街中がそわそわしている

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長く一週間だった。雨も嫌と言うほど降り、私の気に入りのショートブーツが強かに濡れてがっかりだった。仕事も忙しく、ああでもない、こうでもないと言いながら夢中になって働いた。誰が感謝してくれるでもない。でも、中途半端は嫌なのだ。加えて、先週末から新しい仲間が増えたので、気になる気になる。そうしているうちに平日が終わり、やっと辿り着いた週末はロング・ウィークエンド。この言い方が昔から好きだった。アメリカに暮らしていた頃に聴いていたラジオのDJが心地よい声で言ったこの言葉。今も耳から離れない。Loooong weekend、こんな風にのんびりと言葉をのばして。その言い方を気に入っていたのは、別に私に限ったことではないだろう。今回の祝日は月曜日に命中してこんな嬉しいことは無い。職場を出る時に誰もが笑顔で挨拶するのだ。Buon Long weekend. イタリア語と英語が微妙に混じり合ったこの挨拶に、イタリアが、私がこの国に来た頃から少しづつ変化していることを感じる。それが良いかどうかは分からないけれど、こんなのもあり、こうでなくてはいけないなんてことは無いのだな、と実感するのだ。

街を行き交う人達は、もう、クリスマスのことで心が一杯、と言った感じ。それも仕方がないだろう、街中がクリスマスのイルミネーションに溢れているのだから。私とてクリスマスのことで心が一杯。クリスマスと、クリスマスホリデーのこと。今年のクリスマスホリデーは今までの新記録で2週間だ。こんな時には、例えばアムステルダムへ行きたいとか、初めてのパリを堪能してみようかとか、それともスペインのアンダルシア地方などはどうだろうかなどと想いを馳せたいところだけれど、この冬はボローニャから出ることは無いだろう。それでもクリスマスホリデーはよい。暖かい家に居ることだって感謝以外の何でもない。
ふと、アメリカで一番初めに迎えたクリスマスのことを思い出した。私が家族から遠く離れて初めて過ごす、クリスマスだった。うちではクリスマスと言えば家族で教会へ行き、そしてその晩は家族揃ってクリスマスの夕食を頂くのが習慣だった。だから遠く離れて過ごすクリスマスは、アメリカに行くと決めた段階でそれなりの覚悟はあった筈なのに、其れでいて、ちょっぴり寂しくて、独りぼっちを感じないわけにはいかなかった。友人のひとりは旅行を楽しんでいたし、友人のひとりは恋人と一緒だったし、その他の友人たちもそれなりに出払っていて連絡が付かなかった。私と共にアパートメントをシェアしていた友人ですら留守で、私はどうしようもない気持ちだった。だから朝から外に出た。10時くらいだった筈だ。何処へ行くでもなく、ただ歩き回るために。歩いているうちに思い付いた。そうだ、ケーキを作ろう、と。それで毎日、しかも一日中開いているドラッグストアに行ってみたが、店は閉まっていた。この店が閉まっているのを初めて見たから、私は酷く驚き、そしてアメリカではクリスマスとはそう言う日なのだ、と初めて理解した瞬間でもあった。そもそも街中がゴーストタウンのようだった。行き交う車もなく、歩いているのは私だけだった。家のキッチンにはそれなりの材料がある筈だったが、ひとつだけ足らないものがあった。それは前にケーキを焼いた時に使い切ってしまったもので、私はその後補充しておかなかったことを酷く後悔したものだ。がっかりしながら家へと続く道を歩いていて、思いついた。この近くに住んでいる友人ならば、きっと持っているに違いないと。彼女は恋人と楽しく過ごしているに違いないが、玄関先で帰るからと、家の呼び鈴を鳴らしてみた。果たして彼女は私の求めている其れをやはり持っていた。彼女は恋人と過ごすために腕によりをかけて料理をしている最中だったから、明日には買って返すからと、それを分けて貰って早々に退散した。ご機嫌で家に帰り、ケーキを焼いた。今ではどんなケーキだったか思い出すことが出来ない。ずっしり重い、刻んだ胡桃と砕いた苦いチョコレートがたっぷり入ったものだったのではないかと思うけど、それともあの当時、良く焼いたラム酒に漬けたレーズンのケーキだったのかもしれないとも思う。兎に角よく出来上がって、私はご機嫌だった。外は寒かったが、雨は降っていなかった。朝のうちは連絡が付かなかった友人に電話をしてみたら、どうやら先ほど帰って来たらしく、私達は埠頭へと続く坂道を歩くことになった。クリスマスだって、あの辺りならカフェのひとつくらい開いているに違いと思ったからだ。うちから坂を上り、長い坂道を下っていくと埠頭があった。30分も歩くと冷たい空気で頬が冷えた。私達はカフェに入ってお喋りをして、それから短い、30分ほどで観終わる映画を見て、その辺に開いている店を冷かして、そして、先ほどケーキを焼いたからと友人を家に誘った。もしかしたらアパートメントをシェアしている友人も、帰ってきているかもしれないから、と。そうして戻ってみると案の定、友人は帰って来ていて、私達はお茶を入れてケーキを頂くことになったのだけど、私は冷たい空気に当たり過ぎたからなのか、それとも気が付かなかっただけで体調を崩していたのか、私は扁桃腺を腫らし酷い熱でベッドに潜り込まねばならなかった。ごめん。誘っておいて、本当にごめん。ふたりでケーキを食べてくれる? 私はそう言うのが精一杯で、其れだけ言うと部屋に戻って寝込んでしまった。一晩中熱にうなされた。でも、翌日には熱が下がって、それだから余計に昨日のことが残念だった。クリスマスに熱を出すなんて、と。あれから私はクリスマスに体調を崩すのではないかと、心配でならない。そんなことがあってはならない。そんなことは絶対あってはならない、と自分に言い聞かせるのだ。

うちの新しい仲間は、毎日気分が変わるようで、可愛らしく近寄ってくると日もあれば、突風のような速さで脇をすり抜けて頭を撫でることもできない日もある。猫もそれなりに大変なのだろう。分からないでもない。大人で人生経験の長い私と相棒は、無理強いせずにどーんと構えて、猫がうちで愉しく生活する準備が整うのを待つのである。そうだ、ひとつ発見した。うちの猫はテレビが好きらしい。


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コメント

こんにちは。
きれいな飾りですね。あったかくなりました。飾りっ気なくていいなー。ドアの上の緑もごく自然に。あたりまえのことでしょうが、なかなかないですよ。
yspringmindさんが焼かれたケーキ、食べたいですね。私も25歳くらいに戻りたいものです。まっすぐな頃。戻られないなー。
こちらは、ずっと雲の中にいるような天気でした。ときどき、雪が混じりました。

2014/12/07 (Sun) 14:04 | つばめ #- | URL | 編集

またまた、こんにちは。
yspringmindさんの、こうでなくてはならないなんてないのだなという心境はよくわかります。こうでなくてはと思えば思うほどしんどくなりますから。ただ、わかっていてもよくばりになります。

2014/12/07 (Sun) 14:20 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。此処はインテリアや美しい食器を置く店の前なのです。店内同様、店の前の飾りつけもまた、美しく、通行人の目を喜ばせてくれるのです。あの頃はケーキをよく焼きました。人のうちに呼ばれた時や、人を招く時などに。店で買うお金が無かったからですが、今思えば人を喜ばせるためにケーキを焼く自分は、素晴らしかったとも思うのです。え、最近?全然焼いてません。
そちらは雪が混じりましたか。ボローニャの雪はもう少し先なようですよ。

2014/12/07 (Sun) 18:04 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、ふたつもコメントありがとうございました。昔の私は熱血で、こうでなければ!と思うことが沢山ありました。しかしそうすると世界が狭くなってしまうのです。だから何でもありで、取り敢えず受け入れてみることにしました。そう言うことで新しいことにも出会えることを知りました。いつまでも柔軟な心でいたいと思うこのごろです。

2014/12/07 (Sun) 18:06 | yspringmind #- | URL | 編集
こんばんわ。

小さな相棒の一つ一つの発見が、距離を縮めていってることの証かもしれませんね。
クリスマスツリー飾りつけた後写真でものせてくれたらいいなぁ。

2014/12/07 (Sun) 19:24 | inei-reisan #pNQOf01M | URL | 編集
Re: こんばんわ。

inei-reisanさん、こんにちは。距離が縮まってはまた離れ、互いに相手のことを勉強している感じです。クリスマスツリーの写真は後日載せますね。その前に猫に倒されてしまう恐れ、大いにありなんですけど。ははは。

2014/12/09 (Tue) 00:18 | yspringmind #- | URL | 編集

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