週末のこと

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長い一週間。ひょっとしたら、もうずっと週末がやってこないのではないかと心配したほどだ。勿論そのうち必ず週末になると知っていたにしても。色んなことがうまく行かない一週間は、そんな後ろ向きの気分になるものなのだ。其れに反して街を行き交う人々の楽しそうな様子。天気の良い週末とあって、テラス席でカフェや軽食を楽しむ人々の様子を眺めていたら楽しくなってきた。

バスの停留所に向かおうとしたところで、ふと足を止めた。シンプルなよい素材の衣服を置く店で、この秋のラインを確認しようと思ったからだ。ラインと言ってもこの店は、流行を追うような店ではなく、どちらかというと長く楽しめるようなシンプルなものが多い。店には客がひとりも居なかったので、一瞬躊躇いに似たものを感じながら、私は店に足を踏み入れた。Buongiorno. ちょっと見させてくださいね。そう言って店の人に声を掛けた。すると店員が明るい声でこう言った。Buongiorno. どうぞゆっくり見てください。それにしても私はあなたはシニョーラ、あなたのことをよく覚えているんですよ。私はそう言われて改めて彼女の顔を見た。確かに何処かで見た顔だった。其れも何か良い印象の顔。何処かで親切にして貰ったか、何か。思案している私を追い越して、彼女がその答えを教えてくれた。ほら、あの化粧品店で。シニョーラは香水を探していたでしょう? それで店になかったから、月日が掛かっても良いからと言って注文したでしょう? そこまで言われて思い出した。
私は、冬の終わりに香水を探していた。それは私が日本に居た頃、知人がつけていた香水だった。知人は香水の名を教えたがらなかったけど、私がもうすぐアメリカに行くと知ったとき、その名を明かしてくれた。この匂いを嗅いだ時、知人の存在を海のむこうでも思い出すようにと。それ以来、時々別の香水に浮気してはこの匂いに戻ってくる。もう23年もそんな風にして付き合っている、大好きな匂い。ところがボローニャ市内のどこを探しても見つからなくなった。昔からあるこの香水は、ついに時代遅れになったのだろうかと心配しながら、様々な化粧品店を渡り歩いた。そうしてほとほと困った挙句、市内に幾つも店があるボローニャではやり手の化粧品店に行って、注文できないだろうかと相談したのだ。店にないが、他の店舗や倉庫にあるのではないかと思ったからだ。店員は今も生産されていることを確認してから、コンピュータでエミリア・ロマーニャ州の全ての在庫を確認して、やっと見つけたその店に電話をしてくれた。ところがそれは他の客の予約分だったので、残念な結果に終わった。色々有難う。諦めます。そう言って店を出ようとする私に、店員が言った。シニョーラ、2週間後、もう一度店に立ち寄ってください。もしかしたら手に入るかもしれませんから。諦めるのはその時にしましょうよ。とても笑顔が素敵な店員に言われて、私は礼を言って店を出た。2週間後、仕事帰りに店に寄ってみた。恐らくこんな風に言われるに違いない。シニョーラ、残念ながらやはり手に入りませんでした、と。店に入るとあの素敵な笑顔の店員が奥の方から私を見つけて手を振った。シニョーラ、入庫できました。ほら。と言って見慣れた香水の箱を取り出した。私は喜びと驚きで開いた口が塞がらず、やっと出てきたのが、ありがとうの一言だった。私はそれを抱くようにして家に帰ったのだ。確か3月初めのことだった。
彼女はあの数か月後に店を辞めたらしい。それは昔から衣服関係の仕事に就きたいと願っていたからで、今はこの店に居るのだと言う。若いうちに色んなことを経験しておきたい。そしていつかはモーダ関係の仕事に就く、それが彼女の願いらしい。それにしても彼女は、とても感じが良い。それにこの店で働くようになって間もないのに、色んな知識があるようだ。素適なジャケットを見つけてしまった。あまりに彼女の感じが良いので、ついつい勧められるまま買い物をしてしまいそうになった。いけない、いけない。この秋は財布の紐をきりりと閉めておく約束だった。誰と約束したわけでもない。自分自身との約束なのだ。それにしてもあのジャケットは、私の好みにぴったりだったけれど。
それにしたって彼女はどうして私のことなど覚えていたのだろう。私はそれが不思議だった。

夜が早くなった。20時にならぬ前に、空がすっかり暗くなる。毎年のことながらこの季節は寂しくなる。夏という、仲良しさんが遠くに行ってしまうのがとてつもなく寂しく思える。


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コメント

お店の方との会話が楽しいですね。香水が見つかってみんなが嬉しいことも。。
此処に女性の本のみ置く窓の大きな書店があり、注文した本を渡してくれる時の
店主の表情がふっと浮かびましたよ。
素材のよい洋服のお店は読んでいるだけで心が弾みます。
秋のお洒落をする人が街に登場するとすてきでしょうね!

2014/09/28 (Sun) 05:30 | スプーン #EQkw1b1A | URL | 編集

香水もジャケットも気になりますが。店員さんで感じがいい人に会えたら、買ったものまで2割り増しいいものに思えますね。

2014/09/28 (Sun) 16:57 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

スプーンさん、こんにちは。店を見て歩くのは楽しいですが、何が一番楽しいかって、店の人とのお喋りです。彼女のおかげで再び香水が手に入りました。嬉しかった私が、彼女には印象的だったのかもしれませんね。
スプーンさんが暮らす街、何処なのかしらと想い廻らせています。女性の本のみ置く窓の大きな書店。何だか小説みたいではありませんか。そんな本屋のある街のカフェで、お喋りしながらカップチーノなどを頂くのは素敵なのではないかと。

2014/09/28 (Sun) 23:04 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。全くその通りなのですよ。感じの良い店員さん会うと、買ったものの価値がグーンとアップするyと私も全く同感なのですよ。2割り増し。うん、そんな感じです。

2014/09/28 (Sun) 23:06 | yspringmind #- | URL | 編集

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