新鮮な大蒜

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昼間の気温が上がりきらない。もう少し暖かくてもよいのではないかと思うけど。ところが午後になって風の匂いが変わったと思った途端、急に春の空気に満ち、見る見る間に綿毛が飛び出した。それは宙に浮遊する、という言い方がぴったりくるような。綿毛の出どころは街路樹。この街路樹に使われている樹は、手間いらずに育つ上に安くて丈夫、しかも上へ上へと伸びるために夏場は良い日除けともなる。と言うことで何十年も前の人達が好んで植えたそうである。でも、綿毛については誰も考えなかったのか。この綿毛のせいで、目がかゆくなったり鼻がむずむずしてくしゃみが出て大変なのだが。この季節になるとこの綿毛が憎くてならないが、綿毛が飛び回る、つまり暖かいと言うことだ。寒がりの私だからうれしい以外の何物でもない。だから綿毛くらい良い、ということにしておこう。

夕方、旧市街の小さな店で新鮮な大蒜を見つけた。4つが一束になって1ユーロもしない。私は大の大蒜好きで、家の大蒜が切れると大変困ったことになる。いや、たとえその晩大蒜を使わないにしても、大蒜が無いと言う事実が私を心配させるのだ。どうしよう、大蒜が無い。大蒜が無くては料理が出来ないではないか、と。そんな私を周囲の人達は笑うけれど。大蒜が好き、しかも新鮮な大蒜は特に好き。そんなことを考えながら大蒜を眺めていたら、店の奥さんが出てきて訊ねた。大蒜ですか? それで思いついて聞いてみた。私は新鮮な大蒜が好きなのだけど、奥さんは新鮮な大蒜と普通の大蒜とどちらが好き? すると奥さんは当然と言うような口調で、新鮮な大蒜よ、だって風味も味も比較にならないほど良いものね、と言った。其の言い方が気に入って、大蒜を一束を紙に包んで貰った。そうしてパン屋さんや惣菜店の店先を眺めた後、13番のバスに乗った。途中で匂いが鼻を突いた。私の持っている大蒜の匂い。ああ、困った、ともじもじしていると隣に座っていた男性が私の方を見た。奥さん、大蒜持っているでしょう、と言うような顔で。ああ、ごめんなさい、いい新鮮な大蒜を売っていたから、と言い訳すると男性は思いがけず大きな声で笑って言った。ははは、そうか新鮮な大蒜か、それはいい、と。私はますます肩身が狭くなり、できれば小さな鼠になって何処ぞの穴に逃げ込みたい気分だったが、どうやら男性はこの匂いが好きらしい。あと3つで自分が降りる停留所だからとこの場を乗り切ろうと試みたが、隣の男性の大きな声が私を畳みかける。大蒜大蒜と先ほどから連呼するのに耐えられず、あ、降ります、とついにふたつ前の停留所で降りてしまった。ああ、恥ずかしかった。新鮮な大蒜を買ってバスの乗るのはもう絶対に駄目。私はとぼとぼ歩きながら思った。大蒜が好き。でも、大蒜を買ってこんなに後悔したことはない。

大蒜を沢山食べてばりばり元気になるんだから。何か月も病んで月日を無駄に過ごしてしまった分、此れから存分楽しまなくては。其の為には元気でなくてはね。


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