコの下にある小さな店に立ち寄った。私の気に入りの店である。常連ではないが少ない東洋人客のひとりであるに違いない私は顔を覚えて貰ったらしく、店に行くと良くしてもらえる。と、店の女性が言った。素適な色のスカーフね、と。そしてどこで購入したのかと訊くので昨冬ヴィエンナで購入したと答えた。勿論男性用であることも忘れずに付け加えて。店の女性は大変感心して、芸術が栄える町の人達は美しいものが好きなのね、と言った。その言葉に私はあっと驚き、成程そういうものなのかもしれないと思った。そして思うのだ。芸術が栄える町とは、何て美しいフレーズなのだろう、と。

寒いけれどこんな風に気に入りのスカーフを首に巻いていれば大丈夫。冷たい空気から私の喉度を守ってくれる。そしてほんの小さなお洒落心。そんな心を何時までも持ち合わせていたいと願った、水曜日の夕方だった。


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コメント

こんにちは、yspringmindさん。
きれいな色のスカーフなんでしょうね。
男性がするスカーフ。すてきでしょうね。
モーツアルトもオーストリアでしたか?なにか首もとにひらひらしたブラウスの白い飾りを着けていたような。

2015/02/12 (Thu) 17:13 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。綺麗な色なので初めて首に巻いた日は少々気恥ずかしかったのですが、顔色が明るく見えて良いようです。周囲の人にも人気でしたよ。イタリアの男性もお洒落ですが、オーストリアの男性はこんなスカーフをするのかとイタリア人たちが一様に目を丸くして驚いていました。
モーツアルト、そうです、オーストリア人ですね。しかしあの白いひらひらは単にあの時代の流行だったのではないかと。フランスもイタリアもあの時代の人達は過剰なひらひらが好きだったようですから。

2015/02/14 (Sat) 20:11 | yspringmind #- | URL | 編集

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