12月は寒い

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予報通りの晴天。ボローニャの空がすっきり晴れ渡った。久しぶりに太陽。久しぶりの乾いた空気。そんな素敵な晴天が、祝日にあたるなんて私達は何てついているのだろう。話によれば今週は毎日こんな晴天らしい。平日の昼間は職場に閉じこもっているにしても、しかし雨が降らないこと、窓から太陽の光が差し込むことは私の心に大きく影響するだろう。
何処へ行くでもなし、誰に会うでもない一日。日頃出来ない家の中の片付けごとをした。まずは家中の窓を開けて空気を入れ替えて、山のような洗濯と、同じく山のように溜めたアイロンがけを朝のうちにやっつけた。洗濯好きは母親譲り。アイロンがけが好きなのは姑譲りだ。嫌いな仕事は埃を払うこと。だから埃が溜らぬように毎日のように拭いている。何時の頃からか、そんな風になった。世間の人達はこの晴天にかこつけて、何処か丘の方か、それとも旧市街にでも行ってこの聖なる祝日を堪能しているのかもしれない。そう考えると家の中に居るのが残念にも思えるけれど、しかし元気に家のことが出来るのもまた、有難いこと。そう思っていれば、文句のひとつも出てこない、というものだ。

初めてブダペストへ行ったのは13年前の今頃だった。その二週間程前に相棒と大喧嘩をして、それは今までにない大喧嘩で、私達は其れなりに仲直りをしたけれど自分の中で気持ちの整理が出来なくて、何処か、行ったことのない何処かへ行きたくなった。数日間でよかった。相棒と少し離れたかった。そして一寸でもよいからイタリアの外に出たかった。何処へ行こうかと考えあぐねた挙句、私は友人が暮らすブダペストへ行こうと決めた。それは前々から行きたいと思っていたこともあったが、何でも腹を割って話せそうな友人に会いたかったからだった。突然ブダペストへ行くことに決めたことを相棒はとても驚いたが、友人もまた驚いた。誘われてもなかなか遊びに行かなかった私が、急に行くと言いだしたのだから。勘のよい友人は直ぐに何かを察知したようだった。ブダペスト市内の小さなホテルに泊まって、彼女の仕事が無い日や夕食の時間を共に過ごせたら良いのではないかと考えていたが、結局は、家に泊まってくれた方が都合がよいと言うことで、数日間彼女の家に世話になることになった。ブダペストという街に何の知識もなかったが、私は一種の偏ったイメージを抱いていた。長く社会主義だったこの国だから、例えば未だに店で買えるものに制限があるのではないかとか、光熱費が馬鹿に高くてシャワーをすることすら許されないのではないかとか。旅行者は許可された地域しか歩くことを許されていないのではないかとか。色んなことを考えながら、しかし彼女はそんなことを言っていなかったことを思い出して、大丈夫、と自分の背を押して旅立った。ところが旅立つ前に躓いた。ボローニャ空港でチェックインの手続きをしていたら、ホテルは何処に泊まるのかと訊かれた。いいや、ホテルではない、友人の家に泊まるのだ、と言うと、友人の同意書が必要だ、と言われた。それまで何処へ行くにもそんなことを言われたことが無かったから、私は大いに動揺して、ああ、やはり私が抱いていたイメージ通りの国なのかもしれない、と危うく心の中が黒い雲で満たされそうになったが、思い出して鞄の中から葉書きを取り出した。数日前に彼女から貰った葉書き。この住所に泊まること、此れが連絡先であると言うと、日本語で書かれた葉書きを見ながら、仕方ないわねえ、と言った感じでパスポートにスタンプを押してくれた。そんな旅の始まりだった。ブダペストの空港に着いたのは、夜中に近かった。それにも拘らず迎えに来てくれた彼女。彼女とは5年ぶりの再会だった。優しい恋人なのだろう、幸せそうな彼女の表情を見てそう思った。と、少し遅れて彼女の恋人は現れた。彼は空港の中で花屋を探していたらしい。女性を迎えに行くのに花を持たないわけにはいかない。しかし何処にも花が無かったらしい。何しろ店と言う店が閉まってしまう時間だったから。女性に花を贈る、それがハンガリーの習慣であることを後で聞いて知ったけど、そんなことを知らなかった私は彼女の恋人のその言葉を聞いて感激し、そしてそんな優しい恋人を持つ彼女をとても幸運に思えた。確か3日間ほどの滞在だった筈だ。でも、私は色んなことを見て感じて、私が抱いていたイメージが実に間違っていたことや、此処にはまだ昔の優しい心が残っていることや、他国に暮らす人たちに知られていない美しさが詰まっていることを知ったのだ。そしてもうひとつ知ったのが、12月の寒さ。ボローニャへと戻る日に零下15度を体験した。もう陽の高い午前10時だったと言うのに。此れでは何もかもが凍ってしまうねと友人と笑いながら、私たちの笑い声までもが凍り付いてしまうのではないかと思った。12月のブダペストは寒い。空気が冷たい分だけ晴れた日の空の青いこと。街が美しく輝くこと。また12月のブダペストを散策したいと思うけれど、ほんの少し勇気がいるのである。

夕方遅く、居間にクリスマスツリーを飾った。居間の角にツリー置いて飾りつけを始めるなり猫が木に登り始めた。やっぱり。そんなことになるのではないかと思ってはいたけれど。幾度も木から降ろして、駄目駄目、この木は登ってはいけないのよ、と教えた。ライトアップしたところ、その辺の木とは訳が違うようだと思ったのか、クリスマスツリーに近寄らなくなったけれど、しかし相手は猫。猫は木を登るのが好きだから、いつまで欲望を抑えることが出来るだろう。明日の朝起きたら、若しくは明日の夕方家に帰って来たら、クリスマスツリーが倒れている可能性は、あり。そうならないことを願おうではないか。


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コメント

こんにちは。
零下15度、うーん、想像がつきませんが、バナナが凍るのかなくらいの想像力しかないですが、バナナは零下15度では凍らないですね。
わたしも何処かへ飛び出したい気分でいます。冬だからでしょうね。
yspringmindさんのところにでも。はー、無理か。そんな夢でも見て寝ます。

2014/12/09 (Tue) 13:28 | つばめ #- | URL | 編集
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2014/12/10 (Wed) 00:42 | # | | 編集

ははは。のぼりましたか.おかしい。
ツリーの上から見おろした景色はどうだったかなぁ。

2014/12/12 (Fri) 07:18 | inei-reisan #pNQOf01M | URL | 編集

yspringmindさん、こんにちは

ブタペストにも行かれた事あるんですね~

わたし、東欧はいくつかの国を訪れましたが

ハンガリー行きそびれてます^^;


もう、12月

師走と云うだけあって、早いです

そちらも、冬の乾季に包まれているんですね

京都も来週は、雪かも・・・

2014/12/13 (Sat) 06:36 | 高兄 #eP1cGWnA | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。返事がすっかり遅くなってごめんなさい。
零下15度というのは、鼻水はピリピリと一瞬のうちに乾く(凍る?)、と言うのが私の感想です。とんでもなく寒い。そう思っていただけたら間違いありません。
是非ボローニャに遊びに来てください。そうしたら、食前酒か夕食にお誘いしますよ。

2014/12/13 (Sat) 20:30 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

鍵コメさん、はじめまして。うちの猫は、獣医さん曰く、生後二か月くらいだそうです。実際、このくらいの子猫は遊ぶのが仕事のようなものですから、あまり怒らないようにしているんですよ。木が倒れて下敷きにならないか、飲み込んだりはしないか、それが心配なんですよね。クリスマスツリーを飾って一週間が経ち、猫は木の下に隠れて住人を観察したり、突然飛び出して驚かす遊びを覚えたようです。猫が居る生活は楽しいですが、毎日が学ぶことばかりです。時々、教えてくださいね。

2014/12/13 (Sat) 20:36 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

inei-reisanさん、こんにちは。猫がツリーに上った様子は、結構面白かったですよ。猫の方からしたら、多分ですが、景色がどうとかよりも、さーて、どうやって降りたらいいのかしらね、なんて感じだったのではないでしょうか。しかし楽しかったこと間違いなしですよ。

2014/12/13 (Sat) 20:43 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

高兄さん、こんにちは。ブダペストは大好きでもう12回も訪れているのですよ。でも、ロンドンにもパリにもバルセロナにも行ったことがありません。一度気に入ると其処にばかり行くのが私の悪い癖です。
ボローニャはクリスマスを前にしてとても寒くなりました。昼間だって大変な厚着をしていないと、凍えてしまいそう。京都はもう直ぐ雪ですか。ボローニャは・・・うーん、雪はなるべく降ってほしくないです。

2014/12/13 (Sat) 20:47 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは。
夢のようなお誘いありがとうございます。これも縁だと思うので、いつか行けるよう楽しみにがんばります。そのときはおすすめのワインをご馳走くださいね。夢見ています。

2014/12/14 (Sun) 06:03 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、そうです、どの繋がりも縁なのです。遠くに見えてもしょせん同じ地球の上。月や火星に行くのではないのですから。明るい季節も良いですが、寒いこんな季節のボローニャも、案外味わい深いのですよ。

2014/12/15 (Mon) 22:33 | yspringmind #- | URL | 編集

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