窓辺

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2日続けて夜明け前に大雨が降った。深い眠りについていた私の目をはっと覚まさせるほどの激しい降りで、地響きにも似た低い雷音がベッドに静かに横たわる私を怯えさせた。この手の雨はあまり記憶にない。こうもしっかり目を覚ましてしまっては、なかなか寝付けぬ。幾度も寝返りを打っているうちに夜が明け、新しい一日が始まるのだ。かと言って私は起き上がるでもなく、この2日間寝たきりだ。月曜日の午後から熱が上がりだし、あっという間に完敗となった。大人にしてはこんな熱は珍しいと体を横たえながら分析し、この件については海のはるか向こう側に暮らす家族には言わないほうが良いだろうと考える。今年の始まりから、私は頻繁に寝込み、俄かに自分の健康がおかしいと思っているのを、家族もまた同様に心配しているからだ。今までの自分ならば、なあに、すぐに良くなるさと笑い飛ばすところなのに。最近弱気になっている。私はどうしてしまったのだろう。そんなことを考えながら窓の外に広がる美しい空を眺める。夜明け前の雨に洗われて青く澄んだ空に浮かぶ白い雲。ずっと遠くに見える緑の丘の更に向こうまで広がる青い空と浮かぶ雲を見ていると、いつかみたルネサンス時代の絵画の世界に引き込まれる。トスカーナの何処かの風景。夢と現実の判断がつかなくなると私は眠りに落ちていく。

私が相棒と結婚をするにあたり、ボローニャの家族に会いに来たのは21年前のことだ。私達はアメリカに暮らしていて、イタリアの響きが妙によく聞こえた時代だった。イタリア称賛、そんな時代だったと思う。どの旅行雑誌も旅行番組もトスカーナ一色だったから、実を言えばボローニャの家族に会いに行くというのは単なる口実にすぎず、私の本当の目的はトスカーナだった。あの絵画のような風景をひとめ見たいと。私のイタリア訪問は予定通りにいかないことばかりで一時は楽しいことのひとつも得ずに終わってしまうのではないかと失望しかけたが、帰る1週間くらい前にやっと巡って来たのだ。トスカーナへ。あれはウンブリア州からの帰り道で、車をシエナへと走らせた。運転には自信があると言って胸を張る相棒だったが、何しろアメリカ生活が長くなりすぎて、感覚が狂っているらしかった。幾度も道を間違えてシエナに着いたのは予定の倍の時間が経ってからだった。シエナ旧市街は曲がりくねった石畳の路が此処にもあそこにもと、まるで大木の根っこのように伸びていた。それは迷路のようであり、それは不思議への路だった。俗に言う大通りよりも裏通りへ。私はひたすら歩き、相棒がその後に続いた。そろそろ道に迷ってもよい頃だと思うのに、必ずさっき来た道に辿り着くのが不思議でならなかった。歩き疲れ、そろそろ次の目的地へと移動することになり、フィレンツェへと車を走らせた。その途中で私は見たのだ。あっ、車を止めて。と声を上げた私に相棒がブレーキを踏んだ。何しろ前後に車が居ないような田舎道だから、そんなこともできたのだが、相棒は酷く驚いたようだ。私は窓の外を指さすのが精いっぱいだった。なだらかな緑の丘。広がる空に羊のような雲が幾つも浮かび、雲の隙間から光が射す。美しい、ルネサンス時代の絵画に描かれた、トスカーナの丘の風景が、春の空気に包まれて輝いていた。あの日から私は、ルネサンス時代の絵画が本当に存在した風景なのだと信じるようになった。何故なら私はずっと心の中で、腕の良い画家によって作り上げられた景色だと思っていたのだ。本当にあった。本当にあった。私は嬉しくて、あれから何度相棒に同じことを言ったかしれない。

ベッドから眺める空はあの日に見た空に似ていて、あれから随分年月が経ったのにあの日のことを今でも覚えていることを嬉しく思った。良くも悪くも今ではどっぷりとイタリアの生活に使ってしまった私は、それに抵抗するかのように長い休暇の度に国外脱出を企てるが、あんなにイタリアの情景に心を奪われて恋したこともあったのだ。多分、手に入らないものが好きなのだ、私は。別に悪いことではない。穏やかな空。こんな日に寝込むなんて全く間抜けな話である。明日は元気になりますように。


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コメント

体調が思わしくないのは残念ですが
でもそんな時に、ベッドの中から美しい空が見れるのはいいですね。
なんだか空も応援してくれているようで。

こちらは昨日へと日が変わった頃から美しい皆既月食が見られました。
月の右上には地球に一番(?)近づいていた火星、月の右下にはスピカも輝き
オレンジ色に浮かぶ皆既月食との不思議な光景が見られました。

占星術的な情報を書いていた知人のブログによりますと
15日の月食、23日のグランドクロス(これ、何でしょう?笑)、
そして29日の日食と続く今は大きな変化の動きがあるらしい。

yspringmindさんは今年に入ってから体調不良の日々があったようですが、
これからはもっとお元気に過ごせる日々へと変化されますように。

街を楽しく闊歩されているyspringmindのお姿が思い浮かびます。
ご自愛されていて下さい。
お大事にね!




2014/04/16 (Wed) 18:25 | るみこ #- | URL | 編集

その景色、とてもすてきなのでしょうね。感動が伝わってきます。モナリザのバックみたいな景色かなと想像しました。光がちがうんでしょうか。日本人がイタリアにあこがれを抱くのはなんでしょうね。私もですが。テレビを見ていると大概の国の人は、地元をすごく賞賛するのはあまり日本に居て見られないことで、島国だったり大陸だったり歴史に裏付けられたことかなとか思ったりしています。

2014/04/16 (Wed) 19:15 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

るみこさん、こんにちは。私の体調はまるで春の空のようです。不安定で自分の体なのにコントロールが利かずてこづっています。しかし空が美しいと、ベッドに横になっているのも案外良いもので、私は不調ながらも空を堪能しました。
ボローニャでも美しい満月を見ましたが、皆既月食だったのですか。いやあ、知らなかった。ショック。最近酷く情報に疎いので、単なる満月だと思っていましたよ。それにしても健康が一番。早く散策を堪能したいものです。

2014/04/18 (Fri) 21:53 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。あれは本当に美しい景色でした。写真でもあれを表現するのは、難しいのかもしれません。空気の色や光が違うのかもしれないし、湿度なども関係するのかもしれません。あれはアメリカでも見たことが無いし、日本でも見たことのない景色でした。イタリア国民はイタリアの美しさに大変誇りを持っているようですが、成程ねえ、と納得すると言うものです。でも、私達の日本にも日本特有の美がありますね。日本を離れて、そういうことを強く感じるようになりました。

2014/04/18 (Fri) 22:10 | yspringmind #- | URL | 編集

あっ、アメリカでは綺麗な皆既月食でしたが
日本ではほぼ分からないほどの部分月食だったそうです。

もしかしたらイタリアでも、ほんの少しの部分月食だったのかもしれないですね。

これから日差しが強くなるにつれ、体力が増しますように!
太陽エネルギーのパワーは中々侮れませんね。

2014/04/18 (Fri) 22:51 | るみこ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

るみこさん、成程。見る場所で違うのかもしれませんね。それにしても月が大好きな私なのに、全くうっかりしました。
ああ、有難うございます。太陽の光を浴びなくては!これに勝る薬はないですよね。と言いながら、ボローニャはしばらく雨模様が続くようです。

2014/04/19 (Sat) 15:11 | yspringmind #- | URL | 編集

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