心が沸き立つ6月

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近所のバールで相棒とカッフェを頂いていたら、声を掛けられた。声を掛けてきたのは近所に暮らすマリーノで、彼は私にとっては単なる顔見知り、相棒にとっては案外仲の良い知り合いだ。この辺りには私達のようにこの数年の間に暮らすようになった人たちもいるが、子供の頃からずっとこの界隈に住んでいる人達が沢山いて、マリーノもそのひとりである。マリーノはトリュフ探しが好きなことで名が知れている。私はと言えばマリーノから、時々収穫の一部を分けて貰ったりするのだが、中でもトリュフを練り込んだバターが絶品だった。これを幅太の卵入り手打ちパスタに絡めていただくと、ほっぺたが落ちてしまいそうになるのだ。またお裾分けがあることを期待しているのだが、さて、一体何時になるだろうか。マリーノは幼馴染のカルロの姿が見えないが一体どうしたことなのだ、と心配しているらしかった。カルロは私も良く知っている。私達の知人よりも、もう少し親しい関係の年配の男性である。もうじき70歳になるくらいの。カルロは昔から考えていたそうだ。年金生活に入ったら、沢山旅をしようと。しかし奥さんが飛行機恐怖症なのでピカピカのキャンピングカーを購入して、ここ数年は近隣国の旅を楽しんでいるのだ。其のカルロは先週フランスへと旅立った。それを知っていたのは、その前夜に偶然道端で出会ったからだ。食前酒を楽しんでいい気分で歩いていたら、向こうからカルロと彼のお兄さんと奥さんの3人組が頬を赤くして歩いてきた。彼らはレストランで夕食を楽しんだ帰りで、美味しいワインを飲んだんだよと嬉しそうに言った。それは旅立ち前の夕食で、暫くお兄さんとも会えないから、ということだったらしかった。カルロたちがフランスに旅立ったこと、少なくとも2か月は帰ってこないことを伝えると、マリーノは旅立つ前に会えなかったことを残念がった。彼らは幾つになっても幼馴染の仲良しなのだ。

そう言えば、相棒の両親がまだ元気だった頃、6月の声を聞くと早いうちに予約しておいた夏の家にいそいそ出掛けて行った。夏の家はアドリア海の町チェゼナティコにあって、彼らは毎年冬が終わるか終らないうちに予約するのだ。ボローニャから脱出して、沢山太陽を浴びるために。シチリアやイオニア海、それからプーリアの海が澄んでいて素晴らしいことを知っていながらも敢えてチェゼナティコに拘ったのには訳があった。彼らはエミリア・ロマーニャ州から外に決して出たくなかったからだ。そして折角海の町に行っても、彼らは10日に一度はボローニャに戻って来たかったのだ。彼らにとってボローニャは、どうしても離れたく無い町だったのだろう。私はそういう彼らを妙な人たちと思っていたが、ボローニャにはそういう人は案外沢山いて、知る度に驚かされるのである。姑が病で倒れて、舅はチェゼナティコへ行かなくなった。その代わりに山に家を借りた。もう少しでトスカーナ州という辺りに。しかし決してトスカーナ州には行かなかった。彼にとってはボローニャから離れるのが、其れほど嫌なことだったのだろう。だから自分の町から遠く離れたところに長く暮らしている私のことを、理解できない嫁、と思っていたに違いない。彼が天に召されてしまった今は、もう確認することもできないけれど。それにしても相棒の両親も2か月休暇を楽しんだ。イタリアでは2か月がスタンダードなのだろうか。私もいつか2か月の休暇を楽しめるようになるのだろうか。
カルロたちがボローニャに戻って来る頃、ボローニャは酷く暑くなっているに違いない。すると彼らは暑い暑いと言って、再び旅に出るのだろう。涼を求めてきた北スペインやポルトガルの北の方へと。昨年そうであったように。そうしてお兄さんがこう言うのだ、カルロたちはもっとボローニャに居なくてはいけないな、と。そういうお兄さんも冬になるとスイスにスキーをしに行ったきり、暫く帰ってこないのが恒例だけど。

私の夏休みはまだ10週間も先。その間に楽しい計画を立てることにしよう、と私が言うと、その前に早く引っ越しを終えなくてはいけないよ、とマリーノが笑った。穏やかな青い空。人々の心が夏の休暇のことで沸き立つ6月。


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コメント

トリュフバターのパスタとてもおいしそうですね。
幼なじみが大人になってもずーっとつづくって、かっこつけたりせずに素のままで生きてるってことかなーと想像しました。よく、おしゃべりしてそうですね。
自分の住んでいる州からなにがなんでも出ないっておもしろいこだわりですね。愛なのかな。私はすぐ出たくなりますが。
2ヶ月の休みは長いようだけど、おいしいもの食べて話して、ゆっくりして、あっという間なのかなと思いました。

2014/06/02 (Mon) 16:10 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、トリュフバターを絡めたパスタは私の好物のひとつです。シンプルだけど風味の高い、トリュフならではの技でしょうか。この近所の幼馴染たちは本当に面白いです。70歳近くにもなって、皆が集まると少年のような表情になり、お腹をよじらせながら笑ったり。私は幼馴染という幼馴染がいない(多分いない。)、ちょっとうらやましくなるのですよ。それにしても自分の州から出たくないと言う頑固さには驚きましたが、こういう人って案外沢山いるんです。州、イコール、国という感じです。私もつばめさん同様、すぐに外に出てく派なんですよ。

2014/06/02 (Mon) 17:55 | yspringmind #- | URL | 編集

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