探し物

DSC_0043 small


土曜日。一週間の仕事の疲れが酷い。遅い時間に目覚まし時計を鳴らしたのに、それでも起き上がることが出来ない。もう少し。もう少し。そんなことを呟きながらシーツに包まっていたが、ああ、そうだ、と思い出して起きることにした。いつもは月の第2週末だけど、クリスマス前だから七つの教会群の前の広場で骨董品市が開かれている筈だからだ。誰から聞いたわけでもないけれど、昨年も一昨年もその前もそうだったから、今年もきっとそうに違いない、と。

私はちょっとしたものを探していたのだ。それは一種自分への贈り物で、クリスマスの贈り物と言うよりは、生活を楽しくするための工夫というか、何というか。それでそれは何かといえば、石鹸を置く器である。例の近所の石鹸の店で購入したはよいが、石鹸を置くにふさわしい器がうちにはない。今のところ十何年も前にブダペストで購入した、直径11cmほどの小皿を活用している。何処かの地方の民芸皿で白地に濃紺で模様が書き込まれた小皿。壁に飾る皿として生まれたらしいが、うちでは料理の時に使う柄の長い木製のスプーンを置く皿として、若しくはテーブルに並べる茹で卵を乗せる皿として、本来の目的とは全く違う使い方をしていたが、更に石鹸を乗せてみたりと、小皿もさぞかし驚いていることだろう。しかしである。この小皿は美しくも石鹸を置くには向いていないようである。石鹸を置く皿は、少しなりともおうとつがあるほうが良い。さもなければ石鹸が更に張り付いてしまうからである。そして時には皿に溜った水が石鹸を溶かしてしまうのだ。それで石鹸を行くにふさわしい皿探しなのである。私にはイメージがあって、それはステンレスやプラスチックであってはならない。手焼きの厚みのある陶器で、楕円形か長方形。美しい模様が丁寧に筆で描きこまれたような、そんな器だ。例えばボローニャから海へと向かう途中にあるファエンツァの焼き物。ボローニャに暮らし始めて2年目くらいの頃、うちにはファエンツァのコーヒーカップがひとつあった。誰からかも貰ったものである。美しいと思いながら、それが有名なファエンツァの焼き物だとは知らなかった。長いこと使ったが、ある日大きなひびが入って、使えなくなった。あんな美しい柄が入った石鹸を置く器が何処かにないだろうかと、このところずっと探しているのだけれど、ありそうでないものである。骨董品市にそんなものがあるかどうかはわからないが、しかし探してみる価値はあるというものだった。
簡単な朝食をとって家を出た。近所のバスの停留所に行く間に、幾人もの知り合いに呼び留められて、何台ものバスに追い越された。骨董品市に着いた時はもう正午を回っていた。寒いが空が青く気持ちがよかった。いつもより店の数が少ないのは、イレギュラーな週だからだろう。しかしイレギュラーと言っても訪れる人の数は少しも減っていなかった。ゆっくり見てまわった。私の好みの器、私が探しているような器はどこかにないだろうかと思って。しかし見つからなかった。仕方がない。ゆっくり探すことにしようと決めた。体が冷えたので、その近くのバールに立ち寄った。此処のカッフェは私が思うにとても美味しい。だからだろうか、いつも人で賑わっている。熱めに淹れて貰ったカップチーノを飲み干して店を出た。路地を歩いていたらガラスのむこうに大勢の子供たちが見えた。先ほどのバールの一番奥の部屋だった。どうやら誕生日会で貸し切っているらしかった。水色の風船が幾つも氾濫していて楽しそうだった。と、頭に紙製の金色の冠を被った男の子と、その左右の幾人もの男の子たちがこちらに向かって笑いながら手を振っていた。まだ5歳ほどの子供たちだ。東洋人の私が珍しいのかもしれなかった。私は手の平をぱっと広げてひらひらと振り返すと、男の子たちは、やった! みたいな感じで喜び、私は酷く嬉しくなった。人を喜ばすのは本当に簡単なことだ。笑顔で相手に応えればいい。私が彼らにしたように、そして彼らが私にそうしたように。

石鹸を置く器は見つからなかったが、決して手ぶらで帰った訳ではない。食料品市場によって冬の野菜と果物をわんさかと買ったから。ビタミンを摂って元気に過ごせるようにと。今のところ私は、季節の野菜料理と美味しいワインがあったらば、たとえ長い冬休みにどこへ行く計画が無くても、案外楽しく生活できそうなのである。


人気ブログランキングへ 

コメント

こんにちは。
よかったですね!
水色の風船、金色の冠、子供たちの手のひら。しあわせな光景。
外に出るといいことありますね。
あれですかね、イタリアでは生きてる間に楽しむというのを聞いたことありますが、まあ、働くのはイタリア人だって同じでしょうが、楽しみ方がうまいのでしょうね。つまりは、余裕を保つ心ですよね。
わたしは、今は仕事をしていませんが、いずれはするのですが、はー、周りの話を聞けば聞くほどこちらジャパンの時間のめぐり方は、もうすごい徒競走みたい。はしれー、ガンバレーの勢い。それでもみんな降り飛ばされないようにしがみついてる感がひしひしとしてきます。世の中が変わったと親戚のおばさんが言っていました。
女性がしあわせな世界がしあわせなのではないかなと思います。女性が笑ってる世界がしあわせ。
アフリカの女性たちが、よく踊って笑ってますよね。あれはなんでかなと思ったら、まあ暮らしは大変なんでしょうが、唯一そのお金もかからない楽しみ踊って歌っての間は忘れられるんでしょうね。なにも考えなくていいし。あれはいいなと思います。素で笑ってますよね。
昔は日本もそんな感じだったのかな。かっこつけたって仕方ないし、早く日本に春が来ないかな。そして、大切なことは何か見いだせたら。それまでは、しばらく運動会なみに世の中が走るのかもしれない。
どこかでポンッとおちつくのかもしれない。それまで、まだまだ。

2014/12/21 (Sun) 15:19 | つばめ #- | URL | 編集
探し物

探している間にはなかなか見つからないのだけれど、ふと忘れた瞬間に、あっこれこれ、こんなのを探してたんだと言う感じで欲しかったものが見つかるのは、私だけなのかしら?思ってらっしゃるようなお皿が見つかる事をお祈りしていますね。
私も骨董市冷やかすの大好きなんですが、それは脚が治ってから。早春のお楽しみにとっておきます。

2014/12/21 (Sun) 16:15 | kimilon #036/uE16 | URL | 編集

最後のクリスマス前の週末でしたね。これからミュンヘンも静かになりそうな予感です。昨日の街は・・・すごかった!

2014/12/22 (Mon) 07:11 | inei-reisan #pNQOf01M | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。子供たちに手を振られるととても楽しい気分になりますね。それが見ず知らずの、通りすがりの子供たちと来たならば、道端で幸運に出会ったような気分にすらなります。
イタリアでは、生きてる間に楽し見たいと思いながら楽しめずに文句ばかりを言っている人達も沢山います。多分これは国民性と言うよりも、人によるのかもしれませんよ。私なんて日本人だけど、文句ばかり言いながら生きるのはつまらない、楽しく生活するのが一番、と思うのです。だから仕事第一優先なんてことはありません。自分が居て、家族が居て、自分たちの生活があって、健康に生活できて、そして仕事がある、と思っていますから、正直言って仕事は私の中で一番大切なものとは思っていないのです。まあ、がむしゃらに働いた時代もありましたが、その結果、現在の考え方に辿り着きました。勿論仕事をすることで経済的自立が出来たり、社会に参加する小さな喜びもあれば、仕事を通じて得る自信などもあるわけですが、でも私は自分の生活を充実させるのが一番優先。それが出来なければ、仕事も充実できないのではないかと思うのですよ。つばめさんがいつか仕事をされるときは、楽しみながら仕事出来ると良いですね。

2014/12/22 (Mon) 22:20 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: 探し物

kimilonさん、こんにちは。一通りの店を見て回りましたが、ついに見つかりませんでした。来年に入ったら、再開することにしましょうか。確かに探している時って、なかなか見つからないものなのです。でも、こんなに見つからないだなんて思っていませんでしたよ。
私は骨董市や骨董品店を見て歩くのが長年の趣味なのです。そうしては小さな絵画を購入したりするのですが、これはこれからも飽きそうにない永遠の趣味なのかもしれません。
脚がはやく治りますように。その頃には春が来て、明るい太陽の下、街歩きを楽しめますね。

2014/12/22 (Mon) 22:27 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

inei-reisanさん、こんにちは。こちらボローニャは平日にもかかわらず明日までクリスマスの準備で大騒ぎと言う感じです。急に寒くなりました。雪が降るのではないかと思うくらい。ミュンヘンはどうでしょう。そろそろ雪が降っても可笑しくない時期なのではありませんか?

2014/12/22 (Mon) 22:30 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは。
今日は暖かい日でしたよ。
yspringmindさんの人によると見られていることになるほどと知らされました。ありがとう。
今年は雪が降ったりやんだり降ったりやんだり、なんか最後の最後でバタバタなしめくくりです。

2014/12/23 (Tue) 13:20 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。こちらはとても寒くて手袋をしていても手が冷たかったですよ。確かに人によるのですが、一括りにしてイタリア人はとか、日本人はとか、言うことがありますね。
雪ねえ。雪が降ったらボローニャの交通はぴたりととまってしまうに違いありません。此処では雪が降ると皆お手上げなのです。

2014/12/23 (Tue) 23:46 | yspringmind #- | URL | 編集

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する