上階の夫婦

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今月に入ってこの春購入した小さなアパートメントの住人会議が2度もあった。今夜はその2度目で、私は少々うんざりしていた。其れと言うのも購入するまで建物の修復やらなにやらを控えていることを知らなかったからだが、一番の理由は月曜日の晩だからだ。ここの住人会議は月曜日の晩が恒例らしく、多分それなりの理由があるに違いないが、今のところ私にはわからず、それでなくとも憂鬱な月曜日がますます気重になるのであった。住人会議と言っても管理人のほかに4家族しかいないけれど、しかし其れであっても出費が伴う話し合いなので皆それはそれは真剣で、時々意見を求められてはまるで授業中に皆の前で源氏物語の一説か何かを暗誦せよと不意に教師に指名された時みたいに、私はどぎまぎしてしまうのだった。夜の11時まで続く住人会議をうんざりしているのは他の家族も同様らしく、こんなに頻繁に住人会議をされては困るのでこの議題は是非今夜決めてしまおうと意見する私に、そうだそうだ、と皆が賛成し、おかげで帰りが遅くなったが半月か、長ければ一年は住人会議を開かずに済みそうだ。それにしても月曜日から大変疲れた。住人会議のせいだけではない。月曜日のせいだ。

ところで上階の夫婦は大変洒落ものだ。20歳前後の息子と娘がいるので、想定年齢は55歳前後である。夫は随分髪が白くなり、口髭さえも白くなっている。肩まで着くような髪。カジュアルスタイルだが、いつもきちんとした仕立てのジャケットを着ている。カラフルな色のコットンパンツで素足にスリッポンを履いている。妻の方も髪がグレーになりつつある。何か大切な職に就いていると聞いているが、威張った感じは全然なくて、それどころか好感度抜群だ。彼女は夫ほど衣服に力を入れていないが元々センスが良い人らしく、他の人が身に纏ったら全く普通に見えるシャツやカーディガンをさらりと粋に着こなして、大抵なめし革の赤いモカシンを履いている。これは彼女に非常に似合っていて、それが彼女の印象を更に良くしているように見えた。そんな彼女が今夜は興味深いネックレスをしていた。たっぷりした長さのチェーンネックレスを二重に巻いていた。素材は何かのメタルらしく、銀色に光っていた。品の良い、美しい光を持つネックレスだった。私の横に座った彼女のそれが、私は気になって仕方なかった。話し合いを終えて立ち上がろうとした彼女にネックレスのことを訊いてみたら、彼女は一瞬びっくりして、VIA SAN FELICEをずった行ったところの右側の店で買ったと言った。古い店なのよ。昔からあるからあなたもきっと知っている筈。そこまで言うと彼女はにやりと笑い、ほら、これは量り売りのチェーンなの。メートル単位で売ってくれるのよ、と言った。どうやら店はボタンなどを売る裁縫道具店か何かで、彼女はそういう店で面白いものを見つけてはアクセサリーにしてしまうらしい。素敵な彼女。私はそんな彼女とこれから毎日顔を合わせるのかと思ったら、嬉しくなった。これから、と敢えて言ったのは、まだ入居していないからだ。引っ越しは6月上旬の予定。そして予定は何時だって未定なのだ。


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