雨が降る場所

DSC_0020 small


先週に比べれば確実に活気を増したボローニャ。まだ半分ぐらいが休暇中であるにしても、少数ながらも店が開き、いつもの生活に戻ろうとしている。それとも私がそう願っているからそう見えるのか。何にしても一年で一番閑散とした時期は通過したように思う。通過したのはそんな時期ばかりではない。どうやら夏も通過してしまったようだ。太陽の出ない朝。雨が降るのかと思えばそうでもなく、ただ曇り空で、何処からか乾いた涼しい風が吹いてくる。昼間の温度が30度に満たないボローニャの8月。この気温が実に快適であるとは言え、何か間違っているような気がするのは私だけではないだろう。涼しい風が居間の窓の前の栗の木をすっかり乾燥させてしまい、枯れた葉がかさかさと音をたてながら風に揺れ、仕舞にはやはりかさかさと音をたてながら地面に落ちる。栗と言っても焼き栗にできるような栗ではない。山栗でもない。調べてみたら西洋栃ノ木と言うものらしく、しかしボローニャ辺りでは一言で栗と呼ばれている。10メートルほどに成長したこの栗の木にたわわに実る栗が、風に揺られてぼとぼとと落ちるのはもう直ぐのことだろう。家の敷地内に植えられた栗の木、実っても誰も振り向きもしない栗の実。でも、誰が厄介がるでもなく、誰がこの木を切り倒してしまおうと言うでもない。木の葉や実が地面に落ちては住人が黙って拾い集める。案外私達は皆、この木を気に入っているのだ。春に咲く美しい白い花。優雅に伸ばす無数の枝。私達はこの栗の木と共に生活しているのだ。枝ぶりや木の芽、花の蕾や栗の実に季節を感じながら。

夕方の大雨。家の上空に真黒な雲が停滞しているなと思っていたら大粒の雨が落ちてきた。雨はあっという間に地面を濡らし、土のにいい匂いが立ちのぼった。懐かしい匂い。私が子供の頃から好きだった匂い。しかし今日に限っては、そんな感傷に浸っている場合ではなかった。何しろ私は今まさに家を出て、旧市街に行こうとしていたのだから。ちょっとした用事があって。空を見上げながら困ったことになったと溜息をついたが、10分もすると小降りになって、さあ、今のうちに家を出たらどうだい、と空が私に語り掛けているようだった。私は小さな傘を持って停留場に行き、ちょうど来た13番のバスに乗て旧市街へと向かった。そのうち空は明るくなり、ふと外を見てみれば雨が降った形跡もない。家の近くのバス停から500メートルも離れていないところだと言うのに。そして旧市街でバスを降りると、人々はついその先では大雨が降っていたことすら知らぬ様子で、傘を持ち歩く人の姿すらなかった。ボローニャではこういうことが多々ある。そんな時人々は、私の手元のびしょ濡れの傘を、あなた、どんな遠くから来たの? みたいな目で眺めるのだ。ボローニャからフィレンツェに通っていた時代にもよくあったことであるが、100キロメートルも離れた場所だ、そんなことがあっても不思議ではない。でも、ボローニャ市内でこんなことがあると、私はいつも思うのだ。ああ、私は何て天候に恵まれない場所に住んでいるのだろう、と。同じ市内なのに。同じ空の下なのに。私の用事は案外手短に済み、再び13番のバスに乗った。あれから小一時間経っている、そろそろあの雨も止んだだろうか。それとも・・・。大好きなジェラートの店CAPO NORDを通り過ぎ、あの店もこの店も過ぎた頃、再び大雨に遭遇した。まるで空に境界線が敷かれているかのように、其処を超えたら大雨になった。あっ。此れにはバスの運転手も乗客たちも驚いた。私はと言えば、行きのバスで経験済み。もう驚きやしない。ふふん、私は知っていた。きっとこんな具合だろうと。しかしそんなことを知っていてどうする。やはり私が暮らす界隈は天候に恵まれぬ場所なのだろうか。そう思うとちょっと残念だったりするのである。

今週末には多くの人達が町に戻ってくる。いつもの生活に戻るために。私の夏の休暇もそんな風に終わっていく。


人気ブログランキングへ 

コメント

強い雨ですね。西洋栃ノ木調べてみます。閑散とした街に人が帰ってくるというのは、人々が自然などの生き生きとした気をともなって戻ってくる感じでしょうか。

2014/08/20 (Wed) 07:44 | つばめ #- | URL | 編集

雨に濡れた緑がキラキラ輝いて、緑濃く大変美しいです。
樹木一本からでも空気の浄化を感じます。

夏休みは緑が多い静かな場所で過ごしたのですが、東京に戻って来てみるとまだまだ暑さが厳しく、日中街中を歩いているだけで全身汗だくになり、酷暑といった感じです。夕暮れ時には秋の訪れを感じたいのですが、東京はそのような気配はまだないようです。

2014/08/20 (Wed) 16:03 | アルプス #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。激しい雨が最近頻繁に降ります。しかもうちの辺りだけに。おかげで木々は喜んでいるようですよ。閑散とした街に人がかえってくるのは、一種、休暇が終わって残念でならぬと言った無念さと、一種いつもの生活に戻れる喜びでしょうか。もし人々が自然などの生き生きとした気をともなって戻ってくるのだとしたら、それはとても素晴らしいことだと思うのですよ。

2014/08/20 (Wed) 18:30 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

アルプスさん、こんにちは。私は元々、窓から樹の見える家に住みたいと思って探していたのですが、こんな樹が、自分の木でないにしても窓から眺められることを幸せに思っているのです。特に雨に強かに濡れた樹は美しいですね。確かに、空気の浄化、ですよ。
アルプスさんは緑が多い静かな場所で夏休みを過ごされたそうで、羨ましい次第です。東京にはまだ秋の訪れ、秋の匂いを含んだ夕暮れ時は望めませんか。其れもきっともう直ぐですよ、秋の虫の音色を耳にするのも。秋は人が知らぬ間に、そっと音をたてずに訪れて、私達をホッとさせるのです。そう願いましょう。

2014/08/20 (Wed) 18:36 | yspringmind #- | URL | 編集

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する