贅沢な晩

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8月10日SAN LORENZOの日。この日の晩には沢山の流れ星を見ることが出来ると知ったのは、17年前のことだ。あの頃の私はローマの生活を辞めてボローニャに戻ったは良いが思うように仕事に就けず、じれったい思いを抱え込んでいた。じれったいと言うか、悲しかったと言うか。相棒と対等な立場でないような気がして、いつも頭を垂れて生活していたように覚えている。相棒が1ならば私も1でありたい。私はいつもそう願っていたから。出会った頃から私達は、そういう関係でいようと望んでいたから。兎に角そんな訳であまり良い思い出の無い17年前であるが、8月10日SAN LORENZOの日だけは楽しい思い出として残っている。ローマで知り合った知人がボローニャに遊びに来ていた。友人と言うには至らなかったが単なる知人よりはもう少し踏み込んだ仲だったのは、彼女が日本人で私同様にローマで戸惑う生活をしていたからだ。しかし彼女はもう少し私よりましで、と言うのはローマに沢山の友人知人を持っていたから。あれは本当に暑い日で、ローマから来た彼女はボローニャがこんなに暑いとは知らなかったと酷く驚いたものだ。そんな時、山に家を借りていた友人から電話を貰った。今夜はSAN LORENZOだから山の家で友人たちを集めてフェスタをするから、と言うことだった。暑いボローニャの街を離れたのは19時を回った頃で、しかし空はまだ酷く明るく、まだまだ昼間の熱がこもっていた。谷間の一直線の道は快適で、途中にひまわり畑があるので私の大の気に入りだった。ローマに住んでいる彼女にはひまわり畑は珍しくて、早く行こうと促す相棒をよそに私達はひまわり畑に夢中だった。そこからぐんぐん標高を上げて私達が夕人の山の家に着いたのは日没前だった。標高800メートルの山の家は空気がよく、空が近くて日没前の様子は特別だった。厳粛なというか、神聖なというか。山の家には既に沢山の人、それは30人近くの人が居て大騒ぎだった。キッチンで誰かが食事を準備してテーブルに置くや否や、あっという間になくなった。イタリアに住んでいたってこんな沢山のイタリア人ばかりのフェスタに行くことは滅多にない私は、そして彼女はもっとそんな機会が無いらしく、イタリア人の渦に巻き込まれてくたくたになった。もう眠くて、と言う私に皆が眠ってはいけないと言う。もう少し、もう少し。てっきり何か特別料理かデザートが出てくるものかと思っていたら、さあ、そろそろと言って皆が外に出た。外に出て見上げた途端に私は流れ星を見た。あ、流れ星! と空を指さして声を上げる私に、もう見たのか、君はついているな、と誰かが言った。そして周囲の人たちがようやく今夜はSAN LORENZOだから流れ星を見ることが出来るのだと教えてくれた。そこで私は思い出したのだ。其の2年前、イタリアに来て初めて迎えたこの日に私は相棒と友人家族たちとやはり標高の高いところに暮らすそのまた友人を訪ねて夕食を楽しみ、その後外に出て空を眺めて過ごしたことを。ただ、私はイタリア語がちっともわからなかったし、英語を話せる相手は相棒しかいなかったし、相棒は20年ほどアメリカに暮らしているうちにそんなことを忘れてしまっていたらしく、8月にしては妙に涼しい山の空気に肩をすぼめながら何時まで経っても解散にならない夕べに戸惑っていた。そうか、あの日私達は流れ星を見るために山へ行ったのかと理解して、ようやく喉につかえていた胡桃のかけらみたいなものが取れたような気分になった。ところで30人近くも集まって空を見ていると言うのに、流れ星を見たのは私だけだった。何しろ私は空をずっと眺めていたから。いったい幾つ見ただろう。両手の指では数えられぬほどだっただろうか。山の空気は冷たくて気持ちがよかった。あまり沢山の人が居たので、隣の家の山羊たちが眠りにつけなくて困っていた。

あれから数年後私は仕事を得た。山に居た友人たちは別れてしまい、二度と一緒に大騒ぎすることが出来なくなった。皆が新しい道を歩み始め、元に戻れないことを残念に思いながら、しかし先に進むしかなかった。私は仕事を得たことで再び元気を取り戻した。これ以上良いことは無かったが、例えあんな大騒ぎに誘われても参加できないかと思うと少し寂しかったりもする。翌朝にお仕事のことが気になって、遅くまで楽しめなくなったから。参加したら最期、遅くまで付き合うのが私達の礼儀だったから。

先ほどからテラスで流れ星を探しているが、こんな街中では見ることが出来ないのかもしれない、と諦めた。その代りに真珠のように輝く満月を堪能した。流れ星に満月。空気の澄んだ山に暮らす人々は、そんな贅沢な晩をどんな風に過ごしているのだろう。贅沢な晩。長椅子に寝転がって、冷たい白ワインをちびりちびりとやりながら、終わりのないお喋りを楽しみながら空を眺めているのだろうか。


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コメント

流れ星って見たことがあるような、ないような。はっきりした記憶がありません。たくさん集まった人達の中で一人だけ見たなんて、みんなお喋りに夢中で気を取られていたのかしら。イタリア人にまじって息をつめて夜空を見上げる日本人女性二人の姿を想像しちゃいました。

ところで、お昼寝できないんですね。まあ、もったいない。お昼寝大好きです。特に夏の日の。今日もダウンタウンから自転車に乗って帰ってきて、ついソファの上で1時間ほど寝てしまいました。極楽と思いつつ、笑。

休暇、引き続きお楽しみください。ワイン屋さんマップ、広げてくださいませ。

2014/08/11 (Mon) 03:01 | mk #- | URL | 編集

エクストラスーパームーンの昨日は眠ってしまい、今日月を見ました。それでも大きくて「わっ。」と声が出ました。玉子の黄身のようなお月様でしたよ。でも、何と例えたらいいのか、ぴたりとくる言葉が思い浮かばない月でした。
サンロレンッオの流れ星きれいだったでしょうね。

2014/08/11 (Mon) 14:54 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

mkさん、こんにちは。私はイタリアに暮らすまで、流れ星は見たことがありませんでした。私があの日あれほど沢山の流れ星を目撃できたのは、空をずっと眺めていたからです。イタリア人はお喋りのほうに夢中で空を眺めては目を離し、そうしては見逃していたのですよ。でも、おかげで私は首の付け根が痛くなって、翌日頭痛に悩まされました。
私は昼寝が苦手です。これは子供の頃からで、今も頑固にできません。よほど具合の悪いときか、よほど疲れている時以外は日中眠ることが出来ないのですよ。
今日は大変暑い一日でした。実に夏の休暇って感じの暑さで、こんな暑くてはワインどころではないかと、困ったものです。でも週末にかけて少し過ごしやすくなる予報なので、ワイン、ワインと今から楽しみなのです。うふふ。

2014/08/11 (Mon) 23:29 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。昨夜の満月は美しかったですが、今夜のは不思議な黄色い光を放った、これまた美しい月でした。テラスに出て月を眺めながら、他のおうちの人達は月に関心が無いのかしらと不思議に思いましたが、どうやら皆さん、夏の旅行でお留守のようですね。置いてきぼりの気分です。ところで昨晩はひとつも流れ星を見ることが出来ませんでした。もっと空気の良い、山へ行かなくては駄目なようですね。

2014/08/11 (Mon) 23:33 | yspringmind #- | URL | 編集

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