寄り道ワイン

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気温が急降下して寒い午後になった。時に帰り道はまだ18時にもなっていないのに13度しかなくて、その上、小雨を伴う風が吹いていたから、体の芯から冷えてしまいそうだった。運がよかったのは、そんなこともあろうかと思って少し重ね着をしてきたことだ。薄着姿で軽快に行くのも良いけれど、格好つけて風邪を引いたら後悔しても後悔しきれないと言うものだ。冬から春にかけて酷い風邪を引いてからというもの、私は常に寒さに気を付けているのである。首に巻いた薄いシルクのスカーフが私に安心感を与えてくれる。だから例え気温が上がっても、こっそり鞄の中にしたためておこうと思う。そういうことで私が安心していられるならば。

仕事の帰りに旧市街の食料品市場界隈で買い物をした。手打ちパスタを2種類。少し高いがレストランに行くことを思えば、決して贅沢とは思わない。家で気に入りのワインの栓を抜いて、美味しい夕食をとるのは1日頑張ったご褒美のようなものだと思う。昔はそんな私を相棒が、贅沢者と窘めたけど、何時の頃からか木が変わったらしく、そんな私に同意するようになった。無駄遣いは好ましくないけれど、人生を楽しむための少しくらいの出費はいいよね、と。そういうのを楽しむための投資と考えれば良くて、しかし手打ちパスタくらいであまり大袈裟なことを言うのはよしておこうか。さて、店を冷たい風雨の中を歩いていると体が冷えて、どうしようもなくなった。温かいカップチーノでも頂こうかと思いながらも、本能が赤ワインを選んでいつものフランス屋に飛び込んだ。寒いわね、と言いながら。一度は此処の仕事を辞めて2度と会えなくなってしまったと思っていた店の女性がこの春の初めに戻って来て、今日は彼女が働いていた。運がいいい、と思った。彼女とは感覚が合う。大した話はしないけれど、何となく一緒に居て気分がいい。こういうのを相性がいい、と世間一般では言うに違いない。彼女と私はは単なる売り手と客の関係でしかなくて互いの名前すら知らないけれど、たとえ街の何処かですれ違ったとしても、互いに人混みの中に見慣れた顔を見つけ出すことが出来るに違いない。彼女も私に負けず劣らずの寒がりらしく寒い寒いと言いながら、こんな日に丁度よい深みのある赤ワインを選んだ。名前は生憎憶えていないが、兎に角2007年の良いワインの栓を抜いてくれた。此れが売り切れてしまう前に、ぜひ試してもらいたい、売り切れたら最後、この年のものはもう手に入らないからと彼女は言ったが、成程繊細で味わい深いワインだった。そのうち店には親子が入って来て、パテやチーズやワインやらをごっそり買い込んで出て行った。この辺りに暮らす人達らしい。ぽーんと50ユーロも使うなんて気前がいいと思った。私はワインを頂きながら店の中を物色しているうちに1本の白ワインに関心を持った。ボルドーの白で、ラベルには大きくアルファベットの一文字が記されていた。それが自分の頭文字ということで、関心を持った訳だった。何かお祝いごとの時に、そうだ、例えば近いうちにある引っ越しを完了した時などにどうだろう。そう思って店主に訊いてみると私にはちょっと手の届かない値段がつけられた、なかなか手に入らないワインだった。店にも2本しかないんだよ、とのことだった。がっかりする私が不憫に見えたのか、店主は奥から冷えた白ワインを持ってきて、小さなグラスに注いでくれた。奢りだよ、と言って。舐めてみるとそれはほんのり甘くて、爽やかで初夏のような印象のワインだった。イタリアの甘いワインとは根本的なところで違うような、そんなワイン。味わう人をうきうきさせるようなそんなワイン。外は風雨で酷く寒そうだが、私は初夏のような軽快な気分だった。私はそれを引っ越した日のお祝いの為に1本購入して店を出た。

時々寄り道ワインをするのは良い。ちょっと気軽に、テーブルなどにつかない、カウンターでの立ち飲みワイン。それにしても日没前にして東の空がほのかに明るい。奇妙な明るさの空である。明日は良い天気になるのかもしれない。


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