涼風

DSC_0013 small


週末の雨。と言っても朝から降っていた訳ではない。すっきりと晴れてはいなくとも、其れなりに明るく、まずまずの週末の始まりと言った感じだった。朝っぱらからカンカン照りよりは良い。近年めっきり暑さに弱くなった私は、相棒にそう言った。相棒は早くも簡単な朝食を済ませて、出掛けるところだった。私はと言えばいい身分で、まだシーツに包まったまま、今日は何をしようか、何処へ行こうかと、全くの極楽とんぼだった。

10時過ぎには家を出た。昼前には戻ってきたいからと言う理由で。何故昼前なのかと言えば、午後から雨が降りそうな予感がしたからだ。降る降ると言いながら降らない日もあるけれど、今日と言う日はなぜか本当に降りそうな予感がした。この蒸し暑さが証拠だった。背後にたっぷりと水分を含んだ空気が隠れているような。旧市街は早くも人が少なくなりはじめていた。多くの店が夏のサルディ、つまりセール中だったが、大抵の人達はサルディが始まった数週間前に買い物を堪能しているので、店内は案外寂しげだ。そういう私は引っ越しで出足をくじいてしまったから、そんなガラ空きの店内に吸い込まれては好みのものが無いことにがっかりしながら、しかし其れで良かったような不思議な気持ちに包まれながら店を出た。そのうち私はいつも気になっていた店を思いだして、店が昼休みで閉まるであろう少し前に訪れることに成功した。大通りからあまりぱっとしない路地に入った直ぐ其処に在る、道にあまり似合わない洒落た雰囲気の店。初めて入る。こんにちは。そう言いながら中に入っていくと、接客中だった店員がこちらに顔を向けた。と、互いに顔を見合わせて驚いた。あらまあ、びっくり。こんにちは。と言ったのは彼女のほうで、彼女は私の好きなフランスワインの店、私がフランス屋と呼んでいる店で働いている女性だった。訊いてみれば今だけ店を手伝っているのだと言う。恐らく店主が友人か何かなのだろう。サルディで忙しい今月だけ此処にいるのよ、と言って私にウィンクを投げかけた。店は大した繁盛ぶりで、こんな場所にあるこの店に此れほど人が入っていることに私は驚いていた。彼女は先客から解放されると私のところにやって来て、あれこれ見せてくれた。フランス屋に居る時と同じように彼女は全くてきぱきとしていて気持ちがよかったが、先入観なのか、彼女にはやはりフランス屋でワインをグラスに注いでいる姿が似合うような気がした。彼女に勧められた、そして私も大変気に入った濃いピンクの木綿のシャツを購入した。私が勘定を済ませると他の客のところに居た彼女が飛んできて、次回は別の店で会いましょうね、やっぱりあそこで会うのが一番しっくりくる、と言って私の笑いを誘った。そうね、次回はあの店で会いましょうね。

濃いピンク色のシャツだなんて。思ってもいなかった買い物だったが、気に入ったのだから良いではないか。そんなことを思いながら家路につくべく13番のバスに乗り込んだ。旧市街を取り囲む環状線から外に出た途端、雨が降りだした。それは気まぐれな小雨だったが、塩が錆を呼ぶ、と言うのが同じ言い方とは思えないけど、小雨が大雨を呼びそうな気配がした。家に戻って濃いピンクの新しいシャツを取り出した途端、雨が、それはぽ泥くような黒い雲に覆われた空からばらばらと落ちてきた。本格的な雨。土曜日にそんな雨が降るなんて。もうすぐ7月が終わると言うのに。7月に似合わない雨。7月らしからぬ涼風。涼しくて嬉しいような、ちょっぴり残念なような。


人気ブログランキングへ 


コメント

こんにちは。お引越、無事に終わったようでよかったですね。新しいポストを楽しみに時々のぞいていました。前のコメントも見てくださってありがとうございます。

濃いピンクのシャツ、素敵です。子供の頃いわゆる女の子はピンク、という先入観がどうにも嫌でピンクを毛嫌いしていたのに、数年前からすっかりピンクが好きになりました。それも濃いピンクとか、フーシャピンク。新しいシャツ、ぜひぜひ夏に活躍させてくださいね。セールで残り物の中にいいものが見つかると喜びもまたひとしおですよね。

桃の写真のおいしそうなこと!ちなみにサインは英語でしたが、観光客向けなのですか。それともジョークとして英語?それとも普通に英語?

2014/07/27 (Sun) 06:09 | mk #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

mkさん、こんにちは。引っ越して、ただ今家の中を片付け中です。いったい何時完了するでしょうか。
濃いピンクのシャツはそうですね、フーシャピンクですよ、まさに。こんな色を着るのは20代前半以来なので、薦められて躊躇しましたが、取り敢えず試着してみようと思って来てみたら・・・あら、いい感じ。何でも先入観はいけませんね。そういう私も子供の頃から思春期にかけて、女の子は赤やピンクと言われていたことに強く抵抗を感じていて、緑やブルーを好んでいましたっけ。
ああ、桃の写真のサインが英語であることに気がつきましたね。イタリア人は決して触らないので、此れは旅行者向けに違いありません。

2014/07/27 (Sun) 21:58 | yspringmind #- | URL | 編集

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する