美しいもの

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休暇明けの一週間は辛いものだ。承知していたくせに、その辛さに小さな悲鳴を上げる。仕事があるのは有難いことだけれど。そんな疲れを癒すために、毎晩美味しい赤ワインを頂く。それに旅の帰り道にグリッフェンに立ち寄って気に入りのパン屋さんで買ってきた黒パンにバターを塗って。そのバターだけれども、いろいろ試したがイタリア製ので美味しいものに巡り合ったことが無い。種類は色々あるけれど、どうしても私を満足させてくれないのだ。そうして見つけたのがデンマーク製バター。ほんの少し塩分もある濃厚なバターだ。舌の上でとろけるようなバター。冷蔵庫から取り出したばかりは堅いくせに、2分もテーブルの上に置いておくとナイフで薄く切り落とすことが出来るようになる。其れを薄くスライスした黒パンに塗ると、それだけで上等なワインのお供になる。うーん、美味しい。これはオーストリアで美味しい黒パンを買ってきた時だけに出来る、気に入りの習慣なのである。

ボローニャの街はすっかり平常のリズムを取り戻している。仕事が始まり学校が始まり、誰もかれもが忙しそう。そしてボローニャでは恒例のセラミック、主にタイルの見本市が始まって、それに参加、若しくは訪問している人たちで旧市街は満杯と言った感じである。ホテルの料金はいつもの数倍に跳ね上がり、こんなに高くて泊まる人が居るのだろうかと疑うけれど、実際そんな人たちが沢山いて満室なんてところもあるらしい。このセラミックの見本市は大変有名らしく、アメリカや日本などからも、人がこぞってやって来る。

随分昔にアメリカから戻ってくる飛行機の中で、この見本市に参加する人と知り合ったことがある。飛行機はニューヨーク発ミラノ行きだった。満席で身動きもできなかった。私は不愛想な男性の隣の席だった。ところが不愛想に見えたその人は、見かけによらず社交的で、不意に私に話し始めた。私がボローニャに住んでいると知ると、いやあ、僕もボローニャに行くんだけどね、と返してきて、彼がイタリアからの移民でニューヨークに長く暮らしていること、ニューヨークで内装用タイルを輸入販売する会社を営んでいること、これからボローニャのセラミックの見本市に参加することを長々と話し始めた。私はボローニャに住んでいると言ってもまだ一年やそこらで、彼が参加すると言う見本市を知らないと口をはさむと、彼は酷く驚いた。こんな大きな見本市のことを知らないなんて、と。そして彼は小さな紙切れに名前とブースの番号を書き込むと、時間があったら見に来るといいよと言って私に渡した。彼の名前はJerryとのことで、アメリカに長く暮らしているにしてもイタリア人らしからぬ名前だと思った、そんな記憶がある。年の頃は50を回ったくらいの、見るからにイタリア人らしい男性だった。私は見本市には行かなかったが、知人にその話をすると確かに見本市は大変有名で、世界のあちらこちらから関係者や関心を持つ人達が集まるのに、あなたは知らないのか、と此処でもまた同じようなことを言われた。18年前のことだ。あれから私はこの見本市が始まる度にあの飛行機の中でのことを思い出す。そうして一度覘いてみたいと思いながらも、未だにチャンスが無い。人混みが嫌いな私は、見本市のような場所が苦手なのだ。何時か何か本格的な機会が無い限り、私はこんな風にして毎年飛行機の中でのことを思い出しながら、見本市に行くこともなく、年月が過ぎていくのだろう。実に私らしい。これに限らず、別のことでもこんな調子で年月が過ぎていくのだ。

それにしてもイタリアのタイルは美しい。美しいタイルを自分の家の内装に施したいと思うのは、何も私に限ったことではない。イタリア人はそういうことに時間とお金を注ぐのが好きらしく、だからその手の雑誌が溢れている。こういうものを見て、美の感性が磨かれていくのか。それとも天性なのか。兎に角美しいタイルは、驚くほど高価でなかなか手が出ないのである。


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コメント

タイルは想像で、南イタリアの鳥や果物が描いてある陶器みたいなのかなとか、フィレンツェのマーブル模様の紙みたいなのかなとか、トルコのモスクみたいなのかなと、まあまったく知らないのですが、きれいなのですね。
ジェリー、トムとジェリーはアメリカでしょうね。イタリア人名に少ないのですね。

2014/09/25 (Thu) 15:46 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。イタリアのタイルは南イタリアの手描きタイルのようなものもあれば、実にシンプルでシックなものもあり、60年70年代のセンスのタイルもありで、見始めたらきりがないほどあるのですよ。しかし未だにフィレンツェのマーブル模様の紙みたいなのは見たことありませんね。存在するのかしら。
ジェリーという名前は恐らく彼がアメリカに暮らすようになってから自分に着けた名前なのではないかと思うのですが、どうなんでしょう。少なくともイタリアの名前ではないですよ。

2014/09/25 (Thu) 22:16 | yspringmind #- | URL | 編集

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