ザクロの実

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遠くに暮らす家族を思う。クリスマスを迎えるたびに、私はそんな風にして一日を過ごすのだ。家族を遠い国に残してきた、姑のところのお手伝いさんも、そんな気持ちで一日を過ごしているのかもしれない。年老いた姑も、先だった夫のことを思っているのかもしれない。相棒はどんなことを思っているだろうか。猫はどうだろう。猫にだって何かしらの記憶や感情があるに違いないのだから。

先日ボローニャ旧市街の食料品市場を歩いていたら、大きなザクロの実を見つけた。ザクロ。私はこれを好んで食べたこともなければ、買い求めたことなどもないけれど、何か感じるものがあって、店の前に並んでいるとついつい足を止めて観察したくなる。
子供の頃、家の近くにザクロの木が生えていた。いや、生えていたのではない。他所の家が庭に隅っこに植えていたのだ。とても隅っこに植えてあった為に、道まで枝がせり出していて、私たち子供たちにとってみれば、さあ、自由に実を捥いでくださいよ、と言っているように見えた。いつだか、誰かが捥いでくれた。小振りの、実の一部がぱかりと割れてルビーのような小さな粒が見えるのを。その家の人だっただろうか。それとも通りすがりの人だっただろうか。どちらにしても私は、酷くものほしそうな顔をしてザクロを眺めていたに違いなかった。初めて手にしたザクロの実は案外重くて、光にキラキラと輝いていた粒は、遠目に見るよりも更に美しかった。こうして粒をとって食べるのだと、捥いでくれた人が教えてくれた。私は喜んでそれを家に持ち帰って、指でつまんで口に入れてみた。酸っぱい。思いがけない酸っぱさに、私は驚いた。何故なら私はザクロを甘い果実と思い込んでいたからだった。それから私は急激に、ザクロに関心が無くなってしまった。酸っぱいのはごめんだというように。
ボローニャに暮らすようになって、相棒が引退した床屋の家からザクロを貰ってくるようになった。今年も沢山実ったんだ、ザクロは縁起がいいんだよ、と言って。そんなことは初耳だったし、誰に訊いてもそんな言葉は出てこなかったが、床屋と相棒がそう思い込んでいるのだから仕方がない。私もその哲学に便乗して、幸運を呼ぶザクロを居間に飾るようになった。食べずに飾ったのは、昔の酸っぱい思い出があったからだ。勿論大人になってから、私は酸っぱい食べ物も好きになったけれども、例えば梅干しとか、檸檬とか、お酢とか。でも、ザクロをもう一度食べたいと思わなかった。ザクロを持ってきた相棒にしても同じだった。何だ、君は飾るだけで、ちっとも食べないんだな。と、言うくせに、自分は絶対手をださない。だから私達にとってザクロは幸運を呼ぶ置物的存在と言っても良かった。
昨年の冬、ヴィエンナを散策していたら、ギリシャ人経営の店のガラス越しに大量のザクロが見えた。私は足を止めて、中に入るでもなく、ガラス越しにそれを眺めた。自分の握り拳よりふたまわりも大きいザクロの実。新鮮なザクロあります、といった感じの貼紙が掲げられていて、何か特別なもの的存在であった。こんなザクロ、誰が買うのだろう。私にとってザクロは誰かの家の庭に実っているのを分けて貰うものだったから、店でわざわざ買うなんて信じられない、そんな果実だったのだ。すると店にご婦人が入っていってザクロを袋いっぱい買い求めた。ご婦人はザクロが好きらしい。まさか私と相棒のように居間に飾るのではあるまい、幸運を呼ぶとか何とか言って。

ボローニャ食料品市場のこのザクロは、一体どんな人達が買い求めるのだろう。一度誰かに訊いてみたいものだ。ザクロを美味しいと思うかどうか。私にとってザクロは、幾つになっても口をつぼめて、酸っぱーい、と言いたくなるような存在なのだから。


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コメント

こんにちは。
ザクロは、不思議なたべものですね。見た目も面白い。よく静物として絵に描かれてるのでは。見るだけで良い。
中から、ぽろぽろっと。惹かれる形だけど、おっしゃるようにすっぱーい。眺めておきたいだけで、手がのびにくいのもそのとおり。

2014/12/26 (Fri) 15:17 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。確かに、静物画によく出てきますね。誰の絵だったか、雉と赤ワインとザクロ、いや、雉と葡萄とザクロだったでしょうか。良く覚えていないのにこんなことを言うのもなんですが、とても好きでした。ははは。
そう言えば、誰かがこんな風にして食べていたのをたった今思い出しました。ぽろぽろと実をほぐして器の中に入れたら、たっぷりの檸檬とお砂糖。これを暫く寝かして食べるのが美味しいのだそうですが・・・さて、どうなんでしょう。

2014/12/26 (Fri) 19:49 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは。
しゃれてる食べ方ですね。
ザクロ=すっぱい、レモン=すっぱいけど香りよい、砂糖=甘い。
いけるかもしれませんね。
はじめて知りました。おっしゃるように、さてどうでしょうね。

今日は、ポカポカお天気でした。
ほんとに、年末に荒れに荒れる天気です。曇り曇り雪雪雪曇り晴れ。
はー、なぜに。こんなときは、ゆっくーり、おいしーい物を食べたい。
クラッカーにクリームチーズのせて、おいしいと食べました。頂いた鳥足の薫製も。yspringmindさんといつかワインを飲みたいですね。いつか。

2014/12/27 (Sat) 12:38 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。この食べ方だけを聞くと洒落ているのですが、その砂糖の分量は半端ではないようですよ。大きいスプーンでばさ、ばさ、とザクロの実がすっかり隠れてしまうくらい入れるそうですよ。とてもイタリアらしい。私はそう思いました。
ボローニャ、最近とても寒く、今日の夕方は遂に雪が降りました。2時間ほどで止みましたが、おかげですっかり気温が下がりましたよ。
こんな日の夜は特上の赤ワインに何か美味しい食事がいいです。つばめさんがボローニャに来たら、そんな夕食を一緒に頂きましょう。

2014/12/27 (Sat) 20:11 | yspringmind #- | URL | 編集

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