寄り道グリッフェン

快晴のボローニャに背中を押されるようにして、私と相棒は初秋の旅に出た。快晴とてボローニャは既に夏に別れを告げていて、初秋と言うに相応しかったし、私たちが向かうブダペストは既に朝晩が酷く冷え込んで、昼間だって半袖などでは歩けそうに無かった。幾枚も長袖を持ち、違う色と柄のスカーフを数枚、そして上着を鞄に詰め込んで旅立った。

ボローニャからパドヴァ、ヴェネツィアを通過して更に北へと向かう。イタリアとオーストリアの国境辺りに行くと空に幾重もの雲が空を覆って冷え始めた。そのうち雨が降り出して、ああ、やはりと溜息をついた。昨年の9月の旅もそうだった。この辺りは秋が来るのが早く、秋につきものの雨が頻繁に降る。そういうものだと思えばよいのだけれど、一年に一度しか来ないのに雨に降られると溜息が出る。降っているね。うん、降っている。私たちはため息をつきながらも、今年澪また雨に見舞われた不運が妙に可笑しくて、つい笑いが零れるのだった。約1000kmの道のりを数年前は一気に車を走らせたが、今回は2日に分けて走ることにした。ブダペストに到着した時、相棒が疲れ果ててしまわないようにと。泊まる場所は決まっていた。予約こそしていなかったけれど。私たちがいつも立ち寄るグリッフェンと言う村の宿。地図で見る限り割と大きな字で書かれているグリッフェンは、ひょっとしたら町と呼ぶべきなのかもしれないけれど、私が見る限り村と呼ぶのが相応しい。土曜日と言うのに高速道路は空いていて、ついていると思うと同時に淋しくもあった。国境からウィーンまでの道のりの、丁度真ん中辺りに位置するグリッフェンに着いたのは18時を過ぎた頃だ。走る車は少なく、歩く人もいない。土曜日と言うのに。宿はホテルではない。上の階が宿、地上階はバール兼食事処と言った、オーストリアを巡っているとよく見かけるタイプの場所である。初めてきたのは12年前。偶然見つけて泊まってから気に入って、今回が6度目だ。店に入っていくと店主は私たちのことを思い出したらしく、手を差し伸べて迎えてくれた。やあ、元気ですか。この宿に私たちのような客はあまり無いらしく、印象深かったらしい。いつの間にか覚えてくれた。一泊だけ。そういうと8号室の鍵をくれた。簡素がだ不足も無いこの宿は、清潔で静かでとてもよい。清潔なシーツとタオル、熱い湯が出て、美味しい食事がある。そもそもこの町の名前を知っている人もあまりいないから、宿もあまり知れていない。まあ、お馴染みさんが来る宿といった感じであるが、上手く商売しているらしい。
ひと休みしてから下りて夕食をとった。地元の美味しい赤ワイン。温かいスープと地元の牛肉料理。山ほどのサラダを平らげると流石にお腹が一杯になった。何か消化を促すお酒はないかと訊くと、僕が奢りましょうと店主が強い酒を注いでくれた。名前はよく分からなかったがプルーンを漬けた酒だという。イタリアで言えばグラッパのような類で、アルコールの度合いは40度を軽く越えている。強いが確かに消化を促す。胃がすっきりしてご機嫌だ。子供はどうしているの? 今年3歳でもうこんなに大きくなったよ。そう言って店主は背の高さを手で示した。大きいね。うん、大きいんだよ。そんな話をして居ると、古い友人同士のような錯覚に陥る。今夜は全然人が居ないから、もう店を閉めると言う店主に奢りの酒の礼とおやすみなさいを残して部屋に戻ってきた。幾らだったの? 24ユーロ。儲けがあるのか知りたいくらい安くて驚いたが、多分かなり割引してくれたに違いなかった。10月にはビール祭りがあって大変賑わうらしいこの村にまた遊びに来てみるのもよいだろう。私はビールよりもワインのほうが好きだけど。常宿があるのはよいことだ。多分この気のよい店主がここに居る限り、私たちはまた戻ってくるだろう。

明日は晴天になるだろうか。美味しいコーヒーの朝食をとったら、ブダペストへと発つ。


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コメント

まったく違う空気が伝わってきましたよ。スープやお肉料理おいしそう。気をつけて行ってらっしゃーい。

2014/09/14 (Sun) 08:20 | つばめ #- | URL | 編集

ここは階下は土地の人も食べに来る料理屋で旅籠のような処なのでしょうか
いい時間。長旅の途中でほっとしますね。 私も簡素で清潔が好きです
シーツがパリっとして、そして床が木だと尚更。。
宿の主人とのお喋りがとてもいいですね
私も南へ下る時に泊まったドナウ沿いの小さな宿を思い出しましたよ

どうぞ幸せな旅を~!

2014/09/14 (Sun) 10:06 | スプーン #EQkw1b1A | URL | 編集

その土地の美味しい食べ物とお酒を楽しみ、会話も楽しむ。
実に、居心地が良さそうな常宿ですね。
旅の疲れも、脳も、ゆったりと揉み解されそうです。

2014/09/14 (Sun) 16:17 | アルプス #- | URL | 編集

私も行きたい、ブダペスト。旅途中の散歩話。楽しんで読んでます。

2014/09/16 (Tue) 06:12 | inei-reisan #pNQOf01M | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。時にはボローニャから脱出するのはいいですね。違う空気、違う言葉。旅はそれだから止められません。

2014/09/19 (Fri) 19:35 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

スプーンさん、こんにちは。ここの地上階は地元の人たちも気軽にくる料理屋で旅籠みたいなものです。私達にはぴったりの、時間がゆっくりと過ぎていく宿なのです。まさに、 シーツがパリっとして床が木、なのですよ。スプーンさんにもピッタリでしたね!
ブダペストへという道のりは長いので、何時の頃からか此処に泊まるのが旅の始まりの儀式のようなものになりました。後なんかいそんな旅が出来るでしょうか。元気でないと長旅は出来ませんからね。

2014/09/19 (Fri) 19:43 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

アルプスさん、こんにちは。この宿との出会いは実に偶然だったのですが、運命だったのかもしれませんね。此処に泊まるのも旅の楽しみのひとつです。沢山客が来るに違いないのに、顔を覚えていてくれるのはやはり嬉しいことですね。良い眠りについて、日頃の疲れが溶けるような宿泊でした。

2014/09/19 (Fri) 19:46 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

inei-reisanさん、こんにちは。ブダペストはあなたの好きなパリとは随分違うけれど、魅力的であることには違いありません。私には十分すぎるほど魅力的で、私を掴んで離さないのです。

2014/09/19 (Fri) 19:48 | yspringmind #- | URL | 編集

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