感謝と乾杯

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Buon Ferragosto. 今日は幾度、そんな挨拶を交わしただろう。8月15日は祝日。Ferragosto はイタリア人のとってNatale とPasqua に並ぶ重要な祝日で、聖母マリアが現世での生を終えて昇天した記念日である。この日を中心に夏の休暇をとる企業や店がとても多く、それだから只今街は砂漠化している。人々は郊外へと向かい、家族や友人たちと祝うのがスタンダード。だけど最近のイタリアは恐らく本来の記念日を祝うよりは単に休日を祝うといった感がある。それからFerragosto は夏の終わりでもある。本当に夏が終わってしまう訳ではないけれど、夕暮れが早くなり、残りの休暇も僅かで、晩の涼しさはもう今までとは少し違うね、と誰もがほんの少しセンチメンタルになるのだ。実際は休暇はまだまだ続くのに、Ferragosto の晩に空にちりばめられた星を眺めながら肩に夜風を感じると、ああ、どうして私達の夏は終わってしまうのだろう、ずっと続けばよいのに、などと、昔詩人たちが打ち寄せる波や黄金に輝く麦畑を眺めながら呟いたような言葉をふと口にしてみたくなるのだ。

イタリアに暮らし始めた頃はこの日になると山に行くのが習慣だった。友人家族が集まる山の家に行って涼しい夏の夜を過ごしながら他愛ないお喋りをしながら夕食を楽しむのが好きだった。今でもその頃のことを思い出すと山の夜風の匂いがしてくるようだ。大きな胡桃の木の下に置かれたテーブル席に座って過ごした夕方。それは食前酒の席で、友人家族の自家製の発砲ワインと自家製の生ハムともぎたての無花果を囲んだ。だから夕食は空がすっかり暗くなった21時過ぎで、皆がすっかり集まったのを確認してBuon Ferragosto と口ぐちに湛えながら、ワインに満ちたグラスをかかげて祝った。今年もまた全員が集まることが出来たことに感謝、美味しい食事を囲むことが出来たことに感謝。健康であることに感謝。私達は一体何度感謝して乾杯しただろう。年月は流れていくものである。5、6年ほど前から様々な事情で山の集会はしなくなった。自分が変化していくように、周囲の誰もが変化していくのだ。自然には逆らうことが出来ない。たとえそれが嬉しくないことであっても、時には受け入れなくてはならぬこともある。私達はそれらを時間をかけて学んでいった。

其れで今年だけれども、私はボローニャに居る。郊外へ行くこともなければ、楽しい夕食会もない。ちょっちと淋しいなあ、と思いながらグラスに白ワインを注ぐ。夕方降った天気雨で現れた大きな虹は、夜空のむこう側にまだ存在するのだろうか。8月にしては涼しすぎる今夜にグラスをかかげて乾杯する。Buon Ferragosto. 群青色の夜空が美しいこと。今日も元気なこと。感謝することはいくらでもある。案外私は幸せなのだ。


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コメント

さやいんげんと義父さんとの話し、亡くなったお友達の叔母さんと会った話しなど、なんだかその光景が目に浮かぶような、そして少しせつない空気が伝わってくるようなストーリーですね。誰の人生も切り取り方によってたくさんのストーリーにあふれていると思うのですが、それを忘れずに記憶にとどめて語れるというのは、ひとつのスキルというか貴重な資質のひとつのような気がします。yspringmindさんのブログを読んでいると、わたしまで忘れていたことをふと思い出すことがあります。

ひとつ前のポストの写真、ポスターと女性のスカートの対比が面白かったです。なんだかああいうティアードスカートって久しぶりに見たなあと思ったり。

2014/08/16 (Sat) 04:09 | mk #- | URL | 編集

そうやっていろいろな記憶を呼び起こすことができるのも、幸せなことなのでしょうね。
たまにはひとりも自由でいいですよねー。私はすぐ寂しくなっちゃうのだけども。
私は休みが終わってしまって、日常が一気に押し寄せてきました。
休み明けの仕事が一番憂鬱です・・・・

2014/08/16 (Sat) 04:36 | inei-reisan #pNQOf01M | URL | 編集

お久しぶりです

夏休みもなく・・・ただの休日の私

日本のお盆 日中は働いて 

15日は13人の家族が揃っての夕食となりました

あ・・・大学受験を控えた姪っ子は 一人部屋で勉強していたかな~

考えると ヒトの一生って あっという間ですね。

2014/08/16 (Sat) 07:16 | 春風 #jgTtIlIo | URL | 編集

8月15日が聖母マリアの記念日と今年初めて知り、日本ではお盆、終戦記念日といろんな日が重なるものだなと思っていました。
yspringmindさんのように、昔の人の詞を口にするのも素敵ですね。私は、ローマなど昔の人の詞はまったく知りませんが、古今東西縦横無尽にそういう引き出しがあったら楽しいだろうなと感じています。日本だったら、万葉集かなと。
胡桃の木の下の食事会は、とてもゆたかな時間ですね。

2014/08/16 (Sat) 14:28 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

mkさん、こんにちは。私は記憶にとどめておきたいようなものは全く覚えていられないのに、こうした自分が通過した出来事や感じたことは不思議なくらい鮮明に覚えているのです。多分それらは誰もが持っているスキルで、誰もが大切に胸の中の引き出しの中に大切にしまっているのだと思います。
ティアードスカートって・・・私も久しぶりに見ました。目の前を通過していく女性を見ながらタイムスリップした気分になりましたよ。

2014/08/16 (Sat) 18:54 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

inei-reisanさん、こんにちは。考え方によっては華やかなことのないツマラナイ生活。でも見方をかえれば幸せは沢山あるものです。
私は昔からひとりが全く平気だったので、変な人、と思われることが多かったようです。ところがですね、ひとりでいることが出来ると言うことは素晴らしいことでもあるのです。それは自分だけの静寂や、考える時間や、気がつく時間。かと言って人嫌いではありません。人と一緒の時間も尊いものです。
休み明けの仕事が一番憂鬱・・・・其れには全く同感ですよ。

2014/08/16 (Sat) 18:59 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

春風さん、こんにちは。夏休みが無いって・・・そんなことがあってよいの? 時にはゆっくり休暇をとって楽しめるといいですね。ところで15日に13人の家族が揃うってすごいですね。うちは少人数なのでどんなに集めてもそんな人数にはなりません。羨ましいことです。
人の人生はあっという間。私は決めたんですよ。これからの人生、沢山楽しもうって。

2014/08/16 (Sat) 19:02 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。確かに8月15日はいろんな日が重なりますね。イタリアのFerragosto は重要な祝日と言いながらも夏休みに重なって本来の意味合いが薄れつつあります。
イタリアには、そしてイタリア近隣国にも沢山の詩人が居ますから、この辺りの人達はその気になれば誰もが詩人になれる、そんなセンスを持っていて驚かされます。私達はもっと気楽に詩を書いてみるとよいのかもしれませんよ、ヨーロッパの人たちのように。

2014/08/16 (Sat) 19:07 | yspringmind #- | URL | 編集

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