幸せとか喜びとか

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うちのすぐ其処にクリーニング屋さんがある。この店に通うようになったのは、8年くらい前だっただろうか。私はその頃、丘の町ピアノーロに住んでいて、ボローニャ市内からピアノーロへと続く通りの途中にあるその店はとても便利だったのだ。例えばボローニャ旧市街からバスに乗って店の前で下車する。そこで仕上がったクリーニングを引き取って、その近くの仕事場に居る相棒と合流して、車で一緒に帰るという風に。そうして2年前にピアノーロの家を売却してボローニャ市内に仮の住まい生活を経て、今年4月に定住する家を得た。このクリーニング屋さんの目と鼻の先。信頼できるクリーニング屋さんはありそうでなかなか無い、と言うのが私の感想だ。その点、この店はとても丁寧に洗ってくれるから、安心して衣類を持ち込むことが出来る。少し高めだけれど、安くて雑で仕上がった衣類が臭いなんてことが他のところではあったから、それを思えば少しぐらいのことは目を瞑ることが出来るというものだ。それに、店主は時々おまけをしてくれるから、不服など言う筋合いはない。

私が店に行くのはいつも土曜日の午前中。平日は帰りが遅くなって、店に立ち寄ることが出来ないからだ。それで昨日も仕上がったものを引き取りに行くと、先客が居た。若い男女で、店の夫婦と楽しそうに話をしていた。彼らを見かけたことが何度かある。やはり彼らもまた、土曜日の午前中に立ち寄る客らしい。何時も楽しそうに店主たちと話をしているが、昨日はいつもの3倍ほどの盛り上がりだった。私は彼らの話に耳を傾けながら、かなりの常連なのだろうとか、それとも友達の娘さんなのかもしれない、などと想像を巡らせているうちに、どうやら若い男女が今度の土曜日に結婚することが分かり始めた。彼らが住んでいるのはピアノーロ。ピアノーロの教会で結婚するのだそうだ。女主人は土曜日の午前は店があるから出席できないと、夫の方が僕だけでも教会に行こうかなと言った。それであなた達はピアノーロのどのあたりに住んでいるの?と女主人が訊ねると、若い男女が住所を紙に書いて、赤と白の建物よ、と言った。あらあら。それはもしかして姑の住んでいる建物と同一ではないか。と、ふと口から言葉が漏れると、店の夫婦と若い男女がこちらを向いた。え、そうなの?、と。話してみればやはり同一の建物で、姑の苗字を言うと、ああ、成程、と若い男女は頷いた。そうして店を出ていく若い男女を私達は沢山の祝福の言葉で見送って店の夫婦と私だけになると、私は訊いてみたのだ。彼らはよく土曜日に見掛けるけれど、と。すると女店主は嬉しそうに、話し始めた。彼らは12年前位にこのすぐ裏手に住んでいたこと。当時、彼女はまだボローニャ大学の学生だった。ふたりともマルケ州の出身で、ボローニャ辺りの習慣や何やらが分からなくて、困ると店に足を運んだのだそうだ。どうしたらいいのだろう。こんな風にしたらいいのだろうか。そんな風に助言を求めてやって来る彼らを、店の夫婦は娘や息子のように思うようになったらしい。全然血のつながりもなければ、一緒に食事をするでもないし、どこかへ出掛けるでもないけれど。そのうち彼女は学業を終えて、夢見ていた弁護士になるために弁護士事務所で修業を始めて、彼らはピアノーロに家を持つようになったのだそうだ。ピアノーロに移ったのは、彼がその辺りで有名な大手の会社の良いポジションを得たからだそうだ。でも、ピアノーロに移っても月に二回は顔を店に来る。それは勿論衣服を持ち込むためだったり、たんに立ち寄って話をするためだったり。そうして長いこと連れ合った彼らがようやく結婚することになったので、是非とも結婚式に来てほしいと言うことだったらしい。女主人は嬉しそうに、私にすっかり教えてくれた。と、相棒が店の前を通りかかったら私の姿を見つけたので、店の中に入って来た。それでつい今しがた聴いた話を手早くすると、成程、多分彼らだな、男の方はあの会社で働いているだろう、僕は知っているよ、会うと機嫌よく挨拶をしてくる奴だからと言ったので、私も店の夫婦も目を丸くして大笑いした。ああ、世間は何て狭いのだろう。みんな知らないようで、皆どこかで知っている。笑っていながら女主人が残念そうだったのは、結婚式に参加できないからに違いなかった。ねえ、今度の土曜日は家の事情で休業と言うことにしてみたら?と促す私に、そんなことは出来ないわ、お客さんに迷惑がかかるもの、と言う。こんな律義で真面目な女主人だ。若い彼らが他人であるにも拘らず、頼りにしてきたり助言を求めてきたのは、こんなことが理由だったに違いない。そうして女主人は続けるのだ。私は彼らが結婚式に来てほしいと思ってくれるだけで充分嬉しいの。あの可愛かった彼らが一人前に仕事をするようになって、結婚をするなんてねえ。私はそれを聞きながら、いい話を聞いたと思って嬉しくなった。今度姑のところに行ったら、案外建物の中で会うかもしれない。その時には彼らはもう夫婦なのだ。

幸せとか喜びとか。なんて良い響きなのだろう。誰かが幸せになると、喜んでいると私にも伝わって来て、嬉しい気持ちになる。幸せや喜びは伝わるのだ。電波なのだ。そういうのをキャッチしていこう。


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コメント

本当だ。

喜びとか幸せとか本当に伝わりますよね。
貴方のブログには、日々の小さなカケラのなかにある大切なものがいっぱい詰まっているようで、美味しいお茶をいただく気持ちで読ませていただいています。今週も良い週になりそうです。ありがとうございます。

2014/12/15 (Mon) 10:15 | kimilon #036/uE16 | URL | 編集

こんにちは。
近くに知り合いがいるものですね。
クリーニング屋さんで、うれしい話が聞けて映画みたいですね。

2014/12/15 (Mon) 13:44 | つばめ #- | URL | 編集
Re: 本当だ。

kimilonさん、はじめまして。ネガティブな気持ちも伝染しやすいと聞きますが、喜びや幸せの電波をキャッチするのイはとても嬉しいことだと思います。私のブログは単なる雑記帳なのですが、見たもの感じたことを読み手の方と共有できたらいいなと思っています。美味しいお茶をいただく気持ちで読んで頂けるとは、嬉しいですね。これからもお付き合いお願いします。

2014/12/15 (Mon) 22:42 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、世間は狭いというけれど、本当にそうだと思うのです。それにしたってクリーニング屋さんの夫婦は、彼らが結婚する知らせを聞いて、嬉しい以上の喜びだったに違いありません。そんな話を聞くことが出来た私は、全く幸せ者と言うものです。

2014/12/15 (Mon) 22:44 | yspringmind #- | URL | 編集

ショッピングセンターや大規模な店舗がもてはやされる今、なるべく小さなお店へ足を運ぶようにしています。スーパーマーケットよりも小規模なお店、マーケットなど、お店の人と会話の出来るところを選びます。だってyspringmindさんのような話が聞けたりするから。そのお二人、幸せな夫婦生活を営めますように。yspringmindさん、4月にはまたお引っ越しですか。定住の地が見つかったのはよかったですね。生活のクォリティーが上がってもっと幸せになれること間違いなしです。

2014/12/16 (Tue) 08:12 | basilea #dgEWJwcw | URL | 編集

こんにちは。
今日やっと期末試験が終わり、仕事納めにはまだ1週間あるものの、うわーいっっと幸せな気分でサイダーなど飲みつつこちらにお邪魔したところ、幸せや喜びについてのポストで、さらに気持ちが高揚しました。
若い頃から見守っていた二人がいよいよ結婚するって、クリーニング店の奥さんもさぞかし嬉しく誇らしいでしょうね。そんな二人と思わぬつながりがあったのもまた楽しいサプライズですね!

イタリアにはクリスマスから新年にかけての休暇はありますか。会社などは休みになるのでしょうか。それともクリスマス前後をのぞけば案外みんな普通に働いたりするのでしょうか。
わたしは1週間半ほどお休みになるので、今からすっかりわくわくです!!

猫ちゃん、落ち着いてきたようでよかったですね。

2014/12/17 (Wed) 06:54 | mk #- | URL | 編集

こんにちは。
今日は大雪でした。
車での外出は出来ませんでした。
寒いときは夜空がきれいなので、楽しみに見上げましたが、明日も降るらしくなにも見えませんでした。
私は天文学もなにも知らないです。何座とか太陽の動きがこうとか、月の満ち欠けがこうとかは一般的なことしか。きっとyspringmindさんの方がご存知だと。わたしはきれいなものが好きなだけで。今日もこの先の空に、yspringmindさんもいるんだなと思ったりしてましたよ。

2014/12/17 (Wed) 14:52 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

basileaさん、こんにちは。大型店も便利さは認めざるをえませんが、小さな店には人間同士の接点みたいなものが存在して良いですね。私は無類の話好き、と同時に人の話しを聞くのも大好きなのです。噂話ではなくて、他の人たちの考えていることや、見たこと、そして経験など。あの若い男女はいつ見てもニコニコしていていい感じなのです。私は幸せな結婚生活となるよう祈っています。ところで引っ越しは来年の4月ではなくて今年すでに済んだ引っ越しなのです。と言うことで、今の家が定住の家。特別でも何でもないけれど、居心地抜群なのですよ。

2014/12/18 (Thu) 22:34 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

mkさん、こんにちは。m期末試験が終わったそうでおめでとうございます。幸せな気分でサイダーを飲むなんて、ちょっと素敵な表現ですね。シュッと爽やかな気分が伝わってきましたよ。クリーニング屋さんの女主人とこの若いふたりが、そんな間柄だったとは今の今まで知らなかったので、ちょっと感激しましたよ。そして彼らが姑と同じ建物に住んでいると知って、実は私以外の人が、つまり相棒や姑が既に知り合っていただなんて。クリーニング屋さんの女主人と目を丸くして顔を見合わせてしまいました。そんな面白いこと、案外身近に沢山あるのイかもしれませんね、気が付かないだけで。
イタリアにはクリスマスから新年にかけての長い休暇があります。例えば私は12月24日から1月6日までの丸々2週間が休み。多分イタリアばかりでなく、ヨーロッパの他の国も同様だ思います。クリスマス休暇は大イベント、みたいなものなのです。

2014/12/18 (Thu) 22:42 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。大雪ですか!それは大変でしたね。こちらボローニャは寒いながらもまだ雪の予報は出ていません。ちゃまも雪不足で、スキーを楽しむ人達を悩ませているようです。
私は星や月が大好きですが、しかし星に関しては全然無知なのです。月に関しては、イタリアではカレンダーに満月がいつなのかなどの情報が載っていることが多いので、私に限らずイタリア中の人たちが月に詳しいのではないかと思います。月の動きによってワインをボトルに注いでコルク栓で閉めたり、種を蒔いたりするので、月の情報が載っているという訳です。全く親切なカレンダーです。

2014/12/18 (Thu) 22:49 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは。
へー、月の満ち欠けがワインをボトルに入れたり、種をまくのに使われてるなんて、いいこと聞いた気がします。考えてみれば、ごく当たり前のことですよね。現代の生活に当たり前に残っているのが、カッコいい!
うちの相棒は釣りに行きます。魚を釣ろうとするには、もちろん海の潮の満ち引きを気にしますよね。それにも月の満ち欠けが関わりますものね。
やはり、太陽はもちろん月も目に見えないところで、大きくかかわってて、結構敏感に反応してるのでしょうね。
ちなみに、唯一一度だけ行ったイタリアへの旅で、ナポリで釣りをしているお爺さんを見た相方は、「釣竿持ってきたかった。」と残念がっていましたよ。

2014/12/19 (Fri) 13:52 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。もう10何年も前の話になりますが、うちではワイン農家から大きなガラスの樽でワインを買っていたのです。其れを地下倉庫でボトルに詰めてコルク栓で閉める作業をしたのですが、月の満ち欠けを無視してしたところ、数週間後、コルク栓が見事に飛び出して折角のワインが台無しになったことがあります。其れを舅に話したら、ほうら、俺の言ったとおりだろう、月を無視したらそう言うことになるんだよ、と窘められました。あれ以来うちでは月の動きと共に生活をしています。月にしろ太陽にしろ、自然を無視しては生活できない、と言うことでしょうか。少なくともイタリアはそんな習慣がごく当たり前のように残っています。
つばめさんのご主人、釣りが好きですか。シチリアなどに行ったらいいかもしれませんね。

2014/12/20 (Sat) 19:33 | yspringmind #- | URL | 編集

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