骨董品屋

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この旅の楽しみのひとつの骨董品屋めぐり。何処をどう行けばあの店に辿り着けるかは、頭の地図によく記されているから大丈夫。私達はまるで地元のようにトラムを乗り継いで行くと、あった、あった、覚えている場所に店があった。店は繁盛しているらしいが、肩透かしを食らったような気分になった。前はもっとものが雑多に置かれていて、隠れている宝を探す楽しみがあったのに。これでは食料品店の缶詰の棚、みたいだ、と言って私達は店から出た。旅行者が沢山来るのだろう、値段も随分つり上がっていた。

次の店は骨董品屋というよりは何でも屋と言った感じの店。私達にとっては価値のないものが半分、しかし残り半分は時間をかけて観察したい、興味深いものだった。1900年初期の鏡。何処から転がり込んだのか、この鏡は、店の奥で君臨していた。恐らくは旧ソビエト連邦から流れてきたものに違いない。幾つも絵画を堪能して、私達は店を出た。まだまだ行く店があったからだ。

3軒目はドナウ川沿いのトラムに乗って、地元の人たちが普通に生活している界隈だった。この店が一番押しで、私達はわくわくしていた。なのに店は閉まっていた。廃業だった。店が入っていた建物丸ごと売り出しに出ていて、店をたたむことになったのだろう。ああ、これは残念。張り紙を見る限り、店は夏前に閉まったようだった。

4軒目は多分あの道に在る筈だけれど、あまり自信が無かった。それを承知で再びトラムに乗った。一駅先で下車して、歩くのを渋る相棒を促しながら目指す。この辺りの筈だけど。大きな病院の前を歩きながら、次の角で右に曲がる。此処になかったら休憩にしよう、と思いながら。と、見慣れた入り口を見つけた。あった。相棒と一緒に店に入る。そうだ、確かにこの店だった。店主は勿論私達のことなど覚えていないだろうけど、私達は店主の顔をよく覚えていた。柔和で感じの良い、60歳近くのおじさんだった。此処は以前と少しも変わっていない。身動きが不自由に感じるほど、小さな店内に千程の宝が詰まっていた。ちょっと見せてくださいね、と断って私は店の中を物色し始めた。相棒はといえば、店主と世間話を始めていた。そのうち店主は私達を思い出したらしく、ははあ、そう言えば5年くらい前にあなた達は店に来ましたね、と言った。すると店主は急にリラックスして、色んな話をし始めた。私は絵画の物色に忙しく、話しをしていたのは専ら相棒だったけど。そのうち店主の幼馴染がやって来た。幼馴染は以前スイスのイタリア語圏に暮らしていたことがあったそうで、イタリア語を話すことが出来た。いやあ、こいつは一時此処から離れたけれど、やっぱりブダペストがいいんだよな、と店主は幼馴染が再びこの界隈に帰ってきたことを酷く喜んでいるようだった。この店で私は4枚の絵を見つけた。壁に飾られていた絵は一枚だけで、あとの3枚は店の隅っこや他の物の下に雑に置かれていた。店主はそんなものを見つけてきた私に目を丸めて驚き、そう言えばそんなものがあったね、と言って笑った。有名な画家のものなどひとつもない。でも、絵画とは有名な画家が描いたから素晴らしいと言うものではない。観た人が良いと思ったら、それが素晴らしいものなのだ、と私は思う。4枚の中から1枚を選んで購入しようと思っていたが、結局4枚買った。店主が驚くほどの値引きをしてくれたからだ。しかも頼んでもいないのに。そしてトラムに乗って持ち帰るのは大変だからと、ホテルまで車で送ってくれると言う。店はそれなりに営んでいたのだろう。しかしこのところの高度成長に伴う不景気に、困っていたのではないだろうか。其の上、店主が忘れているような絵画を欲しいと言う東洋の女。5年前に来た記憶を辿って店に来たと聞けば、店主としても悪い気はしなかったに違いない。オファーに頷く私達に、店主は店の奥から義兄が作った自家製の強い酒を持って来て私達にご馳走してくれた。パーリンカという、50度もある強い酒。5年ぶりの再会に。良い買い物に。楽しい時間が持てたことに。私達は幾度も乾杯をした。店主が以前心臓を悪くして倒れたこと、大きな手術をしたこと、タバコを止めなければならなかったこと、しかし医者の勧めで酒は毎日飲んでいいことを話してくれた。酒を断たなくてよかったのは不幸中の幸いだったと。店主は酷く機嫌がよくて、またブダペストに来たら立ち寄ってくれよ、とホテルへと向かう車の中で言った。近いうちにまた来るよ、と言う相棒。相棒の言葉を聞きながら、本当にまた近いうちにブダペストに来れそうな気がした。

長旅で疲れている筈の相棒が、笑っていた。とても楽しそう。絵を購入できたばかりではないだろう。多分、地元の人との接触を楽しんでいるのだ。無理に誘ってブダペストに来てよかったと思った瞬間だった。


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コメント

古い街並みなんでしょうね。
ピンクの建物の上部が特徴がありますね。
4つ希望の絵画に出会えてよかったですね。店主とパーリンカを飲まれて楽しそう。50度って強いですね。店主もご主人も楽しそう。
高度経済成長なのですね。

2014/09/21 (Sun) 16:47 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。ブダペストの旧市街は古い町並みが保たれていて、古すぎて崩れそうなものもあるけれど、修復して保ってほしいと思うのです。高度成長期、というのがぴったりです。イタリアもそういう時期を通過しましたが、今が一番わくわくして、そして正念場、というう感じです。地道な性格のハンガリー人たちです。頑張ってほしいですね。

2014/09/21 (Sun) 20:02 | yspringmind #- | URL | 編集

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