冬の新調

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新年の楽しみのひとつは冬のサルディ(セール)だ、と言ったら相棒とその知人たちに酷く窘められた。しかし悪いことではないと思う。何しろついこの間まで定価で店に並んでいたものが、急激に値段を下げてくれるのだからこんな嬉しいことはない。ここ数年、12月から大幅値下げをしていたボローニャ。しかし今年はお役所の目が厳しいらしく、1月3日までどこも行儀よくいつもの値段をつけていた。サルディは4日からである。

昨夕、偵察という名目で旧市街の店を外から見て歩いた。普段は手が出ないこれというものをえいっと買うのが良い。この冬の私の、これ、のひとつはボルサリーノの帽子である。何しろ敷居が高いので頻繁に店に足を踏み入れることはあまりない。店の外からショーウィンドウを覗くことはあっても、そのリバティ調の古い扉を押し開けてはいることは一年のうちにほんの僅かなのだ。ガッレリッア・カヴールの店が閉まってから一年が経ち、ボローニャのボルサリーノ帽子店と言ったらマッジョーレ広場から直ぐ其処の、昔からずっと在るリバティ調の小さな店だけである。しかしこの店ときたら最近あまりぱっとしない。ショーウィンドウのディスプレイの切れ味もなければ、新作も並ばない。どうしたのだろうと心配していたのだが、兎に角サルディの下見がてら様子を伺ってみようと思って店に入った。ブォナ・セーラ、と言いながら店に入ったが客も居なければ店員も居なかった。あらら、と戸惑っていると奥からいつもの店員が出てきた。私が知る限り、彼は此処に一番長く勤める、一番感じの良い店員だ。これこれこんな帽子が欲しいのだけど、といつもの調子で自分がイメージしている帽子を説明すると、彼は少し困ったような表情をした。今シーズンは新しいデザインの帽子が入らなかったのだと言う。何故なら1月31日にて店を閉めることになったからだ、と。私は一瞬耳を疑い、自分でも驚くほど大きな声で、今何と仰った?と訊き返した。彼はもう一度静かな声で、今月末でボローニャのボルサリーノ帽子店が無くなることを宣告した。ああ、こんなことってあるだろうか。どんな不況でも、ボローニャからボルサリーノ帽子店が無くなるとは夢にも考えたことがなかったことだ。そうなんです、それで今シーズンは新しい帽子が入りませんでした。彼はすまなそうな顔で瞼を閉じた。彼が店を閉めることを知らされたのは10月初旬だったそうだ。長いことこの店で働いている彼はどんなに残念に思っただろうか。それでこれからどうするの? もう仕事は見つかったの? お節介ながら彼のことを心配すると今の世の中あまりに不景気で、次はまだ見つかっていないと言う。しかしこの店を閉めた後に入る店舗も帽子店らしいから、淡い期待を寄せているのだそうだ。何しろ長年帽子ばかりと付き合っていた彼だ。彼が薦める帽子に失敗はない。帽子のサイズだってその人の頭を見てすぐに言い当てる。そんな彼が次の帽子店で採用されることを彼と一緒に私も願うのだった。そう言う訳で私はこの冬ボルサリーノの帽子を新調することはできず、しかし近い将来名前の違うこの場所で彼と再会できるように、幸運がありますようにと固い握手を交わして店を出た。外は冷たい1月の風が吹いていた。何か親友が遠くに引っ越してしまうような気分を味わいながら帰り道を歩いた。

さて、今日は4日の土曜日。朝方雨が降ったのか、湿っぽくて寒い一日。帽子が手に入らないと分かったからには、新しい冬の温かいコートを新調するとしよう。横で相棒が驚いているのをさらりと流して、笑顔で家を出た。


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コメント

写真は服屋さんですか?ランプシェードみたいのがありますが。
普段の手のでないものをえいっとー、同感です。私は、もっともっと安いもんなんですが。普段、我慢してるわけではないけど、思い切れない物をこの時期ならえいっと買えそうです。コート楽しみですね。暖かいもの。なんか、ヨーロッパの人たちは黒が多い気がしますがー。あれは、フランスかな。気のせいかも。

2014/01/05 (Sun) 07:16 | つばめ #- | URL | 編集

yspringmindさん、こんにちは

新年、明けましておめでとうございます^^


帽子屋さんが、無くなるなんて・・・

時代の流れなんでしょうかねぇー

何とも、複雑なエピソードです


食いしん坊な私など

ボローニャに行ったら

本場ボロネーゼを、食べる!そんな想像しか出来ませんがねぇ^^;


何はともあれ

本年も、よろしく御願いいたします

2014/01/05 (Sun) 15:17 | 高兄 #eP1cGWnA | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。この写真は服屋さんのショーウィンドウです。面白いディスプレイだったので大変気に入りました。何しろ定価から3割から5割引くので、エイッといいものを選びます。こんな時でなければ買い物できませんからね。私の場合、いやヨーロッパの人たちもそうですが気に入ると5年は勿論10年くらいはごく普通に着用しますから。ヨーロッパの人は冬はダークな色合いが好きなようです。私が購入したのも濃紺。こういうクラシックな色は何年も切ることができる、と言うのも理由の一つかもしれません。

2014/01/06 (Mon) 00:08 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

高兄さん、明けましておめでとうございます。
帽子屋さんがなくなるのは時代の流れ…そうですね、そう考えればそうなおかもしれません。昔のように帽子を被るのが普通の習慣でなくなった今日、帽子屋さんの商売は自然と縮小するのかもしれませんね。
イタリア人の一部の人たちは大変モダン化していて歴史や古くからの習慣や文化に目もくれないのですが、大半の人はそうしたものを大切にしているので、せつない気持ちになるのです。
今年もお付き合いお願いします。

2014/01/06 (Mon) 00:13 | yspringmind #- | URL | 編集

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