温かいスープと赤ワイン

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ヴィエンナの日曜日は静かだ。12月などというクリスマスの月だから、店が開いているかと思えば何処も堅く扉を閉めていた。開いているのはレストラン、そしてカフェ。そのカフェだってトラムに乗って少し中心地から離れれば当然の顔してしまっている。昔のボローニャがそうだったように、ヴィエンナは今も頑なにそんな習慣を守り続けているらしかった。

たっぷり時間をかけて写真展を見終え、風変わりな建物から出た私は、少し散歩してからトラムに乗って中心街に戻ってきた。それは何か温かいものでもお腹に入れて、再び元気よく歩こう思ったからだった。何か温かいもの。そう、例えばスープなど。それから黒パンをかじりながら赤ワインなどを頂くと良いのではないだろうかと思ったのだ。ところが開いている店は何処も満席で、テーブルに着いた人々は浮かない表情だった。どうやら席に着いてからも注文に取りにこないか、それとも注文はしたが何時まで待っても注文の品が出てこないか、そんなところだろう。幾軒もの店に入っては出た。そうだ、と思いついて一軒のカフェを目指したところ、そこもまた大変な客入りで待ったところでテーブルが空くのを望むのことは出来そうになかった。時間はもう14時を回っていて、腹の虫が大騒ぎだった。路上に置かれたホットドッグの店が妙に繁盛しているのは、そんな背景があるからに違いなかった。しかし私は嫌だったのだ。この寒空の下でホットドッグを立ち食いするのは。もしそれが夏場だったら、少しも気にならないに違いないのに。私は暖房の効いた暖かい店の中の小さなテーブル席に腰を下ろして、この冬の重いオーバーコートを脱いでほっと一息したかったのだ。私のそうした希望は、どんなことをしても曲げられそうになかった。しかしどうしたものか。そんなことを思いながら歩いていた時、目に入った。カフェ・オペラ。オペラハウスの一角にあるカフェ。前日の晩、何やら高そうな店だと思いながら奥まったところに存在する店を横目で眺めながら通り過ぎた、その店だった。目に留まったのも何かの縁。そう思いながら重い扉を開けると、いくつかのテーブルが空いているのが見えた。ひとりです、と言いながら人差し指を立ててみせると糊の付いた白いシャツ姿の給仕が窓際の明るい小さなテーブル席に案内してくれた。店内には菓子を頂く客と食事を頼んだ客が半々くらい。腕時計を刺しながら食事はまだできるのかと訊いてみたら、勿論ですよと嬉しい言葉が返ってきた。温かいスープとパン、そして美味しい赤ワインを。メニューを見ることなく注文する私に給仕は少々驚いたようだが、勿論ですよ、と一言残して奥に入っていった。私は寒そうな顔をしていたに違いない。革の手袋をしていたのに、指先がひどく冷たかった。先に出てきた赤ワインを一口すきっ腹に流し込むと、喉から胃袋にかけて熱い液体が流れるかのように感じた。おかげで少し体温が上がったようだ。ひと息ついて周囲を眺めると、中高年の客が多かった。若しくは母親と年頃の娘。旅行者らしい客は私ひとりのようだった。内装は古めかしく、きらびやか過ぎず。素晴らしい装飾もない。ヴィエンナのカフェらしからぬような、しかしそれがとてもヴィエンナらしいような。ボローニャではカフェよりもバールに入ることの方が多い私だから、このくらいの方が肩がこらないと言うものだ。出された温かいスープは私の頭からつま先までをほんのり温めて、黒パンを齧りながら赤ワインを頂くとすっかり元気が戻ってきた。そろそろ店には午後のおやつを求める客で混み始め、これっぽっちの食事で長々と居座らせて貰ったことの礼を述べて店を出た。悪くなかった。高いだろうと覚悟をしていたが、恐らくはこの界隈の店の中でも良心的な値段に違いない。それに給仕の感じが良い。少なくとも私はそんな印象を得て、思いつきで入ったことを嬉しく思った。

冬のヴィエンナの夕方は早くやって来る。うっかりするとすぐに暗くなる。それでなくても、こんな天気で薄暗いのだから。ホテルに帰る前に2時間ほど歩いた。どこもしっかり閉まっているが、それを承知で見て歩く人々。角の青い店は何やら興味深いものが置いてあるらしく、先ほどからひとりのウィンドウショッパーが釘づけだった。近所の住人だろうか。毎日の日課の午後の散歩だろうか。日曜日のヴィエンナ。暫く忘れられそうにない。


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コメント

旅をしている気分になってきましたよ。黒パンは、少し酸っぱいのでしょうか。窓側に座るの、素敵ですね。

2013/12/30 (Mon) 13:54 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。旅はいいですね。色んな発見があります。黒パンはそれほど酸味が強くなくて食べやすい物でした。何もはさまなくも、何のパテを塗らなくてもそれだけで十分においしいです。
ところでカフェは窓際に座るのがやはり楽しいと思うのですよ。大抵それば一等席で一番先に塞がってしまうものですが。

2013/12/31 (Tue) 16:05 | yspringmind #- | URL | 編集

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